連載コラム 自然エネルギー・アップデート

シリーズ「電力システム改革の真の貫徹」を考える
第6回 「新電力の負担」が誤解を招く
~本質的に公平性を欠くのはなぜか?~

2016年12月12日 安田陽 京都大学大学院経済学研究科再生可能エネルギー経済学講座特任教授

 現在、経済産業省「電力システム改革貫徹のための政策小委員会」(以下、貫徹委員会)でさまざまな議論が急速に進み、公平で透明な市場設計という観点から大いに疑問符が付く決定が行われようとしている。諸問題がパズルのように複雑に絡み合って錯綜を極めており、多くの国民や市場関係者に誤解や無関心が生まれている。特に原発廃炉費用の「新電力の負担」というマスコミ等の表現は誤解を生みやすく、混乱に拍車をかけている。本稿ではできるだけシンプルに、何が「本質的に公平性を欠くのか」について解説する。

 まず問題を整理するために、現在の電力業界の構造を図1に示す。現時点で「電力会社」というと、発電・送配電・小売部門すべてを持つ一般電気事業者(図中(A))を指す。一方、「新電力」は従来PPS(特定規模電気事業者)と呼ばれていた発電会社であるが、2016年4月の電力小売全面自由化により一般家庭との契約も可能となり、現在は小売会社という顔も持つ(図中(B))。さらに発電のみ(C)や小売のみ(D)の会社もある。しかし、われわれは現在、電力システム改革の真只中にいることに留意が必要である。発送電分離はあとわずか4年後の2020年に迫っており、図1の構造は解体され図2のように電力業界が3つに分離される。「電力会社」という言葉はいずれ消滅し、発電と小売を兼ねる会社が「(新)電力会社」と呼ばれるかもしれないが、それは現在の電力会社とは全く別ものとなる。



 さて、このような整理を行った上で図2に即して、貫徹委員会の「中間取りまとめ(案)」(12月9日公表)を解読していく。とある発電会社が事故を起こした場合、一義的には「汚染者負担の原則」に則り当該発電会社がその費用を負担するのが原則である(矢印①)。しかし、貫徹委員会では「福島第一原発事故前に確保されておくべきであった賠償への備え」(同資料p.17)を、電力消費者(≒国民)に負担させようとしている(①→②)。これを「第1の不公平性」と呼ぶこととする。確かに、資本金1兆円規模の会社に事故費用20兆円を自己完済する能力は乏しく、国民負担もやむを得ない可能性もあるが、その場合は国策の責任の所在を明らかにした上で、税として徴集するのが公平性や経済効率性の観点から「次善」の手段となる。

 しかし貫徹委員会では税による徴集(矢印②)はわずか1行検討されたのみで(同p.19)、託送料金による回収(矢印③)ありきの議論が進められている。ここで最も本質的な問題は、発電会社の事故費用負担が託送料金として送配電会社の会計に転嫁されることにある。2020年の発送電分離後は、発電会社と送配電会社は投資行動も経営方針も異なる行動を取り、両者は全く異なる業種となる。特定の会社の事故費用が(例え国策であったとしても)異業種の会計に転嫁されるのは、如何に理由を並べ立てたとしても正当性を見いだすことができない。新しい業種となる送配電分野の中立性・公平性・透明性も大きく削がれることになり、市場が歪められる。これでは単に取りやすいところから目立たないように取るに過ぎず、大義や理念がない。この点を押さえると、①→③の転嫁が如何に不合理で電力システム改革に逆行するかがわかる。これを「第2の不公平性」と呼ぶこととする。

 以上のような問題点を「新電力の負担」と表現してしまうと、多くの人が図2矢印④⑤と勘違いしやすく、異業種会計への転嫁という問題の本質が却って不明瞭になる。確かに託送料金は小売会社(≒新電力)を通じて電力消費者(≒国民)に請求されるため混同されやすいが、目先の問題に囚われると「どうせ国民負担ならどっちも同じ」「電気料金が上がるなら反対、変わらないならOK」となってしまう。また、一口に新電力と言っても大手商社系、市民電力系、ガス系、再エネ系とプレーヤーはさまざまであり、同じ新電力の中でも「我々には実質的な負担はないからOK」「我々の事業に影響を与えるからダメ」と立場が分断され、ますます不幸な論争を生み出しかねない。

 この状況は、例えるなら「プロ野球で赤字が出たのでJリーグにそれを補填してもらう。同じスポーツ業界だからOK!」と言う理屈に似ている。野球ファンは「それはよいアイディアだ」と言い、サッカーファンは「けしからん!」と言い、両者に関心のない層は「どっちでもいい」と言う構図になりがちだが、問題は目先の損得ではなく、不合理で不公平なルールがまかり通ってしまうことである。一旦「なんでもあり」のルール変更を許してしまうと、次は「今度はオリンピックで赤字が出たのでBリーグやVリーグにも補填してもらう。前と同じです」となってしまう。

 以上、複雑に絡まった諸問題を整理すると、以下のようになる。  

  • 第1の不公平性:発電会社の事故費用が国民負担にされようとしている(図2中①→②)。第1の不公平性を解消することが難しく国民負担がやむを得ない場合、責任を明らかにした上で、税として徴集するのが次善の手段となる。
  • 第2の不公平性:税による徴集ではなく、異業種の会計制度(託送料金)を利用しようとしている(図2中②→③)。市場の公平性や透明性の観点からは、第2の不公平性は容認されない。
  • 「新電力の負担」という表現は第2の不公平性を不明瞭化させ、不公平なルール決定を却って助長する。

 ルールメイキングは一般の消費者に取って少々遠いところにありわかりづらいかもしれないが、将来自分たちの首が締まらないよう国民全体で目を光らせる必要がある。