連載コラム 自然エネルギー・アップデート

原発を停止してもドイツはフランスへの電力純輸出国
初出:『環境ビジネスオンライン』 2014年10月27日掲載

2014年11月20日 大野輝之 自然エネルギー財団 常務理事
ロマン・ジスラー 自然エネルギー財団 研究員

世の中には脱原発を決めて自然エネルギーを推進するドイツのエネルギー政策を、何としても「失敗」と描きだしたい勢力があるらしい。10月6日にファイナンシャルタイムズが掲載した社説「The costly muddle of German energy policy」もそのあらわれなのだろう。「メルケルが脱原発を決めたのは大きな誤り」と書いて、「失敗」の根拠をあれこれあげつらっている。どれも言い古されたネタばかりだが、「ファイナンシャルタイムズが言うのなら本当かも」、と思う人もいるかもしれない。

自然エネルギー財団では、ドイツのエネルギー政策に関するシンポジウムを開催したり、ホームページで特集コーナーを設けたりしているが、この連載コラムでも、この社説の中に出てくる「誤情報」をとりあげておこう。

フランスの冬はドイツの電力が暖める

ファイナンシャルの社説は、「(ドイツは)採算のとれていた原発を閉鎖する一方、フランスの原発から電力を輸入している」と主張している。これはあちこちでふりまかれている典型的な「誤情報」の一つだ。論より証拠。図1をご覧いただきたい。

これはドイツとフランスの電力輸出入の量を、2006年から直近(2014年第3四半期まで)まで見たものだ。ドイツとフランスの電力網はつながっているから、短期的な電力の需給変動によって相互に行ったり来たりしている。赤い棒がフランスからドイツへの輸入、緑の棒がドイツからフランスへの輸出を示している。確かに、2011年、福島事故の直後にドイツが原発8基の運転を停止した年だけはフランスからの輸入が輸出を上回っている。

しかし、2012年以降3年連続して、ドイツからの輸出がフランスからの輸入を上回っているのは一目瞭然だ。フランスは冬の暖房のかなりの部分を電気で行っているが、原発の発電だけではまかなえないため、この時期にドイツからの電力輸入が増え、年間を通してもドイツからの輸出超過になっているのだ。

自然エネルギーの発電増加分は、原発の減少分を上回る

もう一つの典型的な「誤情報」は、「原発を廃止すると、国内のエネルギー需要を満たすため、より多くの石炭を燃やさなくてはならない」という主張だ。図2をご覧いただきたい。原発停止前の2010年から停止後の2013年への電源別の発電量の変化を示したものだ。

原発による発電の減少量は43.3TWhだが、自然エネルギーによる発電の増加量は47.3TWhであり、原発の減少分を上回っている。原発廃止による電力需要は、十分に自然エネルギーによる供給が埋め合わせているのだ。

石炭火力の新設は原発停止と無関係

ファイナンシャルタイムズは、発電源の25%近くを占める原子力を排除したため、「このままでは2010年から2015年に9基の石炭火力発電所を稼働させることになる」と書いている。ドイツの石炭火力新設を原発停止と結びつけるのも、よく使われるロジックである。だが、これも誤りだ。これらの石炭火力新設計画は、原発停止の決定の前、2005年から2007年に行われたものだ。福島原発事故がなかったとしても、これらの石炭火力は建設されただろう。

石炭火力発電所の新設は、気候変動対策の観点から望ましくないのは言うまでもない。欧州は排出量取引制度(EU-ETS)を2005年に導入し、発電所などからの二酸化炭素の排出には、排出権の確保を必要とすることにした。石炭火力などの増加を抑制することを目指したものだったが、排出権価格が低迷していて、燃料の安い石炭火力の増加を抑えられないでいる。火力の中では相対的に二酸化炭素排出量の少ない天然ガス発電は反対に減少してしまった。ここから学ぶべきことは、排出量取引制度で二酸化炭素の排出抑制をしようとするなら、石炭火力の経済的メリットをなくす程度にまで排出権価格を十分に高くしなければならない、ということだ。

ドイツは、全ての原発を2022年までに廃止することを決定しつつ、温室効果ガスの排出量を2020年までに1990年比で40%削減する目標を堅持している。省エネルギーの推進とともに、2025年までに40~45%の電力を自然エネルギーで供給するという目標を掲げているのもそのためだ。

「電気料金が高くてドイツを去った企業は発見できない」

ファイナンシャルタイムズからは離れるが、今回のコラムの最後に、ドイツのエネルギー政策に関する、もう一つの典型的な誤解にも触れておこう。それは、「ドイツでは電気料金が高くて企業が国外に流出している」というものだ。

実はドイツ政府自身が、電気料金が高くなりすぎるとドイツの産業の発展が損なわれる恐れがある、と主張している。産業保護はドイツの一貫した政策でもある。固定価格買取制度で大規模電力消費企業への賦課金を免除して、その分を家庭に課しているのもその表れだ。

ドイツの日刊紙「Die Tageszeitung」(通称taz)によれば、連邦議会の野党陣営が政府に対し、電気料金を理由にしてドイツを去った企業のリストを示すように要求した。しかし、これに対する政府の回答は、「政府は、ドイツを去った企業の数に関しても、影響を受けた雇用の数についても信頼できる統計を有していない」というものだった。ドイツ政府が唯一示したのは、フィンランドの鉄鋼メーカー Outokumpuがドイツの製鉄所を閉鎖した、という事例だけだった。しかし、このメーカー自身が理由としてあげたのは、世界的な供給能力の過剰であり、ドイツだけでなくフランスなど他国の製鉄所も売却していたのである。


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