連載コラム 自然エネルギー・アップデート

化石燃料投資からの撤退 - 世界に広がる"ダイベストメント" -

2015年11月26日 大野輝之 自然エネルギー財団 常務理事

 "ダイベストメント(divestment)"という言葉をご存知だろうか。それ自体は、保有している金融資産などを売却し、撤退することを意味する用語だ。インベストメントの反意語であるが、実際の意味合いとしては、何らかの社会的な目的をもって、特定の投資からの撤退を進める取組みを表している。これまでの最も代表的な事例は、南アフリカ共和国の人種差別政策に反対して、同国への投資を行わない取組みだった。
 日本ではあまり報道されないが、いま、このダイベストメントが、COP21を前に、石炭や石油など化石燃料資産への投資をやめる取組みとして、欧米を中心に急速に広がってきている。
 化石燃料投資からのダイベストメントは、当初、気候変動の危機を自らの世代の問題として真剣にとらえる米国の学生たちが、自分たちの大学の保有する基金に対し、化石燃料への投資をやめることを要求する取組みとして始まった。2014年5月には、スタンフォード大学が学生たちの要求を聞き入れ、石炭への投資をやめることを決定。ニューヨーク州にある名門校シラキュース大学などが後に続いた。
 2014年9月、ニューヨークで30万人を超えるという大規模な気候変動デモ行進が行われる中で、ロックフェラー兄弟財団が化石燃料投資からの撤退を発表したことは、ダイベストメントの取組みを一気に世に知らせることになった。
 この決定に際して、ロックフェラー兄弟財団の代表者は、「(米国の石油ビジネスで巨万の富を築いた)ジョン・D・ロックフェラーがもし今日、生きていたら、未来を見通す洞察力のある実業家として、化石燃料から撤退してクリーンな自然エネルギーへの投資に転換したことを確信している」と語っている。
 これまでで最大規模のダイベストメントは、2015年6月のノルウェー国会の決定だ。ノルウェーは、総額8900億ドル(1ドル=120円として106兆円)という世界最大の政府系ファンドを有しているが、そのファンドの運用方針として、30%以上の石炭資産を有している企業等への投資を引き揚げるという決定をしたのである。実施に移されるのは、2016年1月1日というから半年後のことだが、その影響は122の企業、86億ドル(1兆320億円)に達すると推計されている。このノルウェーの政府系ファンド自身が同国の有する北海油田がもたらしたものだということを考えれば、何とも皮肉な状況にも見えるが、世界で進む石炭離れの規模を象徴する動きともいえる。
 2015年9月までの時点で、世界43カ国で合計312兆円の資産を運用する436機関、2040人の個人が化石燃料ビジネスへの投資を撤収する方針を決めている。この中には、前述の大学、財団、基金に加え、全米最大の公的年金基金であるカリフォルニア州のカルパース、世界160か国に7000万以上の信者を有するキリスト教派の中心的な存在である英国国教会など、様々な団体・機関が含まれている。
 ダイベストメントの動きに関し、注意しなければならないのは、それが、「気候変動対策のために、利益の上がる化石燃料投資から、あえて撤退する」ことではない、という点だ。もちろん、人類の直面する気候変動の危機回避に向けた道義的判断、という側面はある。しかしより重要なのは、化石燃料投資がもはやビジネスとして、将来性の見通せないリスキーなものになってきている、という冷静な投資判断が、ダイベストメントの急速な拡大の背景にあるという点だ。
 こうした判断がなされる根拠としては、一方で、この連載コラムでもたびたび紹介している自然エネルギーの急速なコスト低下があり、他方では「カーボンバブル」と呼ばれる認識の広がりがある。これについて、後日、改めて紹介しよう。


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