連載コラム 自然エネルギー・アップデート

独エネルギー政策をめぐる報道の矛盾 英語オリジナル

2014年12月11日 クレイグ・モリス Renewables International 編集者
EnergyTransition.de筆頭執筆者

先月、フィナンシャル•タイムズ(FT)紙は、ドイツのエネルギー転換を厳しく論評する記事を掲載した(注)。しかしその記述は、大いに誤解を招くものだ。

(注)Financial Times記事「The growing absurdity of German energy policy」(2014.11.25)
日経新聞「独エネルギー政策の矛盾 [FT社説翻訳]」(2014.11.27)

  • [要約]
  • ① ドイツは、再生可能エネルギーの不安定性と原発による発電の削減で何年も供給問題に悩むはずだ。供給不足の解消には二酸化炭素を出す石炭火力発電に頼らざるを得ない。
  • ② ドイツの家庭は米国の2倍の電力料金を払っている。事業者向け料金はここ4年で30%以上跳ね上がり、競争力にとって大きな重荷となっている。
  • ③ ドイツ国民の多くが50年には世界で最も安価できれいで安定したエネルギー供給を受けられると信じている。だが、それはまだ先の話だ。短期では汚染を広げ、エネルギー料金を引き上げそうだ。

他の経済紙と同じく、 FTは〝エネルギー″と聞くと〝企業″を思い浮かべるようだ。FTの記事には『シュレーダー政権は2000年に(中略)自然エネルギーを生産する企業すべてに補助金を出すと発表した』とあるが、シュレーダーが実現したのは補助金ではなく固定価格買取制度だ。そして、自然エネルギー産業を作り上げたのは、主に市民、協同組合、新しい市場プレーヤーたちだった。従来の電力供給の四分の三を担う四大電力会社は、2012年時点で、自然エネルギーへの投資の5%しか占めていない。

外国の傍観者の多分に漏れず、 FTは、ドイツのエナギーヴェンデ(エネルギー大転換政策)は石炭火力に依存していると述べているが、長期的な傾向にこそ目を向けるべきで、一時的な石炭の微増にとらわれてはいけない。確かに、2011年に原子力の段階的廃止が決定され、2011年から2013年にかけて石炭消費量がわずかに増加したが、その後、石炭消費量が高止まりした主な理由は、厳しい冬と電力輸出であり、原子力が停止したせいではない。

また FTの記事は、灯火管制の亡霊をちらつかせている。しかしドイツでは、2012年に電力輸出が急増し、2013年にも更に急増している。ドイツ産電力の最大輸入国は、オランダとフランスである。つまり、ドイツには電力を大量輸出できる発電容量があり、発電所が余っているのだ。自然エネルギーが、従来の電源を代替してなお余りある成長を遂げているからだ。そのため、石炭による発電は2014年の第1~第3四半期に激減し、2019年までにさらに20%低下すると推測されている。



電力料金の問題についても、FTは大きく誇張して書いている。『ドイツの家庭は米国の2倍の電力料金を払っている 』と述べているが、これは事実に反する。単位当たりの電力価格が高くても、ドイツにおける電力消費量は米国の半分なので、ドイツの電力料金は平均月額100米ドル程度となり、米国の基準でも決して高くない。また、ドイツでは(FTが書いているような一律高額の)「事業者向け価格」は存在せず、事業者の電力価格は電力消費量によって異なる。電力消費量の少ない企業の電力価格は高めだが、そのような企業では電力料金が総支出の2%程度にすぎない(人件費の方が大きな問題となる)。逆に、ドイツのエネルギー集約型産業が支払っている電力料金は、EUのほとんどの国より少ない。アルミ部門、鉄鋼部門、および製紙部門の国際企業が、他の場所で閉鎖してドイツに移動しているのは、そのためである。ドイツ企業向け電力価格の競争力は上がっているのであり、決して下がっていない。家庭用電力価格も、インフレで上昇しているにすぎない。

最後に、ドイツ人はエナギーヴェンデが『世界で最も安価できれいで安定したエネルギー供給を国にもたらす』ことをナイーブに信じているわけではない。エネルギー効率を向上させ、2050年までに60%を自然エネルギーで賄えるようにする方が、従来のビジネスより安いオプションだと信じ、これまで独占されてきたエネルギー部門に、民主的な参加と競争をもたらすと確信しているのである。

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