連載コラム 自然エネルギー・アップデート

「連系線」にまつわる誤解と神話

2014年5月29日 安田陽 関西大学システム理工学部准教授

再生可能エネルギーに関しては、残念ながら多くの誤解や神話が日本に蔓延していると言わざるを得ない。数値を調べグラフを描けば一目瞭然なのに、エビデンスを示さずに先入観だけで議論すると、あるいは都合のよいデータだけで一面的な解釈をすると、誤解や神話が形成されやすい。本稿ではそのような神話を解体していきたい。

日本でよく言われる神話のひとつとして、「欧州は連系線が豊富だから再エネが入りやすい」「日本は連系線が少ないから入らない」というものがある。このような見解は、ネット上でも、あるいは「専門家」の間ですらも聞かれる。「連系線」とは電力系統同士をつなぐ送電線のことで、日本であれば電力会社同士の会社間(地域間)連系線、欧州であれば国際連系線と呼ばれ、現在議論が進行中の「広域系統運用」に直結する話である。

筆者は現在、主に欧州を中心とした世界の電力系統の設計や運用に関して国際比較分析を行っている。例えば昨年11月に電気学会研究会で筆者らが発表した資料「再生可能エネルギー大量導入のための日本の系統柔軟性評価」では、再生可能エネルギーの大量導入を可能とする電力系統の「柔軟性」について比較分析している。この「柔軟性」とは、簡単に言えば変動成分を調整するための電力系統の能力のことであり、現在、国際的に活発に議論されている重要なキイワードのひとつでもある。例えば国際エネルギー機関 (IEA) などでも今年4月に最新の報告書が発行されているが、日本ではまだまだこのキイワードやその概念自体が十分浸透しておらず、「風力や太陽光が増えるとその調整のため却って火力を炊き増してCO2が増える!」というような誤解がまかり通っているようである。

上記の筆者らの報告では、デンマーク、ポルトガル、スペイン、アイルランド、ドイツといった「風力発電先進国」および日本の電力系統を比較分析し、風力発電の大量導入を可能とする技術的要因について考察を行っている(図1)。ちなみにこの5ヶ国のうち、デンマークでは2012年末時点で風力発電の導入率(総年間発電電力量に対する風力発電の発電電力量)が33.7%にも達している。また、2位のポルトガルでは22.0%、3位スペインが16.5%、アイルランドが14.5%と続き、それらの国では風力発電が確固たる基幹電源として位置づけられている。さらに5位のドイツでは風力発電だけでは7.4%であるが、太陽光発電も8.0%あり、合計で15.4%となっていることに注目すべきである。ちなみに日本では、2012年末時点で風力発電の導入率はわずか0.4%、太陽光発電と合計しても0.9%しかなく、文字通り「桁違い」の開きが生じている。この大きな乖離は、如何に欧州と日本で自然環境や電力系統の構成が違うと言っても、その理由だけでは済まされないほどに拡大しつつある。我が国では「再エネは役に立たない」という後ろ向きな意見が喧伝されている間に、欧州は10年20年かけて着実に再エネを浸透させてきており、日本は気がついたら周回遅れになっている現状にある(そのせいか、再エネは「エネルギー安全保障」の切り札のひとつであるということに気づいていない日本人があまりにも多い)。残念ながらこれが国際エネルギー動向の中での日本の立ち位置であり、そのことを真摯に認識した上で透明性の高い議論を国民全体で行わなければならない時が来ていると言える。

さて、上記研究会資料では、各国で「連系線」がどれくらい用意されているか、という連系線容量比率も比較分析している。各国(各地域)の年間ピーク電力に対して、近隣諸国(隣の電力会社)への連系線の設備容量がどれくらいかを比較したものが同資料図5に掲載されている。このグラフから、興味深いことが読み取れる。まず、欧州の中でもデンマークやドイツは連系線容量比率が70〜90%台と比較的高く、確かに「欧州には連系線が豊富にある」というイメージを裏付けている。一方、スペインやポルトガル、アイルランドの連系線容量比率は10〜20%台しかない。これはイベリア諸国が欧州大陸の西端の半島に位置し、電力的にも孤立した系統に近い状態だからであり、アイルランドもまた島国ゆえの孤立系統だからである。このように、スペイン・ポルトガル・アイルランドといった風力発電導入率が高い国でも実は連系線が少ないという事実が判明する。「欧州は連系線が豊富だから再エネが入りやすい」という説はここであっさり論理破綻する。

一方、日本の電力系統を見ると、「連系線が少ないのでこれ以上風力や太陽光は入りづらい」と言われている北海道でも、実はスペインのもつ連系線容量比率よりも大きいことがわかる。西日本の60Hz地域に至っては、欧州諸国よりも遥かに豊富な連系線を持っていることがわかる。「日本は連系線が少ないから」というのは、実際の統計データからは全くの誤解であることが明らかとなる。日本は現在、連系線が足りないという状態では決してなく、仮に連系線が足りなくなったとしても、欧州諸国の事例に見るとおり再生可能エネルギーを大量導入するための「柔軟性」は他の手段で補うことも十分可能だからである。

このようにデータ主義に基づき国際比較を行うと、我が国でも既存の連系線をうまく活用しながら再エネを爆発的に導入する技術的・制度的解決策はまだまだ十分あるということがわかる。必要なことは、「○○だから再エネは入らない」というネガティブな言い訳ではなく、「○○を変えれば再エネは入る」というポジティブな議論である。日本にはそのような未来志向の議論こそが今一番必要なのかも知れない。