連載コラム ドイツエネルギー便り

「気候行動プログラム2020」によって、さらなる温室効果ガス削減を目指すドイツ

2015年11月20日 林佑志 在独コンサル会社 欧州環境政策調査員

 11月30日から12月11日まで、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)第21回会合(COP21)がフランスのパリで開催される。この国際交渉の場で重要な役割を担う国の1つであるドイツは、2007年に温室効果ガスの排出量を2020年までに1990年比で40%削減することを短期的な目標に定めた。しかし、ドイツの2014年の温室効果ガス削減率は27%(推定値)となっており、現時点で目標の達成は厳しいと見られている。

 ドイツは、厳しい目標の達成に向け、より効果的で全体的な取り組みを示し、社会・経済的に最良の道を選択するために「気候行動プログラム2020」を2014年12月に閣議決定した。2007年以降取り組まれてきた対策のみでは、2020年までに温室効果ガス排出量を33-34%しか削減できず、目標達成に向けて追加の措置をとる必要があることが明らかになったためである。新しい「気候行動プログラム2020」では、9つの対策分野を指定し、それぞれの分野での取り組みによる追加削減6200万-7800万CO2換算トンと、分野横断的な削減効果300万-400万CO2換算トンを合わせて8200万CO2換算トンの削減を見込んでいる ⅰ 

 この一連の取り組みで重要視されているのが脱炭素化に向けた、炭素を排出しないエネルギーシステムの構築であり、ドイツがエネルギー転換(Energiewende)と呼んでいるものだ。ドイツでは、「気候保護政策(Klimaschutzpolitik)」とエネルギー政策を切り離して議論することはできない。

 例えば、プログラムで示されている対策の1つに国家省エネ行動計画(National Energy Efficiency Action Plan、NAPE)がある。プログラムと同時期に閣議決定され、エネルギー効率向上のための競争入札の仕組みや、コントラクティング(日本のESCOに相当)の推進、省エネネットワークの設立などが掲げられている。このNAPEにより、2500万-3000万トンのCO2が削減できると見込んでいる。

 エネルギーに関連した炭素排出削減は自然エネルギーの導入にとどまらず、より幅広い取り組みとして展開される。ドイツに限らないが、エネルギーを最も消費しているのは電力ではなく、熱である。そのため、日本のBEMSとは異なり、建物の省エネと言えば、まずは建物を高気密高断熱なものに改修していくことを意味する。暖房システムの効率化ではなく、暖房需要そのものを下げるのが狙いだ。これにより、建物セクターのみで570万-1000万トンのCO2を削減する。

 また、電力・熱と並んで重視される交通分野では、モビリティの向上を掲げている。モビリティとは移動性や機動性などと訳されるが、モビリティの向上とは様々な手段を用いて移動の利便性と快適性を向上させることである。日本と同様、ドイツでも公共交通機関特に鉄道のさらなる活用と、個人の移動手段としての自転車の利便性の向上、電気自動車の普及を進めている。燃料電池自動車はあまり重視されていないが、これはドイツと日本の自動車産業界の得意とする技術の違いによるものだろう。これにより、700万-1000万トンのCO2を削減する。

 さらに、エネルギーに直接は関連しない分野におけるCO2排出削減策として、廃棄物マネジメント(3R)の促進による資源効率性の向上を掲げている。また、農業分野では肥料利用政令(Fertiliser Application Ordinance)を改正し、有機農業のシェアの拡大を目指す。湿地保護によるCO2排出削減も見込んでいるが、これは日本の森林によるCO2吸収分と同じ発想によるものである ⅱ 。ドイツ政府はこのプログラムを通じて、現時点で実施されている施策では不足する削減分を補うことを目指す。

 このプログラムの策定にも関わったエコ研究所は、プログラムによる追加削減量は、長期目標(2050年までに1990年比80-95%削減)には不十分であるが、2020年の40%削減目標は達成できると見ている ⅲ 

 WWFは、プログラムはドイツ政府が2020年の40%目標を真剣に捉えている証左であると述べている。今回示された施策は重要な政策的突破口ではないが、主要なCO2排出源である褐炭・石炭発電所の閉鎖について言及するなど、政府が伝統的な産業構造から脱却する用意があること示した点で意味のあるものであり、現在の国際的な気候変動の議論において重要なシグナルになりうると見ている ⅳ 

 ドイツ環境相のヘンドリクス氏は、10月23日までドイツのボンで開催されていたCOP21準備会合でまとめられたパリでの合意文書の原案について、具体的な手法の議論は不十分であり、全加盟国が合意できるレベルに練り上げるにはまだ多くの作業が残っていると述べた ⅴ 。しかし、ヘンドリクス氏いわく、加盟国はパリでの協定締結を目指しており、そのための共通の土台は出来上がった。

 今後の予定として、ドイツ政府は2016年秋に新しい気候行動計画2050を公表し、長期目標達成に向け、気候行動プログラム2020では足りない長期目標に必要な追加削減に向けた施策を公表する予定だ ⅵ 

 温室効果ガスの削減目標達成に向けた道のりは厳しいが、ドイツはそれでも国際的な気候変動政策においてリーダーシップをとり続ける道を模索している。


 ⅰ 連邦環境省、2014、「Background paper: Climate Action Programme 2020」
http://www.bmub.bund.de/fileadmin/Daten_BMU/Download_PDF/
Aktionsprogramm_Klimaschutz/aktionsprogramm_klimaschutz_2020_hintergrund_en_bf.pdf

 ⅱ 以上、気候行動プログラム2020より。
 ⅲ エコ研究所ウェブサイト
http://www.oeko.de/en/up-to-date/2015/expert-support-for-germanys-climate-action-plan-2050/
 ⅳ WWFウェブサイト
http://www.wwf.eu/?234490/WWF-Germanys-climate-action-program-builds-on-thin-ice
 ⅴ 連邦環境省ウェブサイト
http://www.bmub.bund.de/presse/pressemitteilungen/pm/artikel/hendricks-zeit-fuer-endspurt-nach-paris/
 ⅵ エコ研究所ウェブサイト
http://www.oeko.de/en/up-to-date/2015/expert-support-for-germanys-climate-action-plan-2050/


執筆者プロフィール
林佑志
(はやし・ゆうし)
ドイツ在住10年。ドイツの大学院で環境政策を学ぶ。専門はドイツのエネルギー・環境政策。
現在はベルリンにあるコンサルティング会社で、政策・市場調査を行っている。