連載コラム 自然エネルギー・アップデート

チリにおける自然エネルギーの可能性

2015年11月19日 高橋洋 都留文科大学教授・自然エネルギー財団 特任研究員

銅、水力、バイオエネルギー、太陽光
 筆者は、11月初めにチリのサンチアゴを訪れ、エネルギー大臣などと自然エネルギー政策について意見交換する機会を得た。自然エネルギーに関連してチリという国名はこれまで余り耳にしなかったが、現地では近年高い注目が集まっているという。日本から馴染のないチリの自然エネルギー事情について、紹介したい。
 チリは世界最大の銅の生産国であり、輸出額の半分を関連商品が占める。一方で、化石燃料の大半を輸入に頼っている。電源構成については、石炭火力41%、水力26%、天然ガス15%となっており(2013年度)、原子力はない。以前からチリでも、原子力を導入すべきとの議論はあったが、2011年の福島原発事故により完全に否定されたという。そこでここ数年間で急速に注目を集めているのが、自然エネルギーである。
 水力を除く自然エネルギーの電源構成は未だ6%(日本は3%)だが、その多くをバイオエネルギーが占める。チリは4000kmにも及ぶ南北に細長い国土を擁するが、銅鉱山が集まる北部は砂漠地帯で、南部は湖沼地帯である。湖沼地帯が水力の源となっているが、自然環境保護の観点からこれ以上の開発は難しい。バイオエネルギーは主として工場廃液などを使った熱電併給である。従って、今後増やすべきは太陽光や風力である。実は北部のアタカマ砂漠の日照量は、世界最高水準を誇る。

固定価格買取は不要?
 ところが、自然エネルギーを増やすために固定価格買取制度のような特別な支援措置はないという。チリは、1982年に世界で初めて電力自由化を成し遂げた、新自由主義的改革の先駆者である。現地で話を聞くと、固定価格買取制度や補助金に対して否定的な意見が多く、RPSのみ採用している。何よりも、「自然エネルギーはコストが安いから補助金など必要ない」というのだ。
 10月に発電事業の入札(20年間の買取契約)が行われたが、その入札額は、風力は9.36~11.4円/kWh、太陽光の最安値は7.8円/kWhであり、いずれも石炭火力よりも安かった。計5社の自然エネルギー発電事業者が落札し、2017年から運開する新たな発電電力量は、合計で年間12億kWhに達する。これは、2013年のチリの全発電電力量の1.7%を占めることになる。RPSの目標値は、これまで大規模水力を除いて2020年までに10%だったが、自然エネルギーの急速な導入を受けて2025年までに20%(日本は2030年に13~15%)へと改定されたところだという。
 とはいえ、最大の課題は送電網にあると思われる。細長い国土のために南北方向のみに送電網が建設されている上に、4地域に分かれて非同期となっている。アルゼンチンと国際連系しているが、送電容量に限りがある上、外交関係も障壁となって緊急時に限ってしか使われていない。送電網については機能分離がなされており、アメリカ型のISOが中立的な系統運用の役割を果たしている。系統接続上の制度的障壁は小さく、送電網の国内・国際連系や増強投資を政策的にどう進めていくかが、今後の鍵となるだろう。
 もう1つの課題は資本力である。自然エネルギー資源には十分に価格競争力があるものの、初期投資の負担は小さくない。そこで期待されているのが、外資である。1980年に社会主義のアジェンデ政権が崩壊して以来、チリでは開放的な経済運営が継続されてきた事実が、直接投資に魅力的な環境を提供している。実際、上記の入札についても、落札企業5社中3社がスペインやアメリカの自然エネルギー事業者であった。今回の訪問でも、日本企業によるメガソーラーや送電網、スマートグリッドへの投資に期待が高かった。

日本にとっての示唆
 地球の裏側のチリの状況は、日本にとっても参考になるだろう。第1に、自然エネルギーの価格競争力である。近年自然エネルギーが最も発電コストの低い電源になったという話は、チリ以外にもテキサス州やオーストラリア、デンマークなど各地からも聞く。日本の買取価格は下がってきたとはいえ、ドイツと比べまだ2倍程度と高い。消費者の負担になる賦課金を抑えることも重要である。日本はチリより日照量や地価などの条件が劣るものの、ドイツよりは日照時間が長い。まだまだコスト低減の余地があるはずであり、事業者やパネルメーカーの奮起に期待したい。
 第2に、新規参入の重要性である。チリが外資に期待する理由の1つは、自由化以降寡占化が進んできた電力市場に再度競争を起こすためという。あくまで自由市場をベースとして、自然エネルギーという価格競争力のある電源を通して、市場競争を活性化させるという考え方は、日本では聞かれないものであろう。日本でも2016年4月に小売り全面自由化が実施されるが、自然エネルギーに限らず新規参入こそが様々なイノベーションの源泉なのであり、徹底した競争政策が求められる。
 第3に、やはり送電網の重要性である。広域運用が十分にできていない、国際連系が活用できていないという話は、日本にも当てはまる。日本は、地理的制約についてはチリよりも恵まれているはずだが、発送電分離は遅れており、系統接続は不十分で優先給電になっていない。自然エネルギーについて日本と同程度に遅れている、しかし2011年を経て日本以上に盛り上がっているチリの状況から、日本のやるべきことが見えてくるのではないか。

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