連載コラム ドイツエネルギー便り

ドイツの火力発電の発電量は減少している
-長期的な脱石炭の道のり-

2016年4月26日 林佑志 在独コンサル会社 欧州環境政策調査員

 自然エネルギーは不安定な電源のため、バックアップ電源が欠かせないという論調がある。さらに、再生可能エネルギー法によって自然エネルギーが増加するにつれ、電力システムの安定化のために褐炭・石炭による火力発電が増加し、CO2排出量も増加しているという。果たしてこれは事実だろうか。

 以前のコラムで、ドイツが2020年の温室効果ガス削減目標(1990年比40%削減)を達成することは厳しいと書いた。そのため、ドイツ政府は目標達成のためにますます厳格な対応を褐炭・石炭業界に求めている。長期的に見れば、EUは2050年までの温室効果ガス95%削減を目指しており、ドイツも80~95%の削減(ともに1990年比)を目標としている。脱石炭(Dekarbonisierung)は、この長期的な目標に紐付けられたものであり、ドイツでは、完全な脱石炭の時期を、2040年から2050年とする意見が多い。例えば、ベルリンの政策シンクタンク「アゴラ・エナギーヴェンデ」は2040年までにドイツ国内の石炭・褐炭発電所を閉鎖することは可能であり、そのための政治的な議論を早期に開始すべきと提言している 1 。従って、ここ数年の短期的なトレンドだけでドイツの脱石炭を評価することは本質をついてないのではないか。

 温室効果ガス排出量の推移を見れば、確かに2012年、2013年は前年度比で増加している。しかし、2014年は再び減少しており、1990年からの長期的なトレンドでは約28%の削減である 2 。1989年に統一を果たしたドイツは、旧東ドイツの遅れた技術を更新するだけで1990年以降の大幅な排出削減が可能だったという主張が散見されるが、統一による削減効果を強調しすぎると、今のドイツがなぜ2020年40%、2050年80~95%の意欲的な削減目標を掲げているのかは説明がつかない。

 さらに、1990年から2000年までのドイツの温室効果ガス排出削減への寄与度を評価したフラウンホーファーISI(システム・イノベーション研究所)の研究 3 では、統一による効果が全体の47%、気候変動政策の効果が53%という結果が出ており、統一するだけで温室効果ガスが削減できたとするのは誤りである。


出典:環境省 4 

 ドイツが取り組んでいる気候変動対策は多岐にわたる。例えば環境省の資料 5 に示されている、2000年のドイツの温室効果ガス排出量を対策がなかった場合(BaU)と比較した要因分析によれば、温室効果ガス削減に最も寄与している単独の政策は、再エネ法(EEG)が定める固定価格買い取り制度である。その他、住宅に対する断熱規制、旧東ドイツ地域に対する住宅改修支援やエコロジカル税制改革が大きな効果を上げている。温室効果ガス削減を直接の目的としていない政策にも温室効果ガス排出削減に結果的に寄与している政策がある。

 また、2009年から2014年はリーマンショックによる経済の落ち込みからの回復時期であったことも考慮する必要がある。2013年にはリーマンショック以前の水準まで経済は回復したが2014年は再び落ち込み、当然排出量も減少している。

 ここから、石炭・褐炭火力について3つの統計データを見てみよう。

 電力については様々な統計があるが、まず再生可能エネルギー・エージェンシーが公表している電力ミックス統計 6 の表をご覧頂きたい(石炭、褐炭、自然エネルギー、原子力のみ抽出)。2013年の石炭・褐炭の発電量は合わせて2860億kWhで全体の45.0%であった。これが2015年には2730億kWh、42.2%となっている。2015年は2013年と比べれば火力全体では2.8%減、発電量では130億kWhの減少である。つまり発電部門だけ見ても、2015年の火力発電由来の温室効果ガス排出量は減少しているはずであり 7 、もちろん長期的なトレンドを見ても褐炭と石炭を合わせた発電量は減少している 8 

2013 2014 2015
電源 発電量 割合 発電量 割合 発電量 割合
褐炭 162.0 25.5 155.7 24.9 155.0 24.0
石炭 124.0 19.5 118.4 18.9 118.0 18.2
自然エネルギー 152.5 24.0 161.4 25.8 194.0 30.0
原子力 97.0 15.3 97.1 15.5 91.8 14.1
総発電量 634.4 100.0 625.5 100.0 610.4 100.0
注:発電量の単位は10億kWh、割合は%
出典:AEEウェブサイト

 連邦ネットワーク庁と連邦カルテル庁が公表しているモニタリング報告書 9 を見ても、純発電量 10 は2013年から2014年にかけて褐炭で1487億kWhから1445億kWh、石炭で1164億kWhから1100億kWhへと減少している。

 フラウンホーファーISE(太陽エネルギーシステム研究所)が公表している電力卸市場のデータを基にした統計 11 では、褐炭の電力系統給電量は2015年で前年度比13億kWh減の1394億kWh、石炭は38億kWh減の1039億kWhといずれも減少している。

 3つの異なる統計からは、少なくとも直近2年は石炭・褐炭の発電量は増加しておらず、2015年の原発の停止分(53億kWh 12 )も自然エネルギーがカバーしていることが伺える。

