連載コラム 自然エネルギー・アップデート

米国の自然エネルギー拡大を先導するカリフォルニア⑤:
自然エネルギーの大量導入を可能にするカリフォルニアの独立系統運用機関
初出:『環境ビジネスオンライン』 2014年6月16日掲載記事に一部加筆訂正

2014年8月14日 大野輝之 自然エネルギー財団 常務理事

日本で自然エネルギー拡大の大きな障害になっているのは電力系統への接続だ。固定価格買取制度ができて、電力会社には買取の義務があるはずなのに、いろいろな「技術的」理由をつけて接続が簡単に進まないのが実態だ。これに対し、カリフォルニア州では、系統運用機関自身が、積極的に自然エネルギーの導入を進めている。

CAISO

これまでの連載で、全米の先頭を走るカリフォルニアの自然エネルギー拡大の担い手として、サクラメント電力公社(SMUD)や州の公益事業委員会(CPUC)などの役割について書いてきた。カリフォルニア編の最後に紹介しておかなければならないのは、電力系統の運用を担当する独立機関の役割だ。

その組織の名はCAISO(カイソ)という。カリフォルニア独立系統運用機関(California Independent System Operator)の略称である。発送電分離が行われているカリフォルニア州では、送電系統の運用は電力会社ではなく独立した非営利組織であるCAISOが行っている。

CAISOのホームページにはその役割を紹介するビデオがあるが、登場するCEOの言葉の冒頭に出てくるのは、いかに自然エネルギーを積極的に導入しているか、という説明である。百聞は一見にしかず。3分程度の短いものなので、ぜひご覧になることをおすすめする(ビデオタイトル:California ISO overview)。気象予測による自然エネルギーの発電量予測なども積極的に行って、スムーズに系統に取り込む努力をしていることがよくわかる。

ちなみに、東京電力で系統運用を行っている中央給電指令所の動画もホームページで公開されている(ビデオタイトル:2011/7/1 東京電力株式会社中央給電指令所)。コメントはあえて控えるが、こちらも比較して見てみると彼我の違いがわかると思う。

独立の系統運用機関

CAISOは、州都サクラメントから車で一時間ほどの郊外都市フォルサムに立地している。ニューヨーク州の系統運用機関NYISO(ナイソ)もそうだったが、CAISOもちょっと外から見ると何の建物かわからない。系統運用をつかさどる重要機関であるだけに、テロ攻撃にさらされにくいようにしているのだそうだ(門から建物までの進入路を複雑なU字型にしたり建物を地盤面からせり上げて、重量車両による攻撃を防ぐ工夫もされていた)。

CAISOは1998年に設立された機関で、電力小売り会社や発電事業者からは独立した組織だ。その運営方針を決定するのは州知事に指名され議会で承認された5人のメンバーからなる理事会である。職員数は580名ということだったが、全員が固有スタッフで電力会社からの出向者などはないとのことだった(これもNYISOで聞いた話と同じだ)。

本年4月、訪問したときに系統運用ルールを紹介してくれたスタッフは、説明の中で「自然エネルギーは、Must-take(つまり、必ず接続すべきもの)だ」と述べていたのが印象的だった。前回書いたように、2020年に33%導入が電気事業者に義務付けられており、系統運用機関も全ての自然エネルギーを接続することを当然の前提として、電力系統の運用が行われているのである。

積極的な情報提供

ここまで紹介したことだけでも、日本の電力会社の系統運用組織とはずいぶん違うことがおわかりいただけると思うが、自然エネルギー利用の状態の情報公開もずいぶん違う。CAISOのホームページでは太陽光、風力、地熱など種類ごとに自然エネルギーがどれだけ系統につながっているのか、リアルタイムで見ることができる。アプリも提供されていてスマートフォンでも動きがみられる。

また日ごとの状況をまとめたデータも翌日には公開される(CAISO公式サイト上の「Daily Renewables Watch」で閲覧可能)。「Daily Renewables Watch for 07/28/2014」などと日付入りで示されたレポートには、日々の電源別の発電量(1時間ごとの平均)も示されているが、ご注目いただきたいのは、自然エネルギーが一番下に置かれていることだ。日本では、政府や電力会社が描くグラフでは必ずこの位置に原発と石炭火力が置かれているのは、みなさんご承知のとおりである。

自然エネルギー50%を系統へ

カリフォルニアでは、2020年に大規模水力以外の自然エネルギーで33%を供給するという目標の達成が確実になる中で、2030年に目標を50%以上とする、という検討が活発に行われている。その中心になるのは太陽光と風力という変動型の自然エネルギーだ。これを系統に取り込むためには、何が必要なのか。CAISOでも様々な検討が行われている。カリフォルニア州以外の西部諸州とのネットワークを広げること、送電網の整備、蓄電池の導入なども進められているが。

時々、日本にもその動きが断片的に伝えられるが、注意すべきなのは、こうした取組が日本とは遥かに導入率の違う段階でのものだ、ということだ。日本では変動する自然エネルギーの導入率はたかだか2%程度。日本で学ぶべき最大の教訓は、系統運用機関が自然エネルギーを、Must-takeと位置付け、自ら積極的に接続を進める姿勢だ。もちろん日本には日本の技術的な課題もあるだろうが、大幅な導入を進めるという意思が明確ならば、その課題が大きな障害となることは決してないだろう。

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