連載コラム 自然エネルギー・アップデート

再生可能エネルギーのドライバーとしての優先給電

2014年8月28日 安田陽 関西大学システム理工学部准教授

4月4日付コラムでベースロード電源というものが世界では消滅ないし減少しつつあることを指摘したが、今回はその原因を考察してみたい。結論から先に言うと、その理由は「再生可能エネルギーの大量導入」であり、そのドライバー(推進させるもの)として「優先給電」が挙げられる。

欧州では、再生可能エネルギー電源の優先給電が法律文書で義務づけられている。それも欧州連合 (EU) の「再生可能エネルギー指令 2009/28/EC」(文献[1] 、以下RES指令)という加盟国各国の法律の上位に位置する強制力のある法律文書に、次のように明記されている。

  • 第16条(系統へのアクセスと系統運用)
    2項(c) 送電系統運用者は、発電設備を給電する際、各国の電力系統のセキュリティを保った運用をする限りにおいて、並びに透明性の高い非差別的な基準に基づき、再生可能エネルギー資源を用いた発電設備を優先しなければならない、ということを加盟国は保証しなければならない。(筆者仮訳。下線部筆者)

この条項は2001年に初めてRES指令が制定された段階から存在しているが、ここで「なければならない(英語版原文では“shall”)」という表現に注目すべきである。再生可能エネルギーの優先給電は義務的要求事項として規定されているのである。

このEUの指令を受けて、EU加盟国各国は各国で再生可能エネルギーを積極導入する方策を打ち出している。事実、多くの国で2001年以降に再生可能エネルギー電源(特に風力発電)がそれまでの数十倍以上導入されるなど、EU指令の存在が文字通り爆発的な伸張を見せる原因となっている(例えば、文献[2]の図4などを参照)。

このように欧州諸国ではRES指令というトップダウン型の政策によって再生可能エネルギーがブーストされてきており、優先給電のために再生可能エネルギーの出力抑制に先んじて石炭火力や原子力を出力抑制しなければならないことになる。4月4日付コラムで指摘した通り、各国で石炭火力や原子力の負荷追従制御が行なわれ、ベースロード電源が消滅しつつある理由がここから理解できる。

一方日本の法律では、固定価格買取制度を定めるいわゆるFIT法(「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」)で「特定契約の申込に応ずる義務」(第四条)や「接続の請求に応ずる義務」(第五条)は規定されているものの、再生可能エネルギー電源の優先給電を明記した条項は見当たらない。また、FIT法施行規則(経済産業省令「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法施行規則」)を見ると、優先給電ではなく再生可能エネルギーの「出力の抑制」について定めた条項がみとめられる。この出力抑制は「接続の請求を拒むことができる正当な理由」(第六条)の中で規定されており、EUのRES指令の優先給電の位置づけとは全く逆であると言える。

このように優先給電の義務化は再生可能エネルギーを確実にブーストさせるための極めて有効な政策であるが、日本版FIT法では「優先給電」という用語が明示的に記載されておらず、例外条項も多い。固定価格買取制度(FIT)は再生可能エネルギーの有力なドライバーのひとつではあるが、固定価格買取制度を導入しただけで単純に再生可能エネルギーが増えるものではない(その証拠に我が国では太陽光発電以外の再生可能エネルギーは殆んど伸びておらず、いびつな状態となっている)。特に系統連系問題に深く関わる優先給電の義務化など、本来さまざまな導入促進政策の歯車が噛み合って初めてバランスよくかつ劇的に導入が進むものである。現在の日本は風力+太陽光の導入率が合計で1%をようやく越えたに過ぎない段階であり、「再生可能エネルギーはまだほとんど入っていない」「依然大きな参入障壁が存在する」という状態である。優先給電の義務化をはじめ再生可能エネルギーの促進を確実にブーストできる政策をこれからも矢継ぎ早に打つことが必要である。

参考文献
[1] Directive 2009/28/EC of the European Parliament and of the Council of 23 April 2009 on the promotion of the use of energy from renewable sources (2009)
[2] 安田:「風力発電の導入率と各国政策の比較研究」、 風力エネルギー、 Vol.37、 No.1、 pp.70-75 (2013)

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