連載コラム 自然エネルギー・アップデート

日本とドイツのエネルギー政策:福島原発事故後の明暗を分けた正反対の対応
この記事は、ロッキーマウンテン研究所のウェブサイトに2014年7月8日に掲載されたエイモリー・ロビンス博士による“How Opposite Energy Policies Turned The Fukushima Disaster Into A Loss For Japan And A Win For Germany”の日本語訳である。
英語オリジナル


2014年9月4日 エイモリー・B・ロビンス ロッキー・マウンテン研究所 共同創設者、主任研究員
自然エネルギー財団理事

日本は自らを小エネルギー国だと思い込んでいるが、この国民的な考えは、言葉の意味の混濁によって生まれたものである。日本は、化石「燃料」には乏しいが、太陽、風力、地熱といった自然「エネルギー」については、主要工業国のなかでも最も豊富な国である。たとえば、日本は、ドイツの9倍もの自然エネルギー資源を有している。しかし、自然エネルギー電力の導入量はドイツの9分の1(大型水力発電を除く)に過ぎない。

これは、日本の技術力が劣悪だったり、産業界が脆弱だったりするせいではない。政界との結びつきが強い地域独占の電力会社が、競争を拒んで自分たちの利益を守るという構造を、日本政府が認めてきたからだ。日本では、強制的な卸電力市場がないため、約1%の電力しか取引されていない。電力会社はほぼすべての送電線と発電所を所有しているので、自分たちの資産の競争相手となる事業者を、好きなように決めることができる。そのせいで、本当の競争市場なら市場の大半を占めるだろう活力ある新しい電力事業者たちのシェアも、2.3%に留まっている。こうした状況が、日本とドイツの電力事情に大きな違いをもたらしている。

2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所の事故の前は、ドイツも日本も、電力の3割近くを原発で発電していた。事故後4カ月のうちに、ドイツ政府は、2001年から2002年にかけて産業界と合意した脱原発スケジュールを復活させ、さらに1年早めて実行することを決めた。全政党の賛成を得て、ドイツの原発17基のうち、発電容量の41%にあたる8基を直ちに停止した(そのうち5基が福島原発と同タイプのもので、7基が1970年代から稼働していた)。残りの9基の原発は、2015年から2022年の間に停止される予定だ。

2010年、この8基の原子炉による発電量は、ドイツの電力の22.8%を占めていたが、ドイツ政府は、同時に、エネルギー効率化や自然エネルギーやその他の包括的7つの法案を成立させて、脱原発への移行中も完了後も、安定的な、低炭素なエネルギー供給を確実なものとした。ドイツの原発停止は決然と行われたが、これは長年にわたって熟慮された政策展開に基づくもので、福島原発事故の前や後に、周辺7カ国で決められた原発の建設中止や段階的な稼働停止とも整合性を持つものだ。

さらに、1980年より前に「エナギーヴェンデ(エネルギー大転換)」という言葉と概念が使われ始めたドイツでは、福島原発事故の20年も前の1991年に自然エネルギーへの移行が正式に始まり、2000年の固定価格買取制度でその動きに拍車がかかった。今では、自然エネルギーの導入量は7000万キロワットをはるかに上回る。この買取制度は、補助金ではなく、自然エネルギーという社会資産に対して、利用者が購入し、事業者が出資・開発するための手段であり、売り手は投資額に応じた相応の利益を期待できる。自然エネルギーのコスト低下とともに固定価格が下落している今は、自然エネルギー事業者が固定価格より高い市場価格から利益を得るのが一般的となっている。

こうした統合的な政策枠組みとそれを裏づける確実な分析によって、2011年に原子炉8基が停止し失われた発電量は、その年のうちに、59%の成長率をみせた自然エネルギー、6%のエネルギー使用の効率化、36%の電力輸出の一時的な削減によって完全に補うことができた。2010年と比べた原発発電量の減少分は、2012年までには94%、2013年までには108%が、自然エネルギーの増加で補われている。この調子で自然エネルギーが成長していけば、2016年までに、福島原発事故以前のドイツの全原発発電量を置き換えることができるだろう。

間違った報道が拡がっているのとは正反対に、8基の原子炉が停止しても、化石燃料の燃焼量は増加していない。ドイツで自然エネルギー資源が利用される場合は、法的にも経済的にも、常にそれよりコストの高いエネルギー源に取って代わることが求められているため、自然エネルギーによる発電の増加は、常に火力発電の稼働を減少させることになるが、実際のパターンはもっと複雑である。データによれば、2010年から2013年の間に、ドイツの原発による発電量は43.3 TWh(433億kWh)減少し、自然エネルギーによる発電量は46.9 TWh(469億kWh)増加した。その間、発電部門では石炭と亜炭の燃焼量が増加した分だけ、よりコストの高いガスや石油の燃焼量が減少した。エネルギー転換に否定的だったドイツの電力会社の戦略は失敗に終わった。今になって、彼らは、自分たちが長年投資を怠ってきた自然エネルギーのせいで、火力発電所の採算性が悪化し、稼働できなくなったと不平を言っている。

