連載コラム 自然エネルギー・アップデート

嘆くのではなく、祝福しよう:電力会社を崩壊させる自然エネルギー
この記事は、ロッキーマウンテン研究所のサイトに2014年2月6日に掲載されたエイモリー・ロビンス博士による”Let’s Celebrate, Not Lament, Renewables’ Disruption of Electric Utilities”の日本語訳である。 英語オリジナル


2014年7月25日 エイモリー・B・ロビンス ロッキー・マウンテン研究所 共同創設者、主任研究員
自然エネルギー財団理事

欧州では自然エネルギーの躍進が続き、低炭素の電力システムを基幹電源にしつつある。2012年の欧州の新規発電導入容量の69%、米国の新規発電導入容量の49%を自然エネルギーが占めた。当然のことながら、これは、時代遅れのビジネスモデルと化石燃料の発電を手放そうとしない電力会社にとって、脅威である。

2013年10月に、Economist誌が、赤字の続く欧州電力会社の嘆きを取り上げた特集記事を掲載している。この記事によれば、欧州の電力上位20社は、2008年と比較して企業価値の半分以上、金額で言えば5,000億ユーロ(約65兆円)以上を失ったという。これは、欧州の銀行の損失を上回るものだ。そのため、電力会社の多くは、自然エネルギーとの競争を緩和する、もしくは回避したいと考えているという。実際、欧州の大手電力会社では、ドイツのE.ONやRWEなどが深刻な状態にあり、上位10社のうち5社で信用格付けが引き下げられている。米国の一部電力会社も同じ状況だ。最近では、Jersey Central Power & LightとPotomac Electric Power Co.が、フィッチやムーディーズ、スタンダード&プアーズ、クレジット・スイス、その他から格付けの引き下げを受けた。

長く補助金で支えられ、未だに補助金を受けていることがままある古い寡占企業が、イノベーションに背を向けて競争に敗れたときに、救済したり競争から保護したりすべきだろうか。こうした欧州の大手電力会社は、最初の10年間の排出割当クレジットを無償で受け取っていたにも関わらず、排出クレジット価格を電気料金に転嫁、電力消費者に料金を負担させていた。この「棚ぼた利益」で得た数千億ユーロの資金で、自然エネルギーの普及に向けた再投資を行うはずだったが、そうしなかったのである。今頃になってようやく大手電力会社は、改革を推進してきた者たちがすでに数十年前から警告してきたとおり、古いビジネスモデルが「破壊的技術」によってひっくり返されようとしていることを理解しつつある。

破壊的技術とは現状を打破し、価値ある変化をもたらすものである。固定電話の位置が脅かされるからといって、携帯電話を排除すべきだっただろうか。デジタルカメラの登場で、フィルムカメラはほとんど廃れてしまったではないか。紙の新聞はインターネットの台頭に対抗するために、新たなビジネスモデルを開発すべきではないだろうか。

当然、旧態依然としたシステムを捨てようとしない電力会社は、投資家に損をさせている。確かに、適切に設計された技術中立的な容量市場などいつくかの市場改革は、価値があったといえるだろう。しかし、失敗した投資戦略に報酬を与えるべきではない。21世紀の技術とスピードは19世紀や20世紀の制度やルール、文化と同じではないのだから、もはや電力株のパフォーマンスが国債と同じではないとしても、投資家も驚くべきではない。幸いなことに、新しい技術や新たな環境規則、その他の規制や政策の変化などの「周知のリスク」を受け入れることで株主はすでに埋め合わせされており、支払いを二度受けとる必要はない。

自然エネルギーだけが既存電力会社の課題ではない

Economist誌も認めているように、こうした電力会社の財務危機は自然エネルギーだけが原因ではない。自然エネルギーは、こういった状況に拍車をかけたという罪をかぶせられることが多いが、この状況そのものを引き起こした原因ではない。化石燃料発電への過剰投資は、いずれにしても電力会社の財務を悪化させていただろう。世界的な景気低迷により電力需要の拡大が鈍化しただけではなく、エネルギー効率向上の革命によって、欧州と米国の両方でエネルギー需要拡大の趨勢が逆転し始めていたためだ。米国ではGDP1ドル当たりの電力使用量(気象調整後)が、2012年だけでも3.4%減少した。多くの地域でエネルギー効率向上が電力供給の拡大を上回っており、電力会社の売上は減少している。

