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原子力20-22%は実現可能なのか? 英語版

2015年5月21日 高橋洋 都留文科大学教授・自然エネルギー財団 特任研究員

政府のエネルギーミックスを巡る議論が大詰めを迎えている。既に経済産業省の原案は提示されており、2030年時点の原発依存度、即ち、発電電力量に占める原子力の電源構成は、20-22%を目標とするという。本稿では、原子力20-22%は、実体としてどういう状況を指すのか、この数値目標は実現可能なのか、考えてみたい。

2030年の原子力の設備容量と電源構成

政府の予測では、2030年時点の総発電電力量は10650億kWhである。従って、原子力で2130-2343億kWhを発電することになる。このためには、設備利用率を70%とすれば、3474-3821万kWの設備容量が必要になる。

2015年5月現在、全国の原子力の設備容量は43基で4220万kWである。原子炉等規制法43条では、運転期間は原則40年と定められており、これを一律に当てはめれば、2030年度末時点の設備容量は18基・1918万kWとなる。上記の3474-3821万kWと比べれば、5割強に過ぎない。発電電力量に直せば、電源構成は11%に止まる。

表 原子力の設備容量と電源構成の目標値

条件 2030年度(末) 2050年度(末)
40年運転
設備利用率70%
設備容量 1918万kW 0万kW
電源構成 11% 0%
40年運転
設備利用率80%
設備容量 1918万kW 0万kW
電源構成 12.6% 0%
40年運転+島根・大間
設備利用率80%
設備容量 2193万kW 275万kW
電源構成 14.4% 1.6%
(43基+島根・大間)×半分運転延長
設備利用率80%
設備容量 3345万kW 1235万kW
電源構成 22% 8.1
出典:各原子力発電事業者ウェブサイトなどを基に筆者作成。

これを増やすにはどうすればよいか?設備利用率を80%に上げられれば、原発依存度は12.6%となる。建設中の島根原発3号基と大間原発が稼働すれば、2030年度末の設備容量は20基・2193万kWとなり、電源構成は12.6%となる。これら2つが共に実現すれば、原発依存度は14.4%になる。それでもまだ足りない。

どんなに楽観的な原発推進論者でも、これら2つが容易に実現するとは思っていないだろう。2014年度の原子力の設備利用率は0%であったし、大間原発については函館市が建設差し止め訴訟を起こしている。政府や電力会社が最も期待しているのは、例外的措置とされている、60年までの運転期間の延長だと思われる。では、何基を延長すればよいのか?

原子力の運転延長

設備利用率を70%とすれば、2030年時点で3474-3821万kWの原子力が必要なのだから、40年運転制にかからない1918万kWを差し引けば、1700万kW前後の運転延長が必要になる。これは、2030年度までに廃炉予定の25基・2300万kWの7割以上の数値である。設備利用率を80%とすれば、2300万kWの5割の運転延長で、電源構成は22%になる。恐らく政府の想定はこの辺りだろう。

しかし、運転延長を実現するのは容易ではない。原子力規制委員会の厳しい審査を通過するだけでなく、そのための追加安全投資も必要になる。地元や国民の反対もあるだろう。またこれらの中には、再稼働が絶望視されている福島第2原発の4基・440万kWも含まれる。

これまで自民党政権は、民主党政権が2012年9月に決定した「革新的エネルギー・環境戦略」をゼロベースで見直し、「責任あるエネルギー政策を再構築する」と繰り返してきた。その柱の1つが、「原発依存度を可能な限り低減する」だった。2015年5月現在原発依存度は0%なわけだが、原発事故前ですら前例のない60年運転を前提として22%を目指すことは、「責任ある」対応なのだろうか。

2050年の電源構成

また、今回のエネルギーミックスの議論では、2030年断面ばかりが注目されているが、2040年や2050年といった時点の状況も考慮に入れるべきであろう。本来エネルギー基本計画とは、「施策の長期的」な推進のためである(エネルギー政策基本法12条)。原発推進論者の多くは、2030年以降に原発依存度が急減しても構わないとは思っていないだろう。

40年運転制の下では、2040年度末に設備容量が558万kWに、2050年度末に0kWになる。仮に全ての原発を運転延長したとしても、2050年度末時点の電源構成は、(総発電電力量が同じとすれば)11%に過ぎない。

だとすれば、原子力20-22%を提案している政府が、新増設やリプレースを想定しているのは、想像に難くない。政府はこれまで一度もこれらを認めていないが、新増設やリプレースがあるかないかでは、エネルギー政策も原子力事業も根本的に変わってくる。原発事故後も一貫してこれらを求めている電気事業連合会などの態度の方が、率直で一貫性があると言えるかもしれない。

政府としては、2014年4月のエネルギー基本計画で、まず脱原発の革新的エネルギー・環境戦略を明確に否定した上で、今回のエネルギーミックスでは、2030年までの当面の方向性を確立する。今年中には原発の再稼働を実現させた上で、2年後のエネルギー基本計画の改定では、いよいよ新増設やリプレースを打ち出す。こうして時間をかけることで、国民感情との折り合いを図っていく目論見なのであろう。そのようなエネルギー政策が、政策の進め方が、「責任ある」のか、実現可能なのか、今後も注視していきたい。

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