連載コラム 自然エネルギー・アップデート

始まった世界エネルギー革命は成長志向

2015年12月1日 西村六善 元外務省地球環境担当大使

脱炭素化に向けて世界は走り出した
 今回のパリCOPは従来の全てのCOP交渉と大きな違いがある。一言で云えば基本原理が「負担と犠牲」から「機会の先取り」へと変わったのだ。今までは化石燃料が主役で自国経済への制約や負担回避のゲームだった。今後は再生可能エネルギー(以下「再エネ」)の大量導入でエネルギー革命を進めるゲームになった。脱炭素新文明への展望を開く動きだ。仮に今回のパリCOPが失敗しても、温暖化を回避しようとする限り、脱炭素新文明へのエネルギー革命は不可避だ。

 もう一つ大きな違いがある。温暖化対策は成長への足枷とされてきた。ところが今や温暖化対策は成長と雇用増加と地域振興への踏み台になっている。それが証拠には今までは傍観的であったビジネスが確かで強固な温暖化対策を要求している。これまで無かったことだ。何故か?エネルギー革命が大きな投資と需要を生み、雇用と成長の又とない機会だからだ。早い話が、文末のリンク集「再エネが新しい世界的需要を生みだすとする議論」を開封して見ればそれが分かる。世界的な経済団体が挙って急進的な温暖化対策を求めている。それが成長に繋がるからだ。国際再生可能エネルギー機関(以下IRENA)のアミン事務総長がFT紙に寄稿した意見の表題が雄弁に物語っている(注)。

(注)
“Renewables are changing the climate narrative from sacrifice to opportunity”
「再エネは温暖化議論を犠牲から機会へと脈絡を変えた」
http://www.theguardian.com/environment/2015/nov/19/renewables-are-changing-the-climate-narrative-from-sacrifice-to-opportunity

 更に重要なことは、この革命が少数国の革命ではなく全地球的な点だ。18世紀に始まった産業革命は、既にバージョン・アップを遂げているが、エネルギー革命で最も先端的なバージョンが全球的に始まろうとしている。しかも、これが全球的に開始されようとしているから先進国も途上国も産業界も金融界も大きな関心を持ち始めたのだ。今までの大資本から地域主権への移転、エネルギーの大量消費から節約と賢明な消費、大規模集中電力から分散電力、貧困国の基礎的エネルギー供給、それに伴う生活水準の向上、幾多の新しいダイナミズムが世界的に始まっている。特に中国やインド、その他の新興国が膨大な再エネ投資を始めていることが全球的にビジネスを引き付けている。例えば自動車産業は電気自動車で新しい巨大需要を見込んでいる(注)。

(注)
http://cleantechnica.com/2015/11/24/the-autowende-is-here-electric-cars-are-the-next-trillion-dollar-industry/

 何故こうなったのか?IPCCの科学が警告を発し、人々が謙虚にこの警告に耳を傾けたことが大きい。米国や日本の一部では科学は不完全と論ずる思想が強いが、それにも拘らず、危険を注意原則で回避すると云う健全な意識で多くの人々は行動した。更に人類社会の将来は省エネとクリーン・エネルギーにあると云うビジョンを持ち、再エネ投資を主導してきた機関や指導者の役割が大きい。また、温暖化に人類が悩む世界で成長や雇用などはあり得ないと云うビジョンで世界のビジネスを牽引してきた啓蒙的なリーダーたちの指導力も特筆されるべきだ。そしてそれらを束ねた途上国・先進国双方の政治的指導性も…。

温度目標は達成できるのか?脱炭素は?
 IRENAはこのような世界の新文明への歩みを名実ともに主導してきた。11月23日、”REThinking Energy 2015”「再生可能エネルギー再考2015」と云う文書を公表した(注)。ここで再エネの全球エネルギー供給のシェアを現在の18%から2030年に36%まで引き上げることで2℃実現に必要なGHG削減量の半分をカバーできる。そして残り半分を省エネで実現出来れば2℃に整合する経路を実現できると論じている。そしてこれは技術的に可能だし経済的にも有効だと論じた。そして、この為に世界的に2020年時点で5000億㌦、2030年時点で9000億㌦の規模の投資が動員されることになろうと論じている。

http://www.irena.org/rethinking/IRENA%20_REthinking_Energy_2nd_report_2015.pdf

 スタンフォード大学のマーク・ヤコブソン教授はもっと大胆だ。2050年までに139か国が再エネ100%を実現できると云う作業結果を公表している(注)。それだけでなく、パリに乗り込んで139か国に説明するとしている。この分析は米国議会下院の関係委員会にも正式な証言として提出されている(注)。

http://www.scientificamerican.com/article/139-countries-could-get-all-of-their-power-from-renewable-sources1/

http://web.stanford.edu/group/efmh/jacobson/Articles/I/15-11-19-HouseEEC-MZJTestimony.pdf