 それでは今後の火力発電はどうなるか。系統安定の監督機関である連邦ネットワーク庁が公表している従来型発電所の停止・新設リスト 13 を見れば、2015年11月時点の2015~2019年の間に褐炭発電所の発電容量を合計162MW減らし(新設はなし)、石炭発電所は795MW増やす計画である(新設2591MW、停止1796MW)。ドイツでは、発電所運営会社が自社の計画に基づいて発電所の停止(Stilllegung)を申請する。系統運営会社が申請に基づいて当該発電所が系統安定に欠かせない電源か判断した上で、連邦ネットワーク庁が最終的に停止許可を確定させる。連邦ネットワーク庁による停止許可が確定していない発電所もあるが、停止許可が確定した電源はほぼ計画通り停止される。

 連邦ネットワーク庁は系統運営会社と協力しながら系統整備計画を策定しており、計画策定の枠組み条件として、各電源の将来見通しである「シナリオ枠組み(Szenariorahmen)」 14 を公表している。このシナリオ枠組みによれば、連邦ネットワーク庁は今後10年で褐炭発電所の容量を現在の21GWから10~14GWまで削減する計画である。このシナリオ枠組み自体に強制力はないが、これを基に策定された系統整備計画は強い強制力を伴う。連邦ネットワーク庁がこのシナリオに従って改定した褐炭発電所のリストからは、プローフェン(Profen)とニーダーアウセン(Niederaußem)の褐炭発電所の新設計画が削除されており、(関連は明確ではないが)少なくともプローフェンの計画はその後中止されている 15 

 問題は、天然ガス火力も445MWの純減となっていることであり、気候変動対策を考えれば現在の計画をより石炭から天然ガスにシフトする必要があるだろう。ドイツは国内に潤沢にある褐炭を利用するつもりはなく、褐炭に当てられている補助金は今後減らされていく。

 それでは、褐炭・石炭を減らしてどうするか。やはりドイツは今後も自然エネルギーを中心としたエネルギー転換を進めていくことになる。

 思い出していただきたいが、脱石炭は今後少なくとも20年以上をかけた長期的な取り組みである。さらに近年は自然エネルギーのための送配電技術の研究が盛んに行われており、この分野の技術開発は急速に進むだろう。2040年の送配電技術を予見することはできないが、大型の従来型の発電所を中心とした系統とは大きく異なる、地産地消をベースとした分散型の送配電システムがこれまで以上に普及していてもおかしくない。

 以上、日本では2013年のドイツの火力発電の増加についての報道が目立つが、2014~2015年は逆に減少していることを統計データから検証した。ここから、ドイツの長期的な脱石炭の道のりを短期的な指標で評価することには問題があり、長期的なドイツの政策目標との整合性を見る必要性も明らかとなった。ドイツではすでに脱石炭のための技術の萌芽が見られはじめている。これらが結実した時、ドイツの脱石炭が夢物語であったかが明らかになるだろう。


 1  http://www.agora-energiewende.de/fileadmin/Projekte/2015/Kohlekonsens/Agora_Kohlekonsens_LF_WEB.pdf
 2  http://www.umweltbundesamt.de/daten/klimawandel/treibhausgas-emissionen-in-deutschland
 3  http://www.isi.fraunhofer.de/isi-wAssets/docs/x/de/publikationen/wallfall/co2report-isi-e-final.pdf
 4  http://www.env.go.jp/council/06earth/y061-09/ref04.pdf
 5  同上
 6  電力ミックスは粗発電量がベースとなっている。純発電量との違いは後述。
2013年は
http://www.unendlich-viel-energie.de/mediathek/grafiken/strommix-in-deutschland-2013
2014年は
http://www.unendlich-viel-energie.de/mediathek/grafiken/strommix-in-deutschland-2014
2015年は
http://www.unendlich-viel-energie.de/mediathek/grafiken/strommix-in-deutschland-2015
 7  一次エネルギー供給量から見た褐炭、石炭はこの傾向がもっと顕著である。
参照ウェブサイト
http://blog.livedoor.jp/murakamiatsushi/archives/51907316.html
 8  http://www.ag-energiebilanzen.de/10-0-Auswertungstabellen.html
 9  Bundesnetzagentur、Bundeskartellamt『Monitoringbericht 2015』
https://www.bundesnetzagentur.de/SharedDocs/Downloads/DE/Allgemeines/Bundesnetzagentur/Publikationen/Berichte/2015/Monitoringbericht_2015_BA.pdf?__blob=publicationFile&v=3
 10  粗発電量から鉱山や発電所で使用する電力量を引いたもの
 11  https://www.ise.fraunhofer.de/de/downloads/pdf-files/aktuelles/folien-stromerzeugung-aus-solar-und-windenergie-im-jahr-2015.pdf
 12  先述のAEEのデータより
 13  http://www.bundesnetzagentur.de/cln_1421/DE/Sachgebiete/ElektrizitaetundGas/Unternehmen_Institutionen/Versorgungssicherheit/Erzeugungskapazitaeten/KWSAL/KWSAL_node.html;jsessionid=9DE250F527A7CE6F255C2B3FE77EF7FA
 14  http://www.netzausbau.de/SharedDocs/Downloads/DE/2025/SR/Szenariorahmen_2025_Genehmigung.pdf?__blob=publicationFile
 15  このシナリオ枠組みについては、例えばDIWが分析している。
http://www.diw.de/documents/publikationen/73/diw_01.c.496228.de/15-6-1.pdf


執筆者プロフィール
林佑志
(はやし・ゆうし)
ドイツ在住10年。ドイツの大学院で環境政策を学ぶ。専門はドイツのエネルギー・環境政策。
現在はベルリンにあるコンサルティング会社で、政策・市場調査を行っている。