米国では、石炭火力発電の多くがシェールガスにとって代わられた(ただし、2012年中の減少は効率化によるものの方が2倍近く多かった)。米国で売れ残った石炭が欧州市場に押し寄せ、値段の高いガスに一時的に取って代わった。一方で、太陽光発電が、電力会社にとって利益の大きい昼間のピークタイムの市場を奪い、最大電力需要時の価格プレミアムを大幅に下落させた。特にドイツでは、自然エネルギーに対して完全な優先系統接続と優先給電が認められているため(論理的に、燃料が必要などの発電設備よりも稼働コストが低い)、需要が低いときに多量の自然エネルギー電力が供給されると、卸売市場でマイナス価格が成立することがある。これは、柔軟性の低い旧来の発電所を稼働し続けるためにマイナス価格を負担しなければならない電力会社にとって、さらなる負担になるーさしずめ電力会社としては、すべてのコストを、新たな競争相手である自然エネルギーに転嫁したいところだろう。自然エネルギーの価格が低下を続け、また現在よりもはるかに高い料金で締結された古い売電契約が終了するにともない、電力会社の苦境は深まっていくだろう。

自然エネルギーの方が有利だ

Economist誌の記事は「自然エネルギーの成長は既存の電力会社を脅かしている。既存の電力が、信頼性がより低く、とても高くつく電力によって代替されつつある」という。旧態依然とした既存の電力会社を脅かしつつある、というのは事実だろうか。そのとおり。これは重要な公共利益を達成するためである。しかし、“信頼性がより低く、とても高額な発電方式に取って代わられつつある”のだろうか。そうではない。

自然エネルギー電力は系統を不安定にする、あまり信頼性がないという不安がかきたてられているが、そのような証拠はどこにも存在しない。中欧の送電系統では、電力取引の普及によって電気事業者は、常に変化する自然エネルギーとその他のエネルギーの供給割合を調整できるようになっている。ドイツ(2012年の自然エネルギー比率23%)やデンマーク(同41%)の電力は、欧州でもっとも信頼性が高く、米国(2012年の電力のうち水力が6.6%、その他自然エネルギーが5.3%)よりも約10倍優れている。欧州電力網の周縁部でも、スペイン(2013年上期で48%)やポルトガル(同70%)が高い信頼性を維持している。こうした実績は、Economist誌記者の「(ドイツ)政府の政策が求めるように、2020年に自然エネルギーが市場の35%に達したとき、何がおこるか誰にも分からない。」という疑問を解消してくれるだろう。その答えは、「おそらく排出量が減り電気料金が下がるだけ」である。

「とても高額だ」という主張も、精査すれば霧散してしまう。米国では、中西部の新規風力発電が25年固定名目価格(したがって実質では低下していく)で1MWh当たり$22(約2.2円/kWh)の低価格で販売され、西部の新規太陽発電は1MWh当たり$70(約7円/kWh)を割り込んでいる。これはいずれも補助金を含まないが、補助金の額は一般に非自然エネルギーよりも低い。今や、全米の多くの州で、太陽光発電や風力発電は、効率性の高い新設ガス火力発電所との価格競争に勝っている。ブラジルやチリなどの国では、補助金を受けていない風力や太陽光発電が、電源入札で勝つことが常態化している。欧州でも、風力や太陽光発電には十分な経済性がある。日照時間の少ないドイツには太陽光発電の設備容量が35ギガワットあるが、2004年以降、補助金は支給されていない。Economist誌も認めているように、ドイツの太陽光発電コストは家庭向け電気料金(電気料金の半分は税金が占めている)より低く、また現在も受け取っている(現在も卸売価格よりコストがかかるため)固定買取価格(FiT)より低い。つまり太陽光発電は、ドイツでは、FiTがなくても成長を維持できる段階にある、ということである。

