連載コラム 自然エネルギー・アップデート

IPCC最新報告書における原子力発電の位置づけ

2014年5月22日 明日香壽川 東北大学 東北アジア研究センター教授/環境科学研究科教授

日本には、「IPCC(気候変動に関する政府間パネル)」は原子力発電を推進」と誤解している人が少なくない。しかし、実際には、「原子力発電は温暖化対策に貢献するものの、決して不可欠なものではなくリスクも大きい」というのが最新のIPCC第五次評価報告書(以下では報告書)のメッセージである。

まず、報告書の第三作業部会の政策決定者用要約には、原子力発電の評価に関する次のような記述がある。

(筆者訳)「原子力エネルギーは低炭素エネルギー供給への貢献を増やしていく可能性はあるものの、様々な障壁とリスクが存在する(確実な証拠と高い合意に基づく)。それらは、運用リスクおよび関連する懸念、ウラン採掘リスク、金融•規制リスク、未解決の廃棄物管理問題、核兵器拡散の懸念、および反対世論などである」

また、産業革命以降における世界平均気温の上昇を一定温度以内に抑制するという目標達成に必要なコストに関して、原子力発電などの特定技術の有無によるコスト変化が分析されており、技術的要約(p.47)には以下のような記述がある。

(筆者訳)「580 ppmCO2eqを超えないシナリオの場合、利用可能な発電技術の組み合わせから原子力発電を除いたとしても、除かなかった場合に比較してわずかの対策コスト上昇のみをもたらす」

さらに、コスト上昇が小さい理由として、報告書本文第6章(p.51)では、以下のような記述がある。

(筆者訳)「発電技術(例えば、風力、太陽光と原子力)および熱供給技術は、その有無がコスト増加割合に与える影響において低い値を示す傾向がある。それは、ネガティブな排出をもたらすことが不可能であることと、利用できる低炭素の発電技術は複数あって互いに代替可能だからである」

これは、たとえ原子力発電をフェーズ・アウトしても、代替可能な低炭素発電技術が存在してコスト増加もそれほど大きくないことを示している。したがって、「地球全体で見た場合、原子力発電なしでの2度目標達成は技術的には可能であり、経済的に大きな追加的負担をもたらすものではない」というのが報告書のメッセージだと考えられる。

このように報告書は、原子力に対して厳しい内容となっており、その証拠に実際に原子力を推進する人たちからは不評である(ネットでIPCC、Nuclear powerなどをキーワードに検索すると、そのような不満の声はすぐに見つかる)。したがって、今後、各国が温暖化対策のためという名目を強調して原子力発電を推進することは、最新のIPCC報告書の内容を踏まえると、そのリスク、コスト、代替発電技術の有無などからますます容易ではなくなると予想される。