連載コラム ドイツエネルギー便り

気候変動対策は小さな自治体ほど向いている
「小さな自治体、大きな気候保護」報告書より

2015年9月28日 林佑志 在独コンサル会社 欧州環境政策調査員

ドイツ国内には、「100%再生可能エネルギー地域」に認定されている自治体がすでに87カ所、現在認定に向けて取り組んでいる自治体が59カ所ある(2015年7月現在) ⅰ 。これらは地域としての取り組みで、自家消費用設備などを含めれば、「100%再エネ地域」の数はもっと多いだろう。その多くは中小規模の自治体であるが、これらの地域に住む住民の数を合計するとドイツ人口の約3分の1の2600万人にものぼる。

なぜ、中小地方自治体なのか。連邦環境省の依頼でドイツ都市学研究所(Deutsches Institut für Urbanistik)が作成した「小さな自治体、大きな気候保護」(2015年)から紐解いてみる。

  • 地方の小さな自治体ほど自然エネルギーのポテンシャルが大きい
    地方の自治体、特に農村部は風力、太陽光、バイオマス、地中熱など多くの自然エネルギー資源がある。その賦存量は地元の需要の100%を大きく超える場合が多い。
  • より住民に近い目線で取り組むことができる
    自然エネルギーや気候変動対策に限らず、地域住民の行動が必要な取り組みは、地域の実情をもっともよく知る行政機関が行うべきである。それは、国や州ではなく地方自治体である。
  • 手早く行動できる
    気候変動対策を行う際に最も時間がかかる、かけるべきなのは政策の策定段階での住民との意思疎通である。自治体の規模が大きくなるほど、利害調整に時間がかかり、政策のスピード感が失われていく。小さな自治体ほど全体の意思疎通にかかるコストが少なく、結果的に効果の高い政策設計がやりやすい。

重要なのは、地域の資源を、地域の合意で利用し、その成果を地域に還元する仕組みを、地域で作り上げることである。この地域の単位が小さいほど、気候変動対策のための政策もエネルギー転換も進めやすいというのが、この報告書が述べていることだ。ドイツ国内の自治体11,000の98%以上が人口5万人以下の小規模自治体である。今後、より小さな自治体でも気候政策に取り組み、再エネを導入していくことがもっと活発になるだろう。

分散型再エネシステムの構築ではしばしば「参加」がキーワードとなる。資本参加による利益還元の仕組みを作ることはその最たるものであり、固定価格買い取り制度は、これを国が後押しするものである。よく話題に登る固定価格買い取り制度を用いたエネルギー協同組合は負担も利益も広く浅く分担しあうことで、地域の住民が参加しやすいシステムである。

一方で、地方においても政治参加は疎かにされやすい。政治参加は選挙だけで充分だ、というのは、現代の民主主義の考え方からすれば時代遅れであり、さまざまな形で住民が声を上げる機会が設けられるべきだろう。デモなどの大規模な取り組みを行うことが難しければ、公民館に集まって自分たちの生活について話し合う機会があれば、それも立派な政治参加である。

この報告書は、地域の住民が自分たちで話し合うことを強く推奨している。自治体がこうした政治参加の機会を自ら作っていくことで、行政コストの削減につながることも多い。

中から、一例を紹介しよう。UNESCOの自然遺産にも登録されているドイツ南西部のブリースガウ(Bliesgau)である。人口約10万人のブリースガウは、自然豊かな地域である。2013年から2016年まで国の補助を受けながら「100%気候保護マスタープラン」を実施している。これは2007年からこの地域で始まった気候変動対策が評価されたものだ。スタートしたばかりの取り組みだが、自然エネルギーを積極的に取り入れていく予定である。

こうした取り組みの利点は2つある。1つは国からの補助などを積極的に活用して自治体の負担を減らすこと、もう1つは、自然エネルギーの利用によって化石燃料依存を引き下げ、住民の負担を減らすことである。こうして、コストと考えられていた気候変動対策をチャンスとして捉えるパラダイムシフトを進めていく。そのために、気候保護委員会を通じて話し合いを行い、風力発電反対派などとの対話を進め、市民ファンドを作って住民が参加できる仕組みを整えている。

この報告書には、こうした住民の参加を促す仕組みの成功例が数多く紹介されている。共通しているのは、自然エネルギー導入や気候変動対策から始まった取り組みが、より包括的な社会政策へとつながっていき、やがてはコミュニティの活性化につながっていく点である。

再度強調するが、こうした取り組みは小さな自治体ほど進めやすい。小さいことを理由に諦めないで、気候変動対策に積極的に取り組む自治体は、未来の自然エネルギーの担い手である。


 ⅰ 分散型エネルギー技術研究所(IdE)
http://www.100-ee.de/fileadmin/redaktion/100ee/Downloads/broschuere/100ee-Karte_Liste_Juli_2015.pdf


執筆者プロフィール
林佑志
(はやし・ゆうし)
ドイツ在住10年。ドイツの大学院で環境政策を学ぶ。専門はドイツのエネルギー・環境政策。
現在はベルリンにあるコンサルティング会社で、政策・市場調査を行っている。