連載コラム 自然エネルギー・アップデート

フォルクスワーゲン社の不祥事から学ぶべきこと 英語オリジナル

2015年10月29日 クレイグ・モリス Renewables International 編集者 および
EnergyTransition.de 筆頭執筆者

フォルクスワーゲン(VW)の排ガス不正問題に関して、ドイツ国内では経済全体への影響を中心に議論が続いている。政治家は、当然ながら、ドイツ車販売台数の急落だけでなく、世界的な「ドイツブランド」イメージの失墜を危惧している。しかし実際のところ、今回の不正問題は、ビジネス上「してはならないこと」を示すだけでなく、「本当にすべきことは何か」を示唆するものでもある。

主にドイツ政府やドイツ自動車業界のロビイストたちの要請を受けて、欧州連合は今回の不正を示すデータを放置してきた。すでに明らかになったように、欧州委員会は、2007年時点で、屋内試験時と路面走行時の排ガス量に開きがあることを把握していたのだ。オランダ人専門家は、2010年と2013年の2回にわたり、同様の報告をしている (PDF)。2011年には、ドイツ人環境専門家からも指摘が上がっていた(レポート[ドイツ語])。自動車メーカーによる不正行為の疑いは、国内政治家の間でも広く認識されていたはずだ。実際、今年7月には、ドイツ緑の党が政府にこの問題に関する調査を要求している。今後、数週間から数ヶ月間で、内部関係者がどの程度今回の件を把握していたのか明らかになるに違いない。

2008年、問題のEA189ターボディーゼルエンジンを発売した当時、フォルクスワーゲンは世界最大の自動車メーカーを目指していた。具体的には、米国を中心にプリウスの売上が好調だったトヨタから王座を奪うことが目標であった(レポート[ドイツ語])。しかし、VWはハイブリットカーのような本物の革新的技術を創出するのではなく、既存技術、つまりディーゼルに固執したが、国内トップクラスのエンジニアをもってしても、適正な価格で規制対応とエンジン性能を両立させることはできなかった―そして、隠蔽が始まったのだ。

こうした過去は過去として受け止めなければならないが、問題は今後どうすべきかだ。まず肝に銘じておくべきは、「クリーンディーゼルは一般市場で勝者にはなれない」ということだ。ドイツ国内で最も売れている小型車「シュコダ・ファビア」のディーゼルタイプは16,000ユーロ(約218万円)である。ガソリンタイプに比べて数千ユーロも高い。ドイツ政府は、ディーゼル車販売促進策としてディーゼル燃料税をガソリン税より約25%引き下げた。昨年ドイツ国内で販売された自動車のうちディーゼル車の割合は約50%、フランスでは70%に達した。この数値を踏まえた上で、最近パリの大気汚染レベルが中国都市部並みに悪化している状況を考えた時、新たな見解が浮かび上がってくるだろう。ディーゼル車に対する税制優遇措置は止めるべきだ。

エコカーの製造に関しては、トヨタが大きくリードしており、後続のテスラが勢いを増している状況である。ドイツ自動車メーカーは、ハイブリッドカーの採用に遅れをとり、積極性にも欠いた。電気自動車(EV)についても、見るべき成果はほとんどない。対照的に、トヨタにとってハイブリッドカーはお手の物だ。それだけでなく、いよいよ燃料電池自動車(FCV)の実用化計画も軌道に乗せた。延々とFCV開発を続けてきたメルセデスは昨年、FCVのリース(販売ではない)を2017年から開始すると発表した。EVとFCVのどちらが優れているかについては激しい議論があるが、どちらに肩入れしようが否定できない点がある。「ドイツ自動車メーカーは、どちらの分野でもリーダーではない」という事実だ。ドイツ自動車メーカーが最も得意とするのは高燃費の高級セダンであり、環境を破壊するスポーツカーなのだから。ドイツ政府は、大気汚染問題に正面から向き合い、EV用充電施設網の確実な構築を進める必要がある。

周知の通り、メルケル首相は、国内雇用の実に7分の1が、何らかの形で自動車産業に支えられている、と述べている。今後の生き残りをかけて、ドイツのエンジニアはまずライバルである日本の自動車メーカーや、自動運転車に取り組むGoogle のような新規参入者のように、新技術の習得から始める必要があるだろう。今後10年間のうちに、誰もがマイカー所有を止め、超低燃費かつ自動運転型の(主として)EVと公共交通機関を併用するようになるかもしれない。

最後に、避けては通れないポイントがある。将来の移動・交通の主役は、ハイブリッドカーでもEVでもなく、徒歩、自転車、そして公共交通機関である、という点だ。こうした運輸部門の移行を達成するには、より良い都市計画や各交通機関の連携が必要だろう。その結果、自動車販売台数は減り、自動車メーカーは事業縮小、それに伴う人員削減を余儀なくされる。しかし、環境にはプラスに働くだろう。失業者は他に職を求めることになるが、そうした労働力の受け皿となるのが、電動モビリティ(E-モビリティ)、ソフトウェアネットワーキング、電池貯蔵などの分野である。今なら、ドイツの政策立案者は、こうしたプロセスの構築を開始できる。そうでなければ、次の10年間、統制のとれない状態のまま、市場が自然とその方向に進むだけだ。

先日、ドイツの自動車専門家ハラルト・リンネ氏は、VWの不祥事を「ドイツにおける『福島原発事故』だ」と述べ、「運輸部門における大転換がまさに始まろうとしている」と続けた(レポート[ドイツ語])。それだけ衝撃が激しいということだが、原発のメルトダウンで残りの人生が一変してしまった日本の人々の数を考えれば、VWの不祥事を福島になぞらえることは、あまり適切ではない。しかし、共感する点もある。福島をきっかけにドイツの電力業界でほぼ全面的なエネルギー大転換が進んだのと同様に、VWの不祥事をきっかけに運輸部門で大転換が起これば、素晴らしいことである。日本政府が原発事故から正しい教訓を導き出すことができれば、このなぞらえは、なおさらしっくりくる。ドイツ政府が、ドイツ最大の自動車メーカーの「メルトダウン」から、正しい教訓を得ることを願う。

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