大手電力会社が自ら招いたこうした苦難をよそに、ドイツは、効率化・自然エネルギー化を推進し、完全に公正な競争を保障するために、首尾一貫した効果的な戦略をとった。一方日本では、大幅に失われた原発の発電量のほぼすべてを、高価な化石燃料の輸入増加により補った。こうした正反対の政策が、正反対の結果をもたらした。

2011年の夏、日本人は見事な団結力で電力不足を乗り切った。うだるような暑さの中、多くの人々が個人的な犠牲を払った。そして、東京では、都の政策により、最大電力需要が1070万キロワット、なんと18%も削減され(大企業では異例の30%減を達成)、東京電力の最大電力需要における原発発電の減少分をほぼ補った。都市部では、東京電力の販売電力量は11%減少した。しかし、ここまでの事例が日本全体で起こったわけではなく、結果として発電所の燃料使用量は増加している。対照的に、電力供給に余裕があるドイツは、電力輸出が輸入を上回る電力輸出国の立場を保ち、原子力が発電の多くを占めるフランスにも輸出を続けている。ドイツによる電力の純輸出は、ここ2年連続して過去最高を記録している。

経済においても、日本が低迷するなか、ドイツは活気づいた。エネルギー転換によるマクロ経済的効果の一環として、数十万もの自然エネルギー関連の雇用が生まれた。日本では電気料金が上昇したが、ドイツでは卸電力価格が60%以上下落した。2013年だけでも13%下がり、年間予測価格は8年ぶりの最安値となった。そのために、フランスのエネルギー多消費型企業は、電力価格が4分の1も安いドイツの競合企業には勝てないと文句を言っている。最近流布している「ドイツの産業空洞化」という捏造神話は、まったく皮肉たっぷりの内容だ。というのも、ドイツの大企業が支払っているのは下がり続ける安い卸電力価格であって、その安い卸電力価格を生み出している自然エネルギーへの支払いや、送電網料金の支払いは免除されているからだ。その分の負担は一般家庭にのしかかっているが(電気料金の半分が税金)、供給業者の古い契約が更新されるにつれて、卸電力価格の低下も反映されるようになり、今では一般家庭向けの電力価格も安定してきた。

日本による温室効果ガスの排出量は増えたが、ドイツの発電所や産業では、温室効果ガスの増加を抑制している(ドイツでは2013年の発電部門の排出量がわずかに減少した。固形燃料の燃焼量は増えたが、エネルギー効率化が進んだため、発電量の上昇分と比べてわずかに排出を抑制できた)。ただし、正確を期すならば、2012年のドイツ全体の温室効果ガス排出量は厳冬のためにわずかに上昇し、2013年も、ガス価格の急騰、米国市場の縮小による安価な石炭の流入、欧州の温室効果ガス排出取引市場における過当な割り当てという3つの要因によって、石炭火力による電力の輸出が記録的に増加したため、わずかに上昇した。しかし、2014年の第1四半期には、ドイツにおける石炭の燃焼量と温室効果ガスの排出量は再び縮小に転じ、今後もこの傾向が続く見込みである。ドイツの温室効果ガス削減の取り組みは、京都議定書で定められた目標をはるかに超えるレベルで進められており、欧州のなかでもひときわ厳しい条件を達成している。

つまり、ドイツの政策は、自然エネルギーに対して公平な送電網へのアクセスを保証し、競争を促し、独占状態を排し、自然エネルギー容量の半分を市民や地域社会が所有できるように支えてきたのだ。2013年、ドイツの原発発電量はこの30年で最小となる一方で、自然エネルギーによる発電量は56%増加し過去最大となった。2014年の第1四半期には自然エネルギーの国内での電力消費に占める割合が平均27%に達し、5月11日には過去最高となる74%の発電を記録した。

日本はドイツと比べて、国土が5%広く、人口は68%多く、GDPは74%高く、太陽も風もはるかに優れた資源量がある。しかし、2014年2月に導入された太陽光発電量はドイツの約5分の1に留まり、風力発電に至ってはほとんど導入されていない。2012年、日本の電力のうち、こうした自然エネルギーによる発電が占めた割合は、わずか0.97%(インドの3分の1、世界では29位)で、2013年は1.5%だった。受注パイプラインにあるおよそ4100万kWの電力(その95%が太陽光発電)の大半は、電力会社の形式主義と非協力的な態度によって、合法的に放置されているのだ。

日本の政治家は、その日の丸の国旗に示された神聖な太陽以上に、世界市場を支配しつつあるエネルギー源の普及を阻害する旧態依然とした政策を尊重しているようだ。2008年以降、世界で新しく導入された発電容量の半分は自然エネルギーだ。主に風力と太陽光からなる水力以外の自然エネルギーには、2500億ドル(約25兆円)の民間投資が行われ、その導入量は過去3年間で毎年8000万kW以上増加した。世界の4大経済大国のうちの3カ国、中国、日本、ドイツに加え、インドにおいては、今では原発より水力以外の自然エネルギーによる電力量が多くなっている。ここに日本が含まれているのは原発の発電量がほぼゼロだからであり、自然エネルギーに出遅れた先進国であることに変わりはない。ただ、2014年5月に行われた大飯原発の再稼働をめぐる裁判で、安全性を理由に再稼働を禁止する判決が下されたのは意外だった。電力会社の利益より市民の安全が優先された初めての判決である。もしかしたら、これをきっかけに新しい動きが起こり、行政および立法部門によるうわべだけの改革――2016年に実施予定の名ばかりの「自由化」――をしのぐ変化が生まれるかもしれない。

