連載コラム 自然エネルギー・アップデート

日本の太陽光発電はなぜ高いのか

2016年2月4日 木村啓二 自然エネルギー財団 上級研究員

 世界的に太陽光発電の価格は劇的に低下しているが、海外と比べると日本の太陽光発電の価格は高い。国際エネルギー機関の資料によれば、2014年の日本における地上設置型の太陽光発電システムの価格は、2.5ドル/ワットであり、他の先進諸国におけるコストに比べて4割から9割高い(図1)。特にドイツやイタリアなどの太陽光発電が普及している国々に比べると、2倍近い価格差がある。


図1 2014年の地上設置型太陽光発電のシステム価格
出典:IEA-PVPS (2015) Trends 2015 in Photovoltaic Applications: Survey Report of Selected IEA Countries between 1992 and 2014.

 このような価格差が発生している要因についてはこれまで明らかにされてこなかった。そこで、当財団では、日本とドイツの太陽光発電のコストを細かく比較し、どこに大きな違いがあるのかを調査し、2016年1月にその結果を公表した(詳細についてはこちらを参照)。
 調査結果を示したものが図2である。図は10kW以上50kW未満の設備の比較を示しているが、コスト構造の傾向は大型の施設でもあまり変わらない。


図2 10〜50kWの太陽光発電システムの要素別コスト

 ドイツと比べて大きなコストが生じている要素は、建設工事費その他の費用部分である。また太陽電池モジュール(以下、モジュール)コストについても日本の方が高めになっている。

モジュールコストについて
 モジュールコストがドイツと比べて高めになっている主な理由は、日本企業製のモジュールが高めの価格で利用されているからである。日本では日本企業製モジュールのシェアは7割にも上るため、日本企業製モジュールが全体のモジュールコストの押し上げに効いている。
 他方、ドイツでは、ドイツ企業製のモジュールと中国・台湾企業製モジュールが大半を占めている。中国・台湾企業製モジュールが安いのは周知のことであるが、ドイツ企業製モジュールもほぼ同じコストで利用されている。

建設工事費について
 ドイツでは建設工事費その他で3.2万円/kWであるのに比べ、日本では、1kWあたり12.8万円かかっていた。実に4倍のコストがかかっていることになる。
 こうしたコスト差が生じる可能性として、建設業の労賃が高い、あるいは、建設工事に時間がかかっているなどが考えられる。しかし、実は、建設業における国際的な労賃を比較すると、ドイツの方が日本よりも高い。したがって、労賃が高いことが、日本の建設工事費が高い理由にはなりそうにはない。
 他方で、施工期間については、大きな違いがあることがわかった。日本では、ドイツに比べて少なくとも2倍の施工期間、最大で7倍の工期をかけている。施工期間が長ければそれだけ建設工事費がかさむのは当然である。
 ドイツで施工期間が短縮化されている理由の1つとして、架台の設計や工事方法が、施工を素早くできるよう最適に設計されていることがあげられる。地面への基礎の杭打ち、架台の組み立て、パネルの据え付け、これら一連の作業が、少人数で素早くできるように最適に設計されており、工事作業用の機械も設置が迅速にできるよう専用の機械が利用されている。
 他方、日本の場合、太陽光発電システムの基礎杭打ちの機械は、通常の工事で使われるユンボに杭打ち用の器具を取り付けたものであり、杭打ちに特化した機械に比べて、作業効率が悪い。また架台は各パーツがバラバラに分かれているため、現場での架台の組み立て作業に時間が掛かる。

日本の太陽光発電のコストを下げるために
 日本の太陽光発電のコストを引き下げるためには、モジュールコストと建設工事費の引き下げが重要になる。モジュールコストについては、日本のモジュールメーカーのコスト削減努力が求められる。すでにドイツのモジュールメーカーは中国・台湾企業と同等の価格競争力を有している。
 建設工事費の低減については、ドイツの架台をすぐに日本に輸入すれば日本でも施工期間が短くなるかというと、そう単純ではない。日本とドイツでは架台の設計強度に関する基準が異なるからである。台風などの自然災害が多い日本では設計基準は厳しくしなければならない。そのため、ドイツの架台メーカーも日本仕様に設計をし直しているという。また、土地の利用可能性についてもドイツと日本では異なる点も考慮されなければならない。
 つまり、日本の太陽光発電のコストを引き下げるためには、日本の環境に合わせた上で、効率的な施工ができる安い架台や施工方法を開発しなければならない。これは架台メーカーや施工業者の努力にかかっている。
 そして、彼らのそうした努力を引き出すためには、政策の役割が重要である。すなわち、政府が、日本における中長期の市場展望が有望であることを示し、投資誘引を高める必要がある。市場が縮小する、あるいは市場展望が不透明なら企業は投資をしないからである。こういった投資があって初めて、市場に競争が起こり、企業のコスト効率化も進むのである。

本調査結果の詳細はこちらをご覧ください
「日本とドイツにおける太陽光発電のコスト比較~日本の太陽光発電はなぜ高いか~」
2016年1月13日

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