「とても高額だ」という表現は、デザインに不備のあった欧州の炭素市場が修正され、もはや排出権がタダ同然ではなくなった現状では、むしろ多くの非自然エネルギー発電にあてはまる表現だ。その証拠となる一つが、ヒンクリー・ポイント原子力発電所だ。英国政府は、フランス政府が株式の84%を保有するフランス電力会社(Électricité de France;ÉDF)に建設してもらい(一部を中国が出資予定)、この原発が英国の電力の7%を発電することを望んでいる。ÉDFの同意を得るために、英国政府は、現在の卸売市場水準の2倍に当たる35年間の物価連動固定価格に加えて、65%の債務保証、その他の譲歩案(ほとんどが依然非公開のままだ)を提示しなければならなかった。

この大盤振る舞いが「違法な国庫補助」に対するEUの調査を乗り切れたとしても、このプロジェクトは民間から建設費を調達できない可能性がある。投資家たちは、米国中西部の補助金なしの風力発電価格の7倍(英国は欧州でもっとも風力資源が豊富)、米国西部の補助金なしの太陽光発電価格の3〜4倍(いずれも下落を続けている)のコストがかかる原子力発電は論外で、将来、英国政府が契約を反故にして民間資本を危険にさらす可能性もある、と考えるだろう。あるいは単に、極端にコストの高い電力を使用するよう市場に無理強いしてもうまくいかないと考えるかもしれない。英国政府がすべての選択肢を透明な価格で競争させれば、安価で効率的な、デマンドレスポンスや、自然エネルギーやコジェネレーションなどが選択肢になるだろう。米国では、高額な資本コストはずっと昔に償却されているのに、既存の古い原子力発電所は運転するだけでも経済性がないと判断されて、今年だけで5基廃炉になっている。新設原子力発電所の資本コストがきわめて高いため、100%を超える建設補助金を8年間給付するとしたにもかかわらず、民間から資金を調達することができず、9基の新しい原子力発電所の建設計画が今年撤回された。

欧州では原子力発電を求める声が大きく後退している。フィンランドやフランスの旗艦原子力事業で、予算や建設期間が少なくとも倍増していることなどが理由だ。フランスでは原子力維持派が依然として政治的影響力を保っているが、国営電力会社は原子力発電所の修繕費をまかなえるだけの十分な料金を徴収できておらず、老朽化原子炉を廃炉にする財源が数百から数千億ユーロも不足しており、交換費用もまかなえないため、代替策の検討に迫られている。そのヒントは、自然エネルギー先進国ドイツにある。ドイツは脱原発と脱石炭を進め、電力の4分の3を原子力に頼るフランスとの電力取引で、唯一、一貫して純輸出国であり続けている。

自然エネルギーこそが勝者

電力会社の収益性の低下は、自然エネルギーが利用者にもたらすメリットの裏面である。自然エネルギーが拡大したことで、ドイツの卸売電力価格は過去5年間で60%近く下落し、多くのドイツ企業に利益をもたらした。系統接続料や自然エネルギー促進賦課金の支払いを3段階で免除する制度を利用した数千社が、年間数十億ユーロのコストをドイツの一般世帯の電気代に転嫁した(ドイツの自然エネルギー促進賦課金のうち、一般世帯の自然エネルギー賦課金が占める割合は、実際にはわずか15%で、しかもその大部分は価格が高い古い契約のもの。残り85%は卸売価格の下落と産業用支払い免除を反映)。しかし、2014年に入ってからは、卸売価格の下落がドイツ一般世帯の大部分にも波及しつつあり、家庭用電気料金は安定化に向かっている。