世界で最も積極的な原発計画を打ち出している中国でさえ、2012年から2013年にかけて、すでに風力の発電量が原発を上回るものとなった。中国が2013年に導入した太陽光発電量は、太陽光発電の開発国である米国がこれまでに導入してきた全容量よりも多い。しかし、日本は逆の方向へ進んでいる。2012年7月に自然エネルギーの固定価格買取制度が導入され、その後わずか20カ月間で8 GW(800万kW)の自然エネルギーが運転を開始したが、そのうち太陽光が97.5%を占め、風力はわずか1%という状況だ。風力発電、特に最もコストが安い陸上のものは、昔は承認手続きが面倒で時間のかかる独特なものであったために、今では自分たちの地域の送電網に競合企業を入れたくない独占的な電力会社に徹底的に反対されているために、普及が進んでいないのだ。日本風力発電協会は、2050年における陸上風力の市場シェアの目標値として、スペインが3年前に達成したものと同じ数値を掲げている(※2014年6月に新しい目標が発表され、2500万kWから3500万kWへと若干上方修正されている)。

こうした事態を生み出した原因を理解するのは難しくない。太陽光発電は、発電コストの高い日中のピーク電力を補うことができるが、その固定価格買取制度の仕組みは、電力会社が得をするようになっている。一方、夜間にも稼働する安価な風力発電が石炭や原子力の代わりに使われるのは、電力会社にとって損となる。電力会社が旧来の「ベースロード」発電所に置き換わるような自然エネルギーの電力を拒否できる権利は、日本の最新の規則でも繰り返し述べられている。電力会社がコストの高い火力発電を使い、運転コストがほぼゼロの風力発電を拒絶しているせいで、世界のなかでも高い日本の電気代がさらに高くなっている。このことを日本の産業界のリーダーたちが知ったら、憤慨するのではないだろうか。

2013年後半(ドイツの改革開始から23年後)に日本の衆議院を通過した電力システム改革法案でも、電力会社が安価な自然エネルギーによる電力を拒否することが、理由を問わず認められている。自然エネルギーは送電網の安定性を阻害する可能性があるという人も多い。それでは、2013年の自然エネルギーのシェアが25%を占めるドイツや、47%以上を占めるデンマークの電力が、欧州で最も信頼性が高く、米国と比べても約10倍の信頼性を誇るのはなぜだろうか?この2カ国に加え、2013年の電力の約半分を自然エネルギーで発電したスペイン(45%)、スコットランド(46%)、ポルトガル(58%)の欧州3カ国(どの国も水力発電は多くない)で求められているのは、公平な送電網へのアクセスと公平な競争だけだ。これを必要としていないのは、主要工業国のなかで日本だけである。

ドイツではエネルギー利用の効率化も進んでいる。過去3年間、ドイツではGDPが伸びる一方で電力消費量は減少している。1991年から2013年の間、つまり東西ドイツ統一後、ドイツの実質GDPは33%成長したが、一次エネルギーは4%、電力使用量は2%減少し、温室効果ガス排出量も21%減少した。今後、さらに野心的な省エネ計画も用意されている。

一方、日本のエネルギー効率化は1970年代には世界トップレベルだったが、その後停滞してしまった。日本の産業は改善を続け、今も11の主要工業国のなかで最も高い効率性を誇る。しかし、産業用コージェネレーション(熱電併給)の導入や商業ビルのエネルギー効率化では10位、トラック輸送分野では8位、自動車では最後から2番目(米国と同位)に甘んじている。実は、日本ではエネルギー価格が非常に高いため、効率化はとても収益性があり、とりわけ、ほとんどの建築物で大きな効果がある。たとえば、京都駅前にある半導体企業「ローム」の本社ビルでは、エネルギー消費量を46%削減、コストは2年で回収した。しかし、東京都の効率化への取り組みなど、いくつかの例外はあるものの、長い間日本の産業を特徴づけてきた「カイゼン」(継続的な改善)が行われている日本のビルはほとんどない。

日本の経済と政治の復興には、古い体制を保護するかわりに、新しいエネルギー経済を生み出す自然エネルギー導入とエネルギー効率化への新たな飛躍が必要だ。松尾芭蕉の有名な俳句「古池やかわず飛び込む水の音」に詠まれているように、日本の蛙も飛躍することはできる。だが、いまだ水の音は聞こえてこない。

本記事は、 2014年1月18日付の朝日新聞に日本語で掲載された論説を編集、更新し、大幅に拡張した完全版である。


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