 また、最近のIEAとIRENAの両事務局長の共同声明(注)に耳を傾ける必要がある。「世界は再エネへの分水嶺に来た」と題する声明で二人はこう云っている。「….省エネと再エネがエネルギー安全保障と大気汚染除去と温暖化防止に貢献するウイン・ウインのエネルギーであり、その他のエネルギーは今や2次的だ。再エネを拡大させるには正しい市場的シグナルを提供するべきだ…」要するに再エネが主役だと云っているのだ。

Opinion: World at tipping point for renewable energy
http://money.cnn.com/2015/11/24/news/economy/renewable-energy-iea-cop21/

日本の思想はガラパゴス化している
 日本の一部では気候変動の問題を依然として化石燃料の問題として考えている。再エネが新しい主役だと云う事実を認めたくないように見える。だから依然としてCOP交渉を経済戦争と呼び、今回誓約する化石燃料の使用量を追加削減すること(GHG削減量を定期的に見直して深堀すること)に反対だと云う意見が罷り通っている。これは人類と地球の将来を守ろうとする努力を冷笑する議論だ。

 また、この国では2050年40-70%の削減にも革新技術は必要なので、日本がリーダーシップをとり国際的技術投資を推進すると云う議論がある。しかし世界的には再エネ100%を全球で実現するのに新規の革新技術が不可欠と云う議論はされていない。それは現有技術か既に近傍にある技術で可能だと云うのが主流である。IEAもIRENAも2℃シナリオを描いているが新規の革新技術が不可欠だと云う断り書きはない。「DDPP2015」(注)では16の最大排出国での2℃に整合する大幅な削減は、明白に技術的に可能だとしている。期待される経済成長と人口増加を勘案しても可能だとしている。

(注)
http://deepdecarbonization.org/

 更に、11月30日公表された国連気候変動事務局の政策立案者への文書(注)では、2℃への「解決は既に存在する」と述べている。 2℃実現への政策と措置と行動は既に存在していて、各国はこれを拡大し、技術を移転し、キャパビルを推進することが必要だと論じている。その為の資金は必要だと強調されているが革新技術が必要だと云う議論は見当たらない。寧ろ、全ての努力を結集する指導力と決意こそ必要だと論じている。

http://climateaction2020.unfccc.int/spm/introduction/

 抑々、IPCCで示唆されている2050年40-70%の削減には現有でない革新技術が不可欠だと云うことでは、まともな作業の工程表は出来なくなる。完成する時期も、必要となる投資コストも、その技術の値段も、どれほど有効でどれ程広範に世界に伝播できるのか等々、コスト、時間軸、効果の規模等が不明な「革新技術」なるものが、この規模の削減に不可欠だと云う議論は説得力に欠けるのではないか。

 技術革新の重要性は全面的に支持するが、日本がやらねばならないことはIEAとIRENAの共同声明を正しく理解して、はっきりと再エネと脱炭素新文明にコミットすることだろう。その上、二人が論じている通り、市場シグナルを適正に確保するべきだ。それが民間の費用効果的な投資を引き出す。その上で、賢明な誘導政策で既得権益の新しい展開を促し、日本経済全体をエネルギー革命の中で勝者になるように行動することだ。いつまでも化石燃料の問題だと考えていては、日本の産業自体を敗者の側に追いやる危険がある。


再エネが新しい世界的需要を生みだすとする議論(網羅的でない)

http://www.telegraph.co.uk/finance/economics/11958916/Paris-climate-deal-to-ignite-a-90-trillion-energy-revolution.html

http://www.theclimategroup.org/what-we-do/news-and-blogs/renewables-in-future-energy-mix-heavily-underestimated-new-report/

http://www.scientificamerican.com/article/how-renewable-energy-could-make-climate-treaties-moot/

https://www.project-syndicate.org/commentary/renewable-energy-decarbonization-by-jeffrey-d-sachs-2015-10?utm_source=project-syndicate.org&utm_medium=email&utm_campaign=authnote

http://www.wemeanbusinesscoalition.org/

http://www.edie.net/news/6/
Businesses-lay-out-key-Paris-proposals-to-avoid--zombie--scenario/?utm_source=dailynewsletter,%20edie%20daily%20newsletter&utm_medium=email,%20email
&utm_content=news&utm_campaign=dailynewsletter,%20e6b8e7d337-dailynewsletter


関連記事

連載コラム
アーカイブ