連載コラム 自然エネルギー・アップデート

世界の針路を決めるCOP21

2015年12月2日 山岸 尚之 WWFジャパン気候変動担当オフィサー

 近年の国際的な気候変動(温暖化)に関する国際会議では最も重要な機会となるであろう、COP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)が、11月30日〜12月11日の日程で開催されている。開催地は、痛ましいテロ事件があったばかりのフランス・パリだ。

 今回の会議の主な目的は、2020年以降の気候変動に関する国際枠組みを設立することである。合意が成立すれば、京都議定書以降、最も重要な、気候変動問題に関する国際合意となる。190カ国以上の代表が集まる会議であり、初日の30日は、150カ国の首脳が集結し、それぞれの目標や取り組みについて声明を読み上げた。150もの首脳が集まるという事実一つをとっても、この問題がいかに国際的に重視されているかを示していると言える。

 国際社会は現在、気候変動を防ぐという大目標を具体化するものとして、産業革命以降の世界の平均気温上昇を2℃未満に抑えるということにほぼ合意しつつある。気候変動の影響に特に脆弱な国々は、2℃では影響が大きすぎるとして、1.5℃未満に抑えるべきであると主張しており、これにも、一定の理解が得られつつある。未だ確定ではないが、おそらく、今回の合意には、2℃未満と1.5℃未満という目標が書かれることになるであろう。

 そして、今回の会議に先立ち、世界170以上の国々が既に、2025年もしくは2030年に向けた自国の気候変動対策の目標を国連に提出している。目標を提出した国々は、アメリカ、中国をはじめ、EU、インドなど主立った排出国も含まれており、目標提出国の合計排出量は、現在の世界全体の排出量の9割を超える。その意味では、すでに合意へ向けた政治的な意志はそこにあるといえる。

 しかし、それらの国々の目標は、先に述べた2℃や1.5℃未満に気温上昇を抑えるという目標には、遠く及ばないこともわかっている。研究機関の報告によれば、このままでは2.7℃の上昇を招いてしまうという。

 このため、今回の合意の中では、各国が提出した目標を登録し、その実施について確認をしていく制度を整えるだけなく、それらを引き上げるための仕組みも導入することが議論されている。具体的には、5年毎に、世界全体で見直しを行い、世界全体でどれくらい取り組みが足りないのか、そして、各国レベルではどれくらい取り組みが足りないのかを確認し、強化していく仕組みが議論されている。今回の合意では、できたとしてもその導入が決まるだけで詳細は後の交渉にまた委ねられるであろうが、きわめて重要な要素となる。

 しかし、現在準備されている合意草案についての各国の意見の隔たりは大きい。特に、厳しい交渉が予想されるのは、各国の義務の重みづけに関わる「差異化(differentiation)」と呼ばれる論点だ。従来、国連気候変動枠組条約の下での取り組みは、「先進国」と「途上国」という2つのカテゴリーに基づいて、その義務の重さが区分されてきた。これは、産業革命以降、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスを排出して気候変動を引き起こしてきたのは先進国であり、まずは先進国が対策をとるべきであるという原則に基づいている。しかし、近年の新興国と呼ばれる中国やインドなどの国々の経済発展とそれに伴う排出量の増加により、先進国の側からは、そうした国々も先進国と同様の義務を負うべきであるという主張が出てくるようになった。新興国は、現在の定義では「途上国」に属する。ただ、途上国の側からしてみれば、先進国の不十分な取り組みのつけを(たとえば日本も、自国の排出量を大きく減らすことはできていない)、自分たちに押しつけられているという不満が存在し、強硬派の途上国は、「先進国」「途上国」というカテゴリーに基づいた義務の重みづけを、今後も維持し続けるべきだという主張をしている。合意は、おそらく、その中間で、各国の能力や責任に違いがあり、それがきちんと反映されるべきだということを原則に盛り込むなどの形が望ましいが、この問題については終盤まで厳しい交渉が予想される。この論点は、たとえば、温室効果ガス排出量削減目標の法的な位置づけや(たとえば、先進国は目標を持つことが義務だが、途上国は努力義務でよいとなるのか、それとも、全ての国にとっての義務となるのか)、誰が資金支援の義務を持つのかなどの規定に影響してくる。

 この他、各国の自然エネルギーの取り組みにとっても重要なのが、2℃未満や1.5℃未満に対応した長期目標のあり方である。今年ドイツで開催されたG7サミットでは、2℃未満に対応した「世界全体で2050年までに40〜70%削減する」という数値目標が盛り込まれたが、今回の合意の中で、数値目標が言及されるかどうかは、各国の意見の違いもあり、微妙な所である。しかし、たとえ定性的であったとしても、「脱炭素化」など、実質的に化石燃料依存のエネルギー社会からの脱却を意味する文言が盛り込まれれば、大きな意味がある。約190カ国の合意として、その方向性が打ち出されれば、それは、国際社会が進むべき方向に明確なシグナルを与えることになるからだ。

 国際社会が進むべき方向に明確な針路を示しつつ、その中でどのような協力が可能かを定義していく——言葉で言えば簡単だが、この2週間の交渉で解決しなければならない課題は多い。しかし、一見すると無機質に聞こえるこうした交渉の向こう側には、海面上昇により自国からの移住をすでに検討しなければならない人々や、食料が満足にない地域での干ばつの発生に苦しむ人々、そして、異常な気象災害に苦しめられる人々がいることを忘れてはならないであろう。合意ができえるかどうかは、そうした人々にとっての「生き残り(survival)」の問題である。

 パリでの合意は、新たな国際的取り組みの始まりにしか過ぎないが、きわめて重要なものとなる。その中で、日本が何を打ち出し、どのような貢献をするのか。私たちは注視していかなければならない。


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