連載コラム 自然エネルギー・アップデート

「ベースロード」にまつわる誤解と神話

2014年4月4日 安田 陽 関西大学システム理工学部准教授

ベースロードについてはトーマス・コーベリエル氏が2月28日付コラムで取り上げているが, 21世紀の今日,世界で「ベースロード」という用語や概念がどのように語られているかというバックグラウンドを把握しないと,多くの日本人にとって氏のコラムは唐突に聞こえ,その主張を理解することは難しい。そこで本コラムでは,このベースロードが海外でどのように扱われているかを紹介したい。

エビデンスとして,例えば以下のような様々な立場の文献を見てみよう。いずれも英文であるが,図表やキイワードを拾い読みするだけでも興味深い。

1. グリーンピースの報告書(p.37~38, Fig.2.5)
この報告書には電力系統の専門家も執筆に加わっており,p.38で将来の日負荷曲線の概念図が説明されている。この図では,再生可能エネルギーが大量に導入された場合は石炭火力や原子力を硬直的に一定出力することが難しくなり,ベースロードという概念に取って代わる柔軟な系統運用が必要であることが示されている。

2. ドイツのエネルギーコンサルタントAGORAの報告書(p.2)
この報告書では,2022年のドイツの電力系統の運用について上記文献と同様の提案がされているが,ここでも「ベースロードはもはや消え去っている」(p.2)と明言されている。ちなみにこの図はドイツ環境省の文書にも引用されている。

3. 経済協力開発機構原子力機関 (OECD/NEA) の報告書(p.69〜71, Fig.3.2〜3.4)
この報告書は各国の原子力専門家によるものであり,負荷や再生可能エネルギーの変動に応じて原子力を動的制御することが検討されている。ここでp.69〜71の原子力の出力抑制を示すグラフは,想像図や概念図ではなく実際にフランスやドイツで得られた実測値だということは注目すべきである(なお,スペインやイギリスのように現在でも原子力の一定出力を維持する国もある。ただしそれらの国でも石炭火力はもはや「可変」電源として運用されている)。

今日の日本では,日本語で得られる情報が極端に少ないため,ベースロードなる専門用語が今更降って湧いたように議論されているが,実は複数の国でベースロードという概念自体が崩れつつあり,それを踏まえた上で電力系統の柔軟な設計・運用が議論されている。そして,多くの日本人が海外で何が起こっているのかを全く知らされずに論争していることが,この問題をより複雑にしている。コーベリエル氏の言説に反論するにも同意するにも,この背景を踏まえないと議論が脱線してしまう。再エネをどうするか? 原発をどうするか? といった問題は様々な立場から様々な意見があって然るべきだが,グローバルな視点に立ちエビデンスに基づいた理性的な議論をすべきだということは,誰しも合意できるところだろう。

ではなぜ,このように世界ではベースロードが消え去りつつあるのか? 答はズバリ「再生可能エネルギーの優先給電」なのだが,これを説明すると長くなりそうなので,また別の機会があれば書いてみたい。

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