連載コラム ドイツエネルギー便り

エネルギー貧困の原因を経済省の資料から読み解く

2015年7月24日 林佑志 在独コンサル会社 欧州環境政策調査員

日本ではドイツのエネルギー転換についての評価が錯綜している。評価は多様であってしかるべきだが、最も実情をよく知る当事者、連邦経済エネルギー省(BMWi)がエネルギー転換をどう評価しているかを知っておくことは大事だろう。

2014年12月にBMWiが公表したエネルギー転換の進捗についての報告書「将来のエネルギー(Die Energie der Zukunft ⅰ )」は、政府自らが公表しているエネルギー転換に対する評価である。185ページに及ぶ長い報告書だが、可能な限り多くの数字を用いて多角的にエネルギー転換を検証している。ドイツのエネルギー転換について何らかの評価をするなら、是非目を通していただきたい報告書だ。日本の報道の多くは、エネルギー転換の電力のみに焦点が当てられているが、これをみると、ドイツのエネルギー転換は、電力、熱、交通部門における省エネと再エネの推進、化石燃料と原子力からの脱却を含む包括的なものであることがわかる。

また一例として、日本でも取り上げられたエネルギー貧困の問題をみていきたい。貧困世帯が電気代を払えないほど電気代が高騰しているという話があったのを記憶している方もいるだろう。この報告書では1人世帯と4人世帯の平均層と貧困層(平均収入の60%の収入状況)について年間のエネルギーコストの試算を公表している。

2013年の4人世帯の貧困層を見ると、年間家計収入が33,482ユーロであるのに対してエネルギーコストは4,070ユーロである。つまり、エネルギーコストは家計の12.2%を占めている。この内訳は、電気代が3.9%、ガス代が2.6%、ガソリン代が5.7%である。最近はキッチンでも電気コンロの場合が多く、ガスが来ていない世帯もある点は考慮する必要があるが、この数値からわかるのは、エネルギーコストに占める比率が最も高いのは、実は化石燃料であることだ。

これが1人世帯の貧困層となると年間家計収入13,714ユーロに対して、エネルギーコストが2,641ユーロで、占有率は19.3%となり、実に家計の5分の1を占めている。このうち、電気代が3.8%、ガスが3.8%、ガソリンが11.7%である。エネルギー源を比べると家計に最も効いているのはガソリン代であり、全体で見ても、占有率が10%を超えるのは1人世帯の貧困層のガソリンのみである。

つまり、エネルギー貧困に最も影響が大きいのは再生可能エネルギーではなく、化石燃料である、ということだ。ドイツでは、特に地方では、公共交通インフラが不十分で、通勤に自家用車を使うことも多い。そのため、働いてお金を稼ぐにはガソリン代を減らすことはできない。また、調理にはガスは必須である。結果的にガソリンの負担が効いて、エネルギーコストの中では最も先に電気代が支払えなくなってしまうのだ。

確かに電気代の上昇は可能な限り避けるべきだ。しかし、高騰する電気代が払えない貧困層という表現は正確ではない。既に見たように、貧困層の家計を圧迫するエネルギー支出は、電気代ではなく、ガソリン、つまり化石燃料だからだ。

エネルギーの実情を知ることなく、電力や電気料金という一部のみを取り上げての議論はできない。ドイツの事情が日本のメディアで語られるときには、一部のみを誇張して伝えるケースを多々目にするが、全体を俯瞰した議論ができるよう、さまざまなデータを偏りなく伝えていく必要がある。


 ⅰ BMWi 2014.12: „Die Energie der Zukunft“ http://www.bmwi.de/BMWi/Redaktion/PDF/Publikationen/fortschrittsbericht,property=pdf,bereich=bmwi2012,
sprache=de,rwb=true.pdf


執筆者プロフィール
林佑志
(はやし・ゆうし)
ドイツ在住10年。ドイツの大学院で環境政策を学ぶ。専門はドイツのエネルギー・環境政策。
現在はベルリンにあるコンサルティング会社で、政策・市場調査を行っている。