連載コラム ドイツエネルギー便り

「電力を通じて、未来を選ぶ」

2016年1月25日 田口理穂 在独ジャーナリスト

1996年より北ドイツのハノーファーに住んでいる。ドイツは電灯の明るさも控えめで、倹約とろうそくが好きなためか、日本と比べて暗い印象がある。しかし、自動販売機や24時間営業のコンビ二がなくても不便はなく、暮らしやすい。

ドイツ人と電力供給会社の関係は、日本に比べて対等にあるように思われる。ドイツの人々は、1998年の電力市場自由化により電力供給会社を選べるため、会社の方針に同意できなければ別の会社を選ぶことができる。

ドイツには約1000の電力供給会社があり、自然エネルギーに特化していたり、値段が安かったりさまざまである。電力供給会社の比較サイトはいくつもあり、郵便番号を入れると数百の候補が出てくる。「料金」や「自然エネルギー」など、条件を指定して検索できるため便利だ。

ドイツでは電力料金の精算は年に一度である。毎月一定額を払うのだが、年に一度メーターをチェックし、使用量に応じて追加料金を払うか、払い戻しを受ける。メーターの確認は自分でするので、検針や毎月の料金計算のコストが省ける。
それを元に新しく算出した電力料金を、その後1年間支払うことになる。ガスや水道も同様である。私は南ドイツの「シェーナウ電力会社」から電力は購入しているが、メーター確認は地元のハノーファー電力公社に報告している。

以前は地元の電力公社から普通の電力を買っていたが、シェーナウ電力会社に変更したのである。変更は簡単で、新しい電力供給会社のホームページで申し込みの手続きをすると、これまでの電力供給会社との解約手続きをしてくれ、2週間程度で乗換えできる。しかし、電力を選んで買っている人はまだまだ少数派である。

シェーナウ電力会社は、1986年のチェルノブイリ原発の事故をきっかけに反原発運動を始めた市民が、自分たちの理想を実現するために市民有志でつくった会社である。当時は、電力市場は地域独占だったため、自然エネルギーを使いたいと思ったら、起業するしかなかったのである。2度の市民投票を勝ち抜き、ドイツ全土から寄付を募って送電線を買い取り、1997年に供給にこぎつけた。当初はシェーナウ市内1700世帯だけだったが、現在は全国に16万人以上の顧客を誇る。エネルギー共同組合であり、市民電力のシンボルとなっている。原発に反対しており、自然エネルギーを推進すべくさまざまな活動をしている。会社のポリシーを明確に打ち出すことで支持を受け、顧客獲得につながっている。

このようにドイツでは電力を通じて、自己の意志を表現することができる。エコロジカルな世界を望むのか、安ければいいのか。原発の電力を買う人がいなくなれば、原発は自然淘汰される。自然エネルギーを買うことは、個人でできる脱原発なのである。

写真:シェーナウのパンフレットや絵葉書。組合員や社員の顔がわかるため、メッセージ性があり、親しみがわく。


執筆者プロフィール
田口理穂
(たぐち・りほ)
日本で新聞記者を経て、1996年より北ドイツのハノーファー在住。ドイツの環境政策や教育、生活全般についてさまざまな媒体に執筆。
著書に『なぜドイツではエネルギーシフトが進むのか』(学芸出版社)、『市民がつくった電力会社 ドイツ・シェーナウの草の根エネルギー革命』(大月書店)、共著に『「お手本の国」のウソ』(新潮新書)など。