連載コラム ドイツエネルギー便り

ベースロード電源が邪魔者になる日(その2)

2015年8月11日 梶村良太郎 ドイツ再生可能エネルギー・エージェンシー

前回のコラムでは、自然エネルギーの拡大にともなって、なぜベースロード電源が邪魔になるか、ドイツで既定路線となっているシステム論をもとに説明した。風力や太陽光といった変動型自然エネルギーが増えると、系統運用に追従するという柔軟性(フレキシビリティ)に欠けるベースロード電源は、必要以上に余剰電力を生み出す足かせとなる。

ドイツについては、自然エネルギーの大量導入がガス火力発電所を経営難に追い込むなど、問題を引き起こしているという論調が少なくないが、この「自然エネルギー拡大=ベースロード電源の削減」という図式を念頭においておくと、問題の本質は自然エネルギーではなく、ベース ロード電源の存在だということがわかる。

ガス火力の経営難は容量過剰(オーバーキャパシティ)から

ドイツの電力市場が現在抱えている課題のひとつが発電容量、そして電力の過剰供給にある。

ドイツでは、自然エネルギーが拡大(2015年上半期で消費電力の32.5パーセント)する一方で、代替されるべき火力発電の削減が進んでいない。段階的な脱原発決議によって、その影響はいくらか緩和されているものの、自然エネルギーによる発電増は、脱原発による発電減を大きく上回っている。つまり、需要に対して供給が多すぎるため、市場からあぶれる発電所が現れている。

それでは、その容量過剰(オーバーキャパシティー)問題にどう対応すればよいのだろうか。

前回説明したとおり、自然エネルギーを増やす過程で、ベースロード電源を減らしていく必要があり、逆にガス火力など追従性のある電源は残余需要への対応に必要なため、存在価値が高まる(いずれは天然ガスからバイオガスなど、自然エネルギー由来のものに代替される)。

しかし、実際はその逆の現象が起きている。ドイツの電源別発電量の推移を見てみると、過去数年、自然エネルギーの拡大に押されるように、ガス火力が著しく減っていることがわかる。



ドイツの電力市場では、電力は限界コストが安い順に取引される、メリットオーダー方式を採用している。限界コスト(主に燃料コスト)の安い自然エネルギーの拡大によって、真っ先にメリットオーダーから押し出されて売れなくなるのが、燃料コストが比較的高いガス火力なのだ。

一方、温室効果ガスの排出が最も多い褐炭火力発電所は、限界コストが比較的安く、排出権価格の崩壊もあり、過去25年間と変わらぬ水準で稼働している。また、原発も限界コストが安く、ガス火力より優先的に取引されている。

現行の電力市場の取引システムは、系統追従する柔軟性=フレキシビリティに対するインセンティブがないため、発電容量が余っているにもかかわらず、本来削られるべき電源ではなく、維持するべきガス火力が減るという状況に陥っているのである。

事実、稼働率が下がり、経営が苦しくなっているガス火力発電所の例が頻発している。そのため、ガス火力発電所を多く運営しているドイツの都市電力公社の数々からは、褐炭によるベースロード発電の削減を求める声が上がっている。そうすることで、ガス火力への需要が回復し、経営が持ち直すからだ。

ネガティブプライス

ベースロード電源が多すぎる現在のドイツの状況は、ガス火力の経営難だけでなく、電力システムの柔軟性の不足によるさまざまな問題も起こしている。

ドイツでベースロード電源に分類されている褐炭火力や原子力は、現在、合計約20ギガワット(2,000万キロワット)前後の出力を日夜保っている。

その一方で、近年目覚ましい成長を遂げてきた自然エネルギーは、瞬間最大出力も伸び、この4月には風力と太陽光だけで40ギガワット(4,000万キロワット)超を記録した。

そして、自然エネルギーの出力が上がり、同時に需要が比較的低い時間帯だと、需要を超える余剰電力が発生し、電力の市場価格がマイナスの領域に突入する 「ネガティブプライス」という現象が、2、3年前から増え始めている。つまり、お金を払ってまで、余剰電力を引き取ってもらうという現象が起きているのだ。また一部では余剰発電を減らすために、風力発電機を一時停止させる事態も起きている。

しかし、実は、現在のドイツの水準では、自然エネルギーがどんなに頑張っても、需要の80パーセント程度で、単独で余剰電力を生み出すことはできない。ドイツ連邦経済エネルギー省が先日発表した電力市場白書 ⅰ も、「(現在の)電力市場は、自然エネルギーの"過剰生産"からは遠く離れている」としている。

「ネガティブプライス」が起こる原因はむしろ、ベースロード電源のフレキシビリティ不足にあると、シンクタンク、アゴラ・エナギーヴェンデが昨年発表した調査 ⅱ は明らかにしている。

自然エネルギーの出力が伸びると、まず系統追従性の高いガス火力、続いて石炭火力が出力を落とし、発電と消費の同時同量を維持する。そうなると、最後は主に自然エネルギーとベースロード電源が残る。

自然エネルギーがさらに伸びる(もしくは需要が下がる)と、今度はベースロード電源の出力を押さえなければならないが、惰性の強いベースロード発電所の出力調整はスピードが遅く、多大なコストがかかる。電力事業者はこのコストを嫌い、余剰電力に「ネガティブプライス」を払ってまで、出力調整を極力回避している。または、風力発電を一時停止して、ゼロに等しい限界コスト、そしてゼロエミッションで発電した電力を棄てる。そしてそのかわりに、化石燃料を燃やして温室効果ガスを排出するという、なんとも矛盾した行為をやっているのだ。

ベースロード電源が需給調整の足かせになり、いたずらに余剰電力を生み出すという、前回のコラムで紹介したシナリオは、すでに現実となっているのである。この「ネガティブプライス」やガス火力の経営難を、自然エネルギーが大量に増えたからで、あたかも自然エネルギーのせいだという論じ方が日本に伝わっている。だが、自然エ ネルギーへの転換がドイツの目標である以上、その増加を問題視することはまったくの矛盾である。実際は、ベースロード電源の容量過剰と、系統に追従するという柔軟性の不足が、問題の本質である。 ドイツ政府もこの問題を認識している。政府は、来年初頭までに、新しく電力市場法を策定する予定で、そのたたき台的存在である「電力市場白書」(前述)には、容量過剰の削減とフレキシビリティを促進するためのインセンティブ整備が盛り込まれている。


 ⅰ http://bmwi.de/BMWi/Redaktion/PDF/Publikationen/
weissbuch,property=pdf,bereich=bmwi2012,sprache=de,rwb=true.pdf

 ⅱ http://www.agora-energiewende.de/fileadmin/downloads/publikationen/Studien/
Negative_Strompreise/Agora_NegativeStrompreise_Web.pdf


執筆者プロフィール
梶村良太郎
(かじむら・
 りょうたろう)
1982年、ドイツ・ ベルリン生まれ。ビーレフェルト大学大学院メディア学科卒。現在、再生可能エネルギーの情報発信を専門とするNPO、Agentur für Erneuerbare Energien(ドイツ再生可能エネルギー・エージェンシー)に勤務。