連載コラム 自然エネルギー・アップデート

日本企業も「100%自然エネルギー」へ動き出す
―海外の投資家や取引先から要求が高まる―

2017年6月14日 石田雅也 自然エネルギー財団 自然エネルギービジネスグループマネージャー

 事業活動で消費する電力を「100%自然エネルギー」へシフトする動きが世界各地で加速している。日本ではリコーが2050年までに電力の100%を自然エネルギーで調達することを宣言した。先進的に取り組むAppleは全世界のオフィスや店舗のほか、大量の電力を消費するデータセンターを含めて、すでに電力の96%を自然エネルギーで調達している。Appleは部品の供給先にも自然エネルギーの利用を求め、日本ではイビデンがApple向けの製品を100%自然エネルギーの電力で製造することを約束した。

化石燃料で作る電力は長期のコストが見通しにくい

 多くの企業が「100%自然エネルギー」へ動き出した背景には、「ESG投資」の急速な進展がある。世界の有力な機関投資家が投資対象を選別するにあたって、Environment(環境)・Social(社会)・Governance(企業統治)に取り組む企業の姿勢を重視するようになった。いずれの問題も企業活動を持続させるうえで欠かすことができず、不十分な場合には将来の収益に多大な影響を及ぼす可能性があるからだ。

 その中でも気候変動に対する関心が高まり、環境対策、とりわけCO2(二酸化炭素)の排出量削減に取り組む姿勢が投資家から問われるようになってきた。大量のCO2を排出する化石燃料を企業が使い続けた場合には、社会的な評価を低下させるだけではなく、事業活動のコストを増加させてしまうリスクが高まる。原子力発電にも同様の懸念がある。米国ではトランプ大統領によるパリ協定からの離脱の影響を受けることなく、有力企業の経営者の多くが自然エネルギーを推進する明確な理由を認識している。

 化石燃料で作る電力は燃料の価格が不安定なために、長期のコストを見通しにくい点が企業経営の面で大きな問題になる。加えてCO2排出量をもとに「炭素税」を徴収する制度が日本を含む各国で導入されている。現在のところ日本の炭素税は1CO2トンあたり289円と低い水準だが、温暖化対策に先進的に取り組む国では日本の10倍以上の炭素税をかけて企業の脱炭素を後押しする。今後さらに全世界でCO2排出量の削減を加速させることが不可欠な状況の中で、炭素税を引き上げる動きが各国に広がる可能性は大きい。

 これに対して自然エネルギーで作る電力には炭素税がかからず、バイオマスを除けば燃料費も不要である。発電設備を建設する初期投資を回収できれば、あとは運転維持費だけで電力を供給し続ける。すでに世界の多くの国で自然エネルギーの電力が最も安価に取引される状況になってきた。企業が長期に事業を継続しながら収益力を高めるうえで、自然エネルギーの電力を最大限に使うことが重要とみなされる理由である。

 自然エネルギーに向かう企業の取り組みを支援する国際的な活動が広がりを見せている。代表的な例が2014年に始まった「RE100」である(図1)。非営利団体のThe Climate GroupとCDPが主催するプロジェクトで、世界の有力企業が将来に向けて「Renewable Electricity 100」(自然エネルギー電力100%)の使用を表明する。欧米の企業を中心に、2017年5月末の時点で97社がRE100に参画した。


図1 自然エネルギーの電力活用を推進する国際イニシアチブ「RE100」
出典:RE100

 企業が自然エネルギーの電力を購入しやすいように支援するプロジェクトもある。米国を中心に活動する非営利団体のRocky Mountain Instituteが運営する「Business Renewables Center(BRC)」である(図2)。BRCには現時点で200社の企業が加盟して、太陽光発電と風力発電を主体に自然エネルギーの電力を効率よく調達する手法や契約情報などを共有する。加盟企業にはゼネラルモーターズやホンダをはじめ世界の有力企業が名を連ね、自然エネルギーで作った電力の購入量を拡大中だ。


図2 自然エネルギーの電力購入を支援する「Business Renewables Center」
出典:Rocky Mountain Institute

 日本の企業ではリコーがRE100に参加することを2017年4月に発表した。2050年までの環境目標を新たに設定して、温室効果ガスの排出量ゼロを目指すのと同時に、自然エネルギーの電力使用率を100%に高めていく。中間の目標として2030年には自然エネルギーの電力使用率を30%以上に引き上げる計画である。リコーは持続的な企業活動に向けて8つのSDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)を掲げ、その中に「エネルギー」と「気候変動」を加えて長期の目標を設定した(図3)。


図3 リコーが取り組む5つの重要社会課題と8つのSDGs(持続可能な開発目標)
出典:リコー

愛知県の太陽光発電所の電力でApple向けの部品を生産

 企業に自然エネルギーの電力を求めるのは投資家だけではない。製品を納入する取引先からも要求が来るケースは増えていく。スマートフォン用の基板などを製造するイビデンは、Apple向けの製品を100%自然エネルギーの電力で生産することを約束した。イビデンは20カ所以上にのぼる自然エネルギーの発電設備に投資する計画で、その中には愛知県の貯木場跡地に建設した水上フロート式の太陽光発電所が含まれている(写真1)。


写真1 イビデンが愛知県の貯木場跡地に建設した水上フロート式太陽光発電所
出典:イビデン

 この太陽光発電所はイビデンのグループ会社が2016年3月に運転を開始した国内有数の水上メガソーラーである。水に浮く軽量のフロートに合計7680枚の太陽光パネルを搭載して発電する。発電能力は1.99MW(メガワット)で、年間の発電量は240万kWh(キロワット時)に達する。イビデンは他の場所にも太陽光発電所を展開して、全体で12MW以上の規模に増強する計画だ。

 一方でAppleは米国や中国を含む23カ国では、自社で使用する電力を100%自然エネルギーで調達できている。全世界を合わせても2016年末の時点で96%まで自然エネルギーの比率が上昇した(図4)。残る4%の大半は日本だ。日本国内で自然エネルギーの電力を調達しにくいことが影響している。


図4 Appleの自然エネルギー電力利用率
出典:Apple

 Appleは日本のオフィスや店舗で使用する電力を自然エネルギーに順次切り替えていくのと合わせて、イビデンをはじめ取引先にも自然エネルギーの利用を促す方針である(アップルの取り組みに関しては、「米アップル社:100%自然エネルギーを実現する」で詳しく解説している)。

 自然エネルギーの活用を取引先に求める動きは、今後さらに多様な産業へ広がっていく。持続的な事業活動の観点から、自社だけではなくて取引先を含むサプライチェーン全体で自然エネルギーの電力を利用することが求められる時代になってきた。

 日本の企業も自然エネルギーの電力を調達できる能力を高めないと、貴重な取引先を失うことになりかねない。ひいては日本の産業界全体の競争力にも大きな影響を及ぼす。自然エネルギーの電力を拡大することは、政府が産業界と一体になって取り組むべき最重要課題である。

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