連載コラム 自然エネルギー・アップデート

ドイツにおける入札制度の現状 英語オリジナル

2015年12月25日 クレイグ・モリス Renewables International 編集者 および
EnergyTransition.de 筆頭執筆者

 自然エネルギーによる電力のコストを削減する手段として、オークション制度(入札制度)が世界中でもてはやされ始めている。本記事では、その理由と、入札制度によってなにを失うのかを概説する。

 欧州委員会の要請もあって、ドイツでは固定価格買取制度から入札制度への移行が進められている。2017年までには完了する予定だ。本年11月までに実施された地上設置型太陽光発電向けの試験的入札は2回にすぎず、そして、今のところ、期待どおりの結果はほとんど得られていない。

 まずは価格について見てみよう。FiT価格がkWhあたり8.53ユーロセントのところ、1回目の入札の落札価格は、kWhあたり8.93から9.17ユーロセントだった。2回目の落札価格はかなり下がって8.49ユーロセントとなったが、落札した業者のプロジェクトが完成するのは、最大24カ月先のことであり、2年後には、固定買取価格も8.43ユーロセント以下に下がることが予想される。

 一方で、最近、アラブ首長国連邦のドバイで行われた太陽光発電への入札で、約6米セントという記録的な価格が出現している。しかし、ドバイの日射量はドイツの2倍なので、同じ太陽光パネルを使っても、発電量はドイツの約2倍になる。逆に言えば、ドバイに導入された太陽光発電施設をドイツに設置した場合、太陽光発電コストは約12米セントになると予想される。ドイツの日射条件を考慮して換算すると、ドイツの固定価格買取制度ですでに実現している低価格は、入札ではまだ実現されていないことになる。

 ここで、設備利用率(CF:capacity factor)に注目したい。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)作成の下図は、世界中の風力発電所の平均設備利用率を地域別に示している。設備利用率とは、その設備の最大発電可能量に対する実際の発電量の割合である。風力発電機の場合、設備利用率は間接的に風況を反映する。図中のそれぞれの円の大きさは、左軸の設備利用率で導入された風力発電所の規模を示している。世界的に見ると、欧州、特にドイツの風力は、風況がかなり悪い場所に導入されている。一方、ブラジルの風力は、平均的に風況が良い場所に導入されていて、設備利用率も全世界で最高となっている。2013年に入札制度で風力発電の価格引下げに成功したと称賛されたのは、どの国だったか?風況に恵まれたブラジルである。



 入札制度を擁護する人たちは、入札者同士の競争が価格低下をもたらすと主張する。だが実際のところ、入札では別の競争が発生してしまう。つまり、風力資源や太陽光資源に恵まれない場所が、条件に恵まれた場所と競争しなければならなくなるのだ。結果として、風力は風の強い場所に、太陽光は砂漠に、大量導入されることになる。

 ほかにも、系統拡張のためのコスト増加、海岸線の魅力的な景観を変えてしまう巨大風力発電所に対する市民の反感の(潜在的な)増幅、市場集中などの影響が出る。「競争」を促進するはずの政策が、実際には落札できる業者数を減らしているのだ。一度入札で負けた小企業は、次回からはわざわざ入札しなくなるかもしれない(入札は参加するだけでも費用がかかる)。その結果、最終的には大企業が小企業を市場から締め出し、価格上昇をもたらす可能性もある。実際、最近ブラジルで実施された風力発電向けの入札では、落札業者の数が減り、価格は上昇した

 ドイツ政府による太陽光発電向け入札は、2013年11月の連立合意文書で明示されたとおり、「この方法でエネルギー転換のコストを低減できる」かどうかを試すという明確な目的で実施された。価格が基本的に変わらないことが周知された今、政府の意向は「政策コスト低減を継続する」(2015年7月発行の入札制度に関する公式文書)という遠慮がちなものに留まり、入札制度で固定価格買取制度より低価格を実現するとは言及されなくなった。

 さらに悪いことに、ドイツの太陽光発電向け入札は、既に落札できる業者数に壊滅的な影響を与えている。1回目の入札では、25件の契約に対して170業者が入札した。つまり、参加業者の80%にあたる145業者が落札できなかった。2回目は、落札できたのが33業者、できなかったのが103業者であり、75%が敗者となった。市民によるエネルギー協同組合は、どちらの入札でも落札できなかった。

 では、ドイツ政府はなぜ入札制度への移行に固執しているのだろうか?理由の一つに、固定価格買取制度より入札制度を推進したい欧州委員会の意向があるのは確かだ。しかし、本当の理由はおそらく別のところにある。固定価格買取制度がうまくいかない場合は、政府の失敗だと思われるが、入札制度がうまくいかなくても、それは市場の失敗だと受け止められる。入札の落札価格が予想より高くなったとしても、その価格を決めたのは政治家ではなく市場である。また、落札業者が契約を履行できなくても、悪いのは政治家ではなくその業者である。このような状況は、選挙を控える政治家にとってはそもそも魅力的なのだ。

 公平を期すために言うと、すぐに購入できないような大規模インフラを政府が調達するとき、入札制度は一般的で便利な方法である。たとえば、新しい橋の建設費用を見積もりたいとき、インターネット通販では答えは出てこない。いくつかの業者に確認してみる必要があるのだ。

 しかし、自然エネルギーのプロジェクトは違う。小規模なものも存在するからだ。むしろ小規模である方が好ましく、それらがたくさん集まって量を確保するべきだという意見もある。欧州委員会も、6 MW未満の小規模プロジェクトには、入札への参加を強制せず、今までどおり固定価格買取制度を利用できるようにするべきだと提案している。大規模なウィンドファームや太陽光発電施設向けに入札制度を推進しようとする政府も、地方自治体、市民による協同組合、小企業などが主導する小規模プロジェクトに対しては、固定価格買取制度の継続を検討するべきである。小規模プロジェクトの実施により、中小企業の強化と地域社会の活性化が進む。さらに、市場の勝者が増えることになるので、政府の方針に対して当事者意識を持つ人も増えるだろう。

 入札制度への移行に関するドイツ政府の弁明の変化について、助言を与えてくれたIASS(持続可能性高等研究所)のパトリック・マッチホス氏に感謝する。


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