連載コラム 自然エネルギー・アップデート

考察「エネルギ-革新戦略案」
-VPPとは分散型エネルギ-システムである-

2016年2月26日 山家公雄 エネルギ-戦略研究所長、京都大学特任教授

【省エネ、再エネ、システム構築が革新戦略の主役】
 COP21にてパリ協定が成立したが、事前の予想を超える成果と評価されている。特に「今世紀後半に人為的な排出量を人為的な吸収量の範囲に抑える」という合意は、実質的に排出ゼロを目指すものと解されている。排出量第5位の日本の責任は重く、国際公約を確実に実現しなければならない。2030年までに2013年比26%削減するとの公約だが、エネルギ-の前提は昨年策定された長期需給見通しに基づく。具体的に実施するための骨子が「エネルギ-革新戦略」であり、早ければこの3月末までに取り纏められる。
 革新戦略案では、(GDP600兆円に向けた)成長とCO2削減の両立を目指すとし、その分野として「徹底した省エネ」、「再エネの拡大」、「新たなエネルギ-システムの構築」の3テーマが挙げられている。基本計画や長期需給見通しの中では、この分野は成長を主導するとは明示されていない。再エネを主に、3E+SのEconomyの視点から、コスト要因として強調されている。Economyには成長や規制緩和も含まれるが、その意味合いが浮上したようだ。欧州を主にこの3テーマは技術・産業・雇用のメリットが強調される。遅ればせながら、成長のエンジンという「便益」が意識されたようで、結構なことである。

【VPPは新ビジネスの主役】
 さて、「新たなエネルギ-システムの構築」に「新ビジネスの創設」が入っている。これには「節電インセンティブの抜本的向上」が含まれており、ルールを整備し2017年までにネガワット取引市場が創設される。また、「バーチャルパワープラントの技術実証」が進められる。これを経て、2020年内のバーチャルパワープラント(VPP)市場の実用化が予定されている。
 VPPは国民目線では唐突感がある。これは何なのか。政府の実証事業公募要領には「高度なエネルギ-マネジメント技術により、電力グリッド上に散在するエネルギ-リソースを統合的に制御し、あたかも一つの発電所(仮想発電所)のように機能」としている。エネルギ-リソースは、予算要求書では「再エネや蓄電池等のエネルギ-設備、デマンドレスポンス等の需要側の取り組み」とされている。実証事業はどのようなイメージか。「革新戦略」のなかに「蓄電池の大規模郡技術、気象予測・予測データを活用した再エネ電源の出力予測の精緻化、創エネ・蓄エネ・省エネリソースの統合制御のための通信規格の整備、需要家側設備からの逆潮流電力の計量方法の整理の事業」との表現がある。

【VPPとは分散型システムである】
 上記表現の中では、「創エネ、省エネ、蓄エネリソースの統合制御」が最もVPPの本質を表している。要するに分散型エネルギ-資源(DER:Distributed Energy Resources)を統合(インテグレート)して、自身、地域、グループで消費したり、販売したりすることである。これを最も経済的な規模とタイミングで実施する。そのためにはICT(最近はIoTが使われる)を駆使し、情報を集め分析し制御する。これは、一般には「分散型エネルギ-システム」と称される。デマンドレスポンスやネガワット取引も包含する。スマートグリッドといってもいい。VPPシステム構築には消費者活性化、再エネ普及、技術革新、効率的なインフラ形成等の効果があり、成長とCO2削減の両立はここに起因する。
 DERとは、太陽光発電、エネファーム等のコジェネ、蓄電池(放電)等の創エネ、蓄電池、EV、ヒートポンプ、冷蔵庫等の蓄エネ、節電、デメンドレスポンス等の省エネを括る概念である。創エネ、省エネ、蓄エネはある意味分かり易いのだが、相互に重なった部分があり(例えば需要は全てに跨る)誤解を招きやすい。「エネルギ-リソース」では分散の意味が薄れる。世界で使われるDER(分散型エネルギ-資源)を定着させた方がいいと考える。
 DERの概念と統合利用は、再エネが普及を掲げる欧州で検討が先行した。最近では、ルーフソーラー急増でインフラ整備問題に直面する米国にて、DERの効率的な配置や市場取引創造が検討されている。ニューヨーク州、カリフォルニア州、ハワイ州がその筆頭である。

【スマートグリッドを実現する環境が漸く整う】
 日本も、これまで、膨大な予算をかけて、スマートコミュニティ等の実証事業を行い、太陽光発電、蓄電池、スマ-トメ-タ、エネルギ-マネジメントシステム(HEMS、BEMS等)、情報に通じた家電、分電盤、タップ等の開発を行ってきた。DER間や需要家と系統運用者等とを繋ぐ情報・通信システムの開発や、政府の肝煎りで通信、インターフェイスの標準化が行われてきた。これらは、ハードやソフト事業者の開発を支援する役割を担った。名称はコミュニティでも、地域の実情に合わせたモデル構築には殆ど至っていない。小売り自由化や、再エネ普及策、取引市場整備やインフラ中立化等のシステム改革を伴わない限り、即ち前提条件を整えない限り、実証事業を超えた商業モデル構築のインセンティブは生じないのだ。
 しかし、小売り全面自由化が間近に迫り、1時間前市場を含む電力取引市場や、送電会社が自ら募集するリアルタイム市場の整備がスケジュールに上がるなかで、またFIT導入により太陽光が急速に普及しているなかで、DERを地域内で、グループ内で取引する機運が生じてきている。DERは統合して数量や時間の凹凸を均して運用することができ、個々に働くよりも規模の経済と効率性を生む。スマートグリッドは、本来そうした環境のなかで必要とされるものである。
 スマ-トコミュニティが始まったころは、全面自由化やシステム改革の見通しは不透明だった。そのなかでの実証の意味は曖昧だったが、漸く時代が追い付いてきた。そうした環境のなかでのVPPである。これは基本的に分散型システムでありスマートグリッドであるが、新たな時代の幕開けというという意味でフレッシュな表現もいいかもしれない。本質の説明は不可欠であるが。
なお、「新たなエネルギーシステムの構築」には当然全体運用を円滑化させるシステム、即ち市場取引の整備、インフラの中立化が含まれるはずである。これは電力システム改革そのものであり、「革新戦略」の根幹でもある。当然しっかりやるべきこととして敢えて明示されていないと信じたい。VPPの実現には、配電網整備および配電会社の活性化が不可欠である。

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