連載コラム ドイツエネルギー便り

ベースロード電源が邪魔者になる日

2015年6月18日 梶村良太郎 ドイツ再生可能エネルギー・エージェンシー

日本の2030年のエネルギーミックスを巡る議論を追っていると、ベースロード(基本需要、最低需要)という単語が目につく。原子力や一部の火力、水力発電がベースロードを賄う電源として一定の評価を得ている一方で、太陽光や風力といった自然エネルギーは天気任せなため、そのような役割を全うできないという論調が多いように思える。これは、私が身を置いているドイツでは、めっきり聞かなくなった話だ。それもそのはず、自然エネルギーが中心となる電力システムでは、ベースロード電源は不要で、むしろ弊害となる。

ベースロード電源は、電力供給の屋台骨を支える、必要不可欠な電源だと思われがちだ。ドイツでベースロード電源と呼ばれてきた原子力や褐炭(質の悪い石炭)による火力発電は、大容量に一定して発電できる性能がクローズアップされるが、その反面、出力調整が極めて苦手で、その範囲も速度も限られている。実際、出力調整はプラントにかかる負担が大きく、経済性が悪くなるので、運転者としてはできる限り行いたくない。だからこそ、ドイツの電力事業者は、これらの電源を優先的に一定出力で運転し、需要に応じて石炭 ⅰ 、天然ガス、揚水水力などフレキシブルな電源を追加して、ミドルとピークを埋めて行くという形をとってきた。これは自然の摂理ではなく、現時点で利用可能な各種電源の性質を見極めた上で、より合理的に給電するための優先順位の問題である。

つまり、自然エネルギーが少ない旧来型の電力システムでは、出力調整が苦手な原子力や褐炭火力は、電力事業者によって、その性質ゆえにベースロードという役割を任され、持続可能性を度外視して重宝されてきた、というわけだ。

ご存知の通り、ドイツは、2050年までに電力消費の少なくとも80パーセントを自然エネルギーで賄うという目標を掲げている。将来の電源構成については、多くの学術的シナリオが発表されているが、その主役は必ず太陽光と風力発電が担っている。電力の大半がこれら変動型自然エネルギーによって賄われる、というものだ。そんな状況における給電の優先順位は、旧来のものとは根本的に異なる。

まず、太陽光と風力による発電を最優先で利用して、可能な限り需要を満たす。もちろん、それだけで発電と消費の同時同量を達成できるケースは稀だ。太陽光と風力による発電が需要を時には下回り、時には上回ることになるが、その差を「残余需要(residual load)」と呼ぶ。言い換えれば残余需要とは、システムの総電力需要(正味需要 net load)から太陽光と風力による発電を引いたものである。この残余需要に対応することが、将来のドイツでは給電の中心作業となる。

風力と太陽光による発電が少なく、需要の多い時には、揚水水力、バイオマス発電、パワー・トゥ・ガス(余剰電力を使って、水を電気分解して水素やメタンなどに変換し、貯蔵・再利用する技術)など、フレキシブルに出力調整が可能な電源を投入して行く。逆に日射と風況が良く、需要が少ない時間帯には、余剰電力を吸収すべく、蓄電や電力の熱利用など、負荷を投入することになる ⅱ 。そして、自然エネルギーの発電が6~7割以上を占めるようになる2030年代後半以降には、パワー・トゥ・ガスの利用も、ドイツでは実用段階に入ると予想されている ⅲ 

つまり、将来の電力システムにおいて重要なのは、フレキシビリティ=需給調整に追従できる柔軟性であり、フレキシブルな電源こそが価値を持つことになる。天候も消費も、刻々と変化する中で同時同量を確保する必要があるのだから、出力調整のできない旧来のベースロード電源の出番はない。そして、すでに、ベースロード電源という概念そのものが過去のものになりつつある。電源の役割分担は、ベース、ミドル、ピークの原理ではなく、変動型自然エネルギーと、残余需要に対応するフレキシビリティを持つ電源、という組み合わせになるからだ。

出力調整のできないベースロード電源を運転すれば、周辺を固めるフレキシビリティの調整負担が、ベースロード電源の分だけ増える。また、風力と太陽光だけで需要を越える発電に到達した場合、ベースロード分の発電をそっくり持て余すことになる。必要以上に発生した余剰電力はコストをかけて吸収するか、破棄するしかない。

フレキシビリティを持つ電源が充分に存在し、給電も問題なくできる以上、最低需要しか賄えない発電所は、削れない余剰電力を生み出す弊害以外の何物でもなくなる。一定の大きさの出力があることで重宝されてきたベースロード電源は、むしろその性質ゆえに将来は邪魔者となる。

自然エネルギーが電力の30パーセントに迫ろうとしている現在のドイツでも、フットワークの重いベースロード電源は、早くも電力システムの負担となっている。その様子は、次回のコラムで紹介する。


 ⅰ 石炭火力は、日本ではベースロード電源に分類されるが、ドイツではミドル電源に属する。
 ⅱ デマンドサイド・マネジメント(需要の一部を発電に追従させる措置)や送電網の活用も重要な調整手段だが、ここでは割愛させていただく。
 ⅲ http://www.forschungsradar.de/fileadmin/content/bilder/Vergleichsgrafiken/meta_speicher_jan2015/
AEE_Metaanalyse_Stromspeicher_feb15_neu.pdf


執筆者プロフィール
梶村良太郎
(かじむら・
 りょうたろう)
1982年、ドイツ・ ベルリン生まれ。ビーレフェルト大学大学院メディア学科卒。現在、再生可能エネルギーの情報発信を専門とするNPO、Agentur für Erneuerbare Energien(ドイツ再生可能エネルギー・エージェンシー)に勤務。