連載コラム 自然エネルギー・アップデート

ハンブルグ電力網公社の誕生

2014年12月25日 高橋洋 富士通総研主任研究員

Stromnetz Hamburg:ハンブルグ電力網公社は、ハンブルグ市内の配電網を所有し、消費者への配電事業を行う、地域配電会社である。つい昨年までは、ヴァッテンファルという大手電力会社が配電事業を担っていたが、市民の要請を受けて市がその配電網を買い取り、2014年に同社は誕生した。

1998年の電力自由化以前のドイツでは、自治体や地域の会社が配電事業などを担う例が多かった。しかし自由化を受けて売却が相次ぎ、大手への集約が進んだ。ヴァッテンファルは4大電力会社の1つであり、ハンブルグ市から当時の電力公社(HEW)を買収した。その後ヴァッテンファルは、市内で石炭火力発電所の建設計画を進めたが、地球温暖化の観点から市民の反対運動にあった。訴訟なども経て、2008年にハンブルグ市は建設を認めたが、市民はこれに納得せず、ヴァッテンファルへの不買運動を展開した。

ここで登場するのが、ドイツ特有の「コンセッション制度」である。コンセッションとは、電力や水道といった公益事業において、配電網や水道管などのインフラを利用する権利を指す。インフラ自体が事業者の所有物であったとしても、それは道路の地下などに敷設されているため、その公共スペースの利用料を払うルールになっている。利用料を払うだけでは済まず、利用権を付与する権限が全国の自治体に与えられている。それは20年に1度更新されるが、その時期が2014年に迫っていたのである。

これに目をつけたハンブルグ市民は、配電網の利用権をヴァッテンファルから取り戻すことを思いついた。利用権がなくなれば、ヴァッテンファルは新たな利用権者(=地域配電会社)に配電網を売却しなければならない。ヴァッテンファルに委ねていては、エネルギー転換は進まないと考えた市民が、エネルギー事業に直接関わろうというのだ。

これに対して2011年にハンブルグ市は、市が25%、ヴァッテンファルが75%を出資する共同会社の設立を提案し、配電事業の経営に市民の意向を反映させることを約束した。しかし、これに満足しなかった市民は、あくまで100%の出資を主張し、2013年に住民投票に持ち込んだ。その結果、僅差であったが市民の提案が支持され、市も100%の電力網公社の設立に同意した。

こうしてハンブルグ電力網公社は、2014年にヴァッテンファルから配電網を買い取り、配電事業を開始した。配電網はあらゆる事業者に開放されなければならないため、ヴァッテンファルの電気を拒否することはできない。それでも今後は、再生可能エネルギーの立地に合わせた配電網の建設や、事業収益を省エネ活動に回すなど、エネルギー転換を支援する経営を進めるという。

実は、近年のドイツではこのような事例が相次いでいる。有名なのは、人口2600人の町シェーナウで1990年代に起きた、市民による配電網の買い取りだろう。これに対してハンブルグは、ドイツ第2の都市(人口180万人)である。大阪市が配電網を買い取るようなことが、実際に起きたのだ。また、首都ベルリンでも同様の運動が起き、2013年に住民投票が実施された。投票率が低く、無効で終わったものの、賛成票が反対票を大きく上回った。

このようなドイツの事例から、日本はどのような示唆を得られるだろうか?第1に、地方が国の政策を先導できるということだ。ドイツでは、連邦政府によって「エネルギー転換」(2022年の脱原発、2050年の脱石炭火力)が進められており、再生可能エネルギーの大量導入(2050年に発電量の80%)は国民的合意になっている。その上で、地方がその動きを監視し、加速させる行動を、積極的に展開している。

第2に、その担い手が役所や大企業ではなく、無名の市民だということだ。知識も資金もない市民が始めた運動が、大都市においても他の市民や専門家の共感を得て、自治体を、政府を、大企業を突き動かしている。

第3に、エネルギー政策における合意形成の重要性である。ハンブルグの事例でも、市政府が一度下した決定を、市民が住民投票という手法で覆した。ただ反対するだけでなく、市民配電会社を誕生させるという具体策を用意して、民主的な方法で解決を図ろうとしている。

確かに、同様のことが日本で今すぐ起きるわけではない。そもそもコンセッションという制度がないし、日本の自治体にはエネルギー政策の権限も経験もない。ハンブルグの事例では、市営電力公社が20年前までは電力供給を担っていたという事実が大きかった。

一方で日本でも、現在まで「公営水力」を経営している自治体が少なくないことは、意外と知られていない。大阪市が関西電力の最大の株主であることは、2年前に有名になったが、それは関西電力の前身の1つが大阪市電気局だったからである。その大阪市は今、市営地下鉄の送配電網を活用した電力事業を目指して、実証実験を行っている。

日本がドイツと最も異なるのは、市民の意識ではないだろうか。市民が、エネルギー政策やエネルギー事業に関与し、地域の未来を自ら選択しようとする意思と行動である。先日の総選挙でも、戦後最低の投票率の下で、現政権のエネルギー政策を信任したような結果になってしまった。日本でも「ご当地電力」が誕生しつつある今こそ、市民が、自治体が、何をできるのか、何を実行するのかが、問われている。

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