連載コラム 自然エネルギー・アップデート

日本の投資家への警鐘 英語オリジナル

2015年11月5日 トーマス・コーベリエル 自然エネルギー財団 理事長

 20世紀において最も低コストな発電方法は、ウランと化石燃料によるものだった。発電所の規模が大きいほど、キロワット時あたりの発電コストが低かったのだ。
 使用燃料ごとに役割も異なっていた。石炭やウラン等の燃料は、天然ガスや石油より安価だが、石炭火力発電所や原子力発電所の建設費用は、石油火力発電所や天然ガス発電所より高い。その結果、石炭火力や原発のような建設費のかさむ発電所は、いったん建設されると技術的に可能な限り常時稼働され、建設費が比較的小さい石油・天然ガスの発電所は、割高な燃料を燃やすことが妥当なときに限り稼働した。
 そのため、石炭火力発電所や原子力発電所の閉鎖が、常時稼働する同様の発電所の追加建設に結びつくこともあった。

 しかし今世紀、産業技術の発展により、より低コストの電気を消費者に供給できる新しい方法が開発された。
 新たな発電設備を導入する際には、世界のほとんどの地域で、風力発電が最も低コストの選択肢となっている。太陽光発電は、多くの地域で、消費者が自ら発電することにより利益をあげられる方法になっている。しかもエアコンの利用がピークにある時に、発電会社のピークロード電源と競合できる価格を実現しつつある。

 この調子で発展が続けば、日本の電力システムがどうなるのか、補助金によって自然エネルギーが早くから発展を遂げてきたデンマークやドイツをみれば、見当がつく。
 太陽光や風力発電は、燃料コストをかけずに電力を供給できる。最も安いウランや石炭でも、太陽光や風力には勝てない。その結果、こうした資本集約的で柔軟性に欠ける燃料依存型の発電所は、多くの場合、電力供給システムで競争に負け、もはや収益性を失っている。一方、発電の柔軟性という点では、小型の火力発電所のほうが優れていることがあるので、大規模な発電所が次々と永久停止に追いやられても、小型火力は収益性を保っている。

 こうした変化は、消費者にメリットをもたらしている。電力供給システムに自然エネルギーが統合された欧州やアメリカの地域では、電力取引価格が最安値を記録している。ドイツの家庭が、これまでの高価な太陽光発電設備費用を負担し続け、コストを下げてくれたおかげで、他の国々の消費者は自然エネルギー投資の恩恵に預かっている。スウェーデン人は現在、日本の電気料金の2/3しか払っていない – しかもそのうち半分が、国家予算に入る電気税と消費税なのだ。

 消費者が価格競争と素晴らしい自然エネルギー技術の恩恵を受ける一方で、その結果もたらされる電力価格の低下と変動は、電力会社を悩ませる。欧州の電力会社は、ここ数年、石炭火力発電所と原子力発電所の資産評価を切り下げざるを得なかった。新設された石炭火力発電所が、商業運転開始前に価値を失ってしまったというきまりの悪いケースもあった。安価で競争力のある自然エネルギーに押され、大規模発電所の価値は、何十兆円も失われている。

 20世紀に米国で、「エネルギー・フューチャー・ホールディングズ」という会社が、石炭火力発電を中心に据えて設立された。その頃は石炭火力が、競争力があり財務的にも安全な「ベースロード」電源だと信じられていたのだ。
 しかし本社を置くテキサス州が、その後、米国最大級の風力発電の集積地域となり、最近では太陽光もかなりの規模で導入されたため、電力価格が下がり、「ベースロード」電源はもはや経済的に安定したものではなくなってしまった。そして2014年4月、この会社は倒産した。

 日本の政策立案者たちはこれまで、一般家庭や電力多消費型産業の側ではなく、大手電力会社の側に立ってきた。しかし日本の電力市場にも、徐々に競争がうまれつつある。
 柔軟性のない大規模発電所への投資を検討される方は、経済効率に関して先進的な他の国から学ぶべきだろう。風力・太陽光発電が最低コストの電力を供給し、残りの需要を柔軟性の高い小規模発電所が賄うようになると、化石燃料による火力発電所の価値は、失われていく可能性があるのだ。

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