連載コラム 自然エネルギー・アップデート

自然エネルギーよりも原子力を推進?
経済産業省が開始した国民向けの情報発信 英語版

2017年11月10日 石田雅也 自然エネルギー財団 自然エネルギービジネスグループマネージャー

 経済産業省は国のエネルギー政策の方向性を示す「エネルギー基本計画」の見直しを進めているさなかに、国民に向けた情報発信をウェブサイトで開始した。「スペシャルコンテンツ」と呼ぶコーナーで電力・エネルギー関連の解説記事を連載中だ。ところが現行のエネルギー基本計画で示した「再生可能エネルギーの最大限の導入」と「原発依存度を可能な限り低減」という2つの重要な方針に反する内容が随所に書かれている。原子力と自然エネルギー(再エネ)に関して国民をミスリードするような主張が目立つ。

「原発に優位性があることに変わりはない」と主張

 例えば10月31日に掲載した「原発のコストを考える」が典型的だ。その内容をかいつまんで紹介する。

 主題である原発のコストに関して、2年前の2015年に有識者によるワーキンググループが試算した結果を引用している(図1)。出力120万キロワットの超大型の設備を想定して、1kWh(キロワット時)あたり「10.1円~」と算定したものである。



図1 電源別の発電コストの試算結果(上段は2014年、下段は2030年のモデルプラントを想定)。出典:発電コスト検証ワーキンググループ(2015年5月)

 2年前の試算では、原子力の発電コストに含まれる「事故リスク対応費用」が将来に増大する可能性があるとして、最低限の費用しか織り込まなかった。「~」を付けて発電コストを示したのは、そのためである。2015年の時点では福島第一原子力発電所の事故対応費用を12.2兆円と想定したうえで、発電設備の出力規模などから9.1兆円に補正してコストを計算した(図2)。


図2 原子力の発電コストの内訳。出典:発電コスト検証ワーキンググループ(2015年5月)

 しかし翌年の2016年12月には福島の事故対応費用が総額で21.5兆円に拡大することが明らかになり、今後さらに増えていく可能性がある。ワーキンググループの試算によると、事故対応費用が1兆円増加するごとに原子力の発電コストは0.04円/kWh上昇する。

 このほかにも高レベル廃棄物の処分費をわずか0.04円/kWhで見込むなど、将来に発生するコストを低く見積もっている。いまだ処分場の候補地さえ決まっていない状況では、必要な費用を適正に算定することは不可能である。大量の廃棄物を地下300メートルよりも深い地層に埋設したうえで300年間にわたって監視する必要があり、莫大な費用がかかることだけは間違いない。

 こうして原子力の発電コストは次第に積み上がっていく。それでも経済産業省は国民に向けて「火力や再エネ発電より高くなることはなく、発電コストの面で原発に優位性があることに変わりはない」と強調している。

 原子力の発電コストが優位性を失っている状況は欧米の新設プロジェクトでも顕著に見られる。英国で建設中の「ヒンクリーポイントC原子力発電所」(出力163万キロワット×2基)は設計の変更や工期の遅れによって建設費が2.94兆円(196億ポンド)に膨れ上がった。出力1キロワットあたりの建設費は90万円に達している。日本でワーキンググループが試算に使ったモデルプラントの37万円/キロワットに対して2.4倍の水準である。発電コストに換算すると4.4円/kWhの増加に相当する。

 発電設備の仕様が違うとはいえ、従来のようなコストで原子力発電所を建設できないことは明らかである。米国でも東芝グループのウエスティングハウス製の原子炉を使って建設中の「ボーグル原子力発電所3・4号機」(出力112万キロワット×2基)の建設費が2.3兆円(210億ドル)に増大して、1キロワットあたり100万円以上かかる見通しだ。もはや原子力の発電コストが低くないことは世界の常識になっている。

自然エネルギーには利点よりも問題点の指摘

 自然エネルギーに対する経済産業省の姿勢も大いに問われる。10月31日のスペシャルコンテンツでは原子力の優位性を示す目的で、発電所の建設に必要な面積を自然エネルギーの太陽光・風力の場合と比較した。100万キロワット級の原子力発電所と同じ年間発電量を得るためには、太陽光発電だと約100倍の58平方キロメートル、風力発電では約350倍の214平方キロメートルが必要だと説明。「原発や火力発電と比べて、再エネによる発電は広大な敷地が必要となる」と訴えている。

 しかし太陽光発電は土地がなくても建物の屋上に設置することが可能だ。風力発電では大型風車を設置する場合でも基礎の面積は6メートル四方ほどで済み、周辺の場所は別の用途に使える。経済産業省の試算ほど大きな面積を必要としない。実際に太陽光発電や風力発電を農地に建設している事例があり、原子力発電と違って農業や林業と共存させることもできる。

 福島の事故で明らかになった日本の電力システムの重大な問題点の1つは、大規模な発電所が特定の場所に集中していることによるエネルギーセキュリティの脆弱性である。事故後の夏に電力の供給力が不足して、関東一円で計画停電を実施したことを忘れてはならない。これに対して自然エネルギーの発電設備は全国各地に分散して建設できるため、1カ所の運転停止による影響は小さくて済む。

 このような自然エネルギーの利点についてスペシャルコンテンツでは説明していない。火力発電や原子力発電と比べて環境負荷が小さい点や、地域ごとに発電所を建設・運転することで経済の好循環につながる点など、世界各地で自然エネルギーが拡大している要因にも触れていない。固定価格買取制度の費用負担が増加していることを問題点として挙げているが、その費用で全国各地に新たな収入と雇用を生み出しているメリットも現実にある。特定の自治体だけが潤う原子力発電と比べて大きな違いだ。

 経済産業省は自然エネルギーの大量導入に向けて、5月から7月にかけて政策面の課題を検討する研究会を5回にわたって集中的に開催して、解決すべき課題をとりまとめたばかりである。これから具体的な政策を実行する段階にもかかわらず、国民に対して自然エネルギーの利点よりも問題点を強調するような情報発信を続ける理由はどこにあるのか。今後も火力発電と原子力発電に依存する旧来の電力システムに固執していては、世界の潮流から取り残されてしまう。

 これから脱炭素社会を目指して世界各国が競争を繰り広げていく中で、地域の自然エネルギーを生かした新しい産業構造に転換することが日本でも求められる。その政策を担うべき経済産業省が時代の流れに合わない情報を発信している場合ではないだろう。

(経済産業省のスペシャルコンテンツ)
「原発のコストを考える」(2017年10月31日)

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