連載コラム ドイツエネルギー便り

石炭、原子力、自然エネルギーの本当のコスト

2015年4月17日 一柳絵美 自然エネルギー財団研究員

3月上旬、来日を直前に控えたメルケル首相は、ビデオメッセージを公開して日本にエネルギー転換を呼びかけ、ドイツと日本がともに歩んでいくべきだという考えを示した。また、来日時の講演では、科学者として、今まで長い間核の平和利用(原子力発電)をすすめてきたが、その考えを変えたのは、日本という高度な技術水準を持つ国でも福島原発のような事故が起きたからであること、ドイツは別のエネルギー制度を築き上げると決めた、と語った。首相の発言のとおり、ドイツでは着実に自然エネルギーが増加し、すでに基幹電源としての地位を築いている。

ドイツ・エネルギー水道事業連盟(BDEW)によれば、2014年のドイツ国内電力消費量に占める自然エネルギーの比率は27.8%に達した(確定値)。前年の25.4%から2.4ポイント分上昇したことになる ⅰ 。さらに、同連盟は今年のドイツ一般家庭用電気料金が減少に転じることも発表した。平均的な一般家庭が今年支払う電気料金は毎月約84ユーロで、前年に比べて、約1%減ることになる。減少率は微量だが、固定価格買い取り制度の導入以降、上がり続けてきた家庭用電気料金が下がるのは初めてのことだ ⅱ 

ドイツは、順調に自然エネルギーの拡大を進めているが、日本でよく言われるように、自然エネルギーのコストは本当に割高なのだろうか。今回は、ドイツの研究機関が過去数ヶ月間に発表した電源別発電コストに関する研究結果を紹介する。

フラウンホーファーISE(太陽エネルギーシステム研究所)は今年2月、ヨーロッパでの太陽光発電コストが2025年に4−6ユーロセント/kWh(約5.0−7.6円)、そして2050年には2−4ユーロセント/kWh(約2.5−5.0円)まで減少するという予測を出した。そして、太陽光発電は近い将来、世界の多くの地域で最も安価な電源になるだろうという見解を示した。フラウンホーファーISEによれば、太陽光発電のコストは低減しており、現在ドイツの大規模太陽光発電施設は、9ユーロセント/kWh(約11.4円)以下のコストで電力を供給することができるという。ちなみに、新型の石炭・天然ガス火力発電施設での発電コストは5−10ユーロセント/kWh(約6.4−12.7円)、原子力による発電コストは11ユーロセント/kWh(約14.0円)と算出している。つまり、フラウンホーファーISEの分析によれば、太陽光発電はドイツで化石燃料や原発による発電と同等の競争力を持つレベルに達したことが分かる ⅲ 

また、ドイツの環境シンクタンク、環境社会・市場経済フォーラム(FÖS)は、今年1月に発表した研究レポート『本当の電力コスト』のなかで、ドイツ社会が負担している石炭火力と原子力発電の隠れたコストを計算している ⅳ 。その結果、今年、石炭火力と原子力発電に対して社会が負担する隠れたコストは、11.0ユーロセント/kWh(約14.0円)で、今年のドイツの自然エネルギー賦課金額6.17ユーロセント/kWh(約7.8円)のおよそ倍額となる。実際の電気代に反映されづらい隠れたコストの中には、従来の発電方法に対する国の補助金や金銭的な優遇だけでなく、社会が負担する環境被害に関する費用や、放射性廃棄物の最終処分費用等の外部費用もある。ドイツで1970年以降、石炭火力・原子力発電促進のために、さまざまな形でつぎ込まれてきた補助金総額はおよそ6,410億ユーロ(81.5兆円)で、自然エネルギー促進のための補助金総額1,020億ユーロ(約13兆円)に比べて6倍以上にのぼる。

そして、新規発電施設での1kWhあたりのコストは、発電原価に外部費用や過去の補助金額を計上すると、陸上風力が5.7−8.7ユーロセント(約7.3−11.0円)、太陽光が10.4−17.1ユーロセント(約13.2−21.8円)、水力が4.7−19.3ユーロセント(約6.0−24.6円)、天然ガスが10.6−12.9ユーロセント(約13.5−16.4円)、石炭火力が12.6−16.7ユーロセント(約16.0−21.2円)、原子力が18.5−49.8ユーロセント(約23.5−63.4円)となるという。石炭火力や原子力は、CO2排出による環境への悪影響や放射性廃棄物のリスク等、社会に与える負担を考慮した場合、自然エネルギーと比較して割高な電力源だということができる。


 ⅰ BDEW 2015.03: „BDEW aktualisiert Angaben zum Erzeugungsmix 2014: Erneuerbare Energien erzeugen mehr Strom”
https://www.bdew.de/internet.nsf/id/20150306-pi-erneuerbare-energien-erzeugen-mehr-strom-de
 ⅱ BDEW 2015.04: „Strompreis für Haushalte leicht gesunken“
https://www.bdew.de/internet.nsf/id/20150409-pi-strompreis-fuer-haushalte-leicht-gesunken-de
 ⅲ Fraunhofer-Institut für Solare Energiesysteme ISE & Agora Energiewende 2015.02: „Sonnenenergie wird in vielen Teilen der Welt günstigste Stromquelle“
http://www.agora-energiewende.de/themen/optimierung/detailansicht/article/sonnenergie-wird-in-vielen-teilen-der-welt-guenstigste-stromquelle/
 ⅳ FÖS (Forum Ökologisch-Soziale Marktwirtschaft) 2015.01: „Was Strom wirklich kostet“
http://www.foes.de/pdf/2015-01-Was-Strom-wirklich-kostet-kurz.pdf
関連コラム:『真の電気料金』
http://www.renewable-ei.org/column_g/column_20141008.php


執筆者プロフィール
一柳絵美
(いちやなぎ・えみ)
ドイツ在住歴計6年。2015年3月までドイツの大学院で環境マネジメントを学んだ。留学中、ヴッパータール気候・環境・エネルギー研究所やドイツ連邦環境省などでインターンシップを経験。現在、自然エネルギー財団研究員。