さらに、ドイツ国民は、わずか600ドルで自然エネルギーへの少額投資が可能で、20年間安定的かつ魅力的な利回りが保証されている。ドイツの大部分の自然エネルギー発電能力は、大手電力会社が広く投資を拒絶してきたため、それに代わって一般市民や地域社会、共同組合が実現してきた。また国内で38万2,000人以上の新規雇用や、福祉支援、企業収益や輸出による利益、税収、卸売電力料金の下落など、自然エネルギーによって、長期的なものだけでなく現時点ですでに、ドイツにマクロ経済上の純利益がもたらされている。

新たなビジネスモデルの必要性

旧来の電力会社の存在が、かつて考えられていたように低リスクな投資ではなくなったことを嘆いて、その利益を保護する方法を考えるよりも、先進的な電力事業者や破壊的技術を持つ新興企業が、クリーンで分散型の自然エネルギーを動力とする新たな電力システムを構築し、その本来の目的である、信頼性が高く、障害に強く、安全性に優れたクリーンな電力を妥当な価格で提供することを実現できるよう、支援すべきである。これこそが、今、世界市場の趨勢である。

ドイツだけでなく、世界の4大経済大国からさらに2カ国、つまり中国と日本、またインドでも、水力以外の自然エネルギーの発電が原子力発電を上回りつつある。2012年には中国の風力発電からの発電電力量が、原子力発電所(世界でもっとも積極的なプログラム)からの発電量を上回り、石炭火力発電所の稼働は低下した。中国では、原子力と化石燃料の合計を上回る、水力以外の自然エネルギー設備が増加されている。2013年の1月から10月までで、新設設備の54%は自然エネルギーだった(そのうち3分の1が水力以外)。石炭火力の電力に占める割合は、2013年だけで2%ポイント低下したと思われる。世界的には自然エネルギーへの民間投資が2011年と2012年のそれぞれ、またおそらく2013年も2,500億ドル(約25兆円)に達し、800億ワット(800万kW)以上の容量が新設された。太陽光発電の増加は今や風力を上回り、携帯電話を上回る速さで拡大している。

こうした需給両面での画期的変化に適応するため、欧州に限らず、世界各地の電力事業者は、RMIのe-Lab産業フォーラムのような取り組みで開発が進んでいる新たな事業、収益、規制モデルを必要としている。例えば、純電力使用量がゼロのビル(現在普及が進んでいる取り組み)は、キロワット時当たりで電力を販売している電力会社への純支払額がゼロになる、というものだ。これには異なる収益モデル、フォート・コリンズ市(コロラド州)の公営電力会社が提案しているような新たなアプローチが必要になる。同市の公営電力会社は、メーターのある利用者側へさまざまなサービスや投資商品を提供し、利用者を効率性や分散的発電の投資へと導く一方で、低コストの融資と電気料金での支払いや相殺(オン・ビル・リペイメント OBR)を提供している。e-Labが支援するこのイノベーションは、規模で分かれるネットメータリングを超えて、健全で規模の調整が可能な方法を提供してくれるだろう。

米国の電力の80%が自然エネルギーになり、半分が分散化され、ほぼすべてが脱炭素化されて、障害に強い米国の系統が実現されれば、それにかかるコストは実質的にこれまで通りと同じで、安全保障、技術、金融投資、気候、保健、燃料、水などのリスク管理を最適化することが可能になる。またユニークなものとして、連鎖的な停電を防止できるようになる。こうした変化がもたらす利益があるからこそ、移行にともなう苦しみも正当化される。しかし、周知の競争リスクを受け入れるための資金を受け取っておきながらそれにしくじった既存電力会社を保護することは、正当化されない。

時代遅れのビジネスモデルへの執着や投資に報酬を与えるべきではないし、それを賞賛すべきでもない。結局、当事者たちは、大きな変化が来ることを知らなかったかのような事態ではない。自然エネルギーの義務化や炭素取引の台頭を前にしているのに、新たな石炭火力発電所を発注することは、自動車の普及によってロンドンの馬糞危機が緩和しつつあるさなかに、馬車メーカーを買収するに等しい。