連載コラム 自然エネルギー・アップデート

自然エネルギーを促進する「非化石価値取引市場」
―大きな期待と残された課題―

2017年4月20日 石田雅也 自然エネルギー財団 自然エネルギービジネスグループマネージャー

 2017年度から改革が始まる新しい電力市場の先頭を切って、「非化石価値取引市場」の創設準備が進んでいる。CO2(二酸化炭素)を排出しない自然エネルギーと原子力による発電設備を「非化石電源」と位置づけ、発電した電力の「非化石価値」を証書で売買できる注目の新市場だ。

 国全体でCO2排出量の削減を推進することが狙いだが、とりわけ重要な点は自然エネルギーの価値を高めて導入量の拡大につなげることにある。新市場には大きな期待を持てる一方、実効性の観点から課題も少なくない。自然エネルギーを促進する役割を果たすうえで、「非化石価値取引市場」に対する期待と課題を制度面から洗い出してみる。

消費者が自然エネルギーの電力を選択しやすく

 期待できる第1のメリットは、自然エネルギーの価値が明確になることだ。資源エネルギー庁は新市場で売買する証書の持つ価値を3種類に分類した。電源構成(エネルギーミックス)の改善につながる「非化石価値」、CO2排出量の削減に有効な「ゼロエミ価値」、さらに自然エネルギー(再エネ)由来の電力に限定して「環境表示価値」が加わる(図1)。3種類の価値を合わせ持つ証書を市場で取引できるようになれば、自然エネルギーのメリットが高まり、今後ますます導入量の拡大を期待できる。


図1 「非化石価値取引市場」で売買する証書のメニューと3種類の価値
(出典)資源エネルギー庁「市場整備WGにおける検討状況」(2016年11月11日)

 これまで自然エネルギー由来の電力は発電事業者にとっては固定価格買取制度(FIT)による金銭的なメリットが明らかだったが、小売電気事業者や電力の利用者に対してはマイナス面ばかり強調されるきらいがあった。FITの買取量が増大するのに伴って、電気料金に上乗せする「賦課金」が高くなるためだ(図2)。


図2 固定価格買取制度による賦課金の推移
(出典)資源エネルギー庁「改正FIT法施行に向けて」(2017年1月)

 「非化石価値取引市場」が始まると、FITで買い取った電力の価値を証書で売買できるようになり、その収入によって賦課金を低減できる。これが第2のメリットになる。FITを通じて電力の証書を売り出すのは、賦課金を徴収・管理する役割の「費用負担調整機関」である。新市場は2017年度内に創設する予定だが、当面はFITで買い取った電力だけが対象になる。

 資源エネルギー庁は2017年度のFIT買取費用を2兆7045億円と想定して、5月分の電気料金から徴収する賦課金の新単価を2.64円と算定した。2018年度以降は「非化石価値取引市場」で売買される証書の収入分だけ賦課金を減額できる。しかもFITの平均買取価格は年々下がり、証書の収入による賦課金の抑制効果は次第に大きくなっていく。

証書の価値を高めないと市場は活性化しない

 ただし大きな課題がある。FITによる電力の買取量は2017年度には年間で700億kWhを超える見込みで、2018年度以降はさらに拡大する。買取量のうちどのくらいの量の証書の売買が成立するかによって、賦課金の低減効果は変わってくる。

 この問題を解決する対策としては、証書を購入するメリットを高めるほかにない。小売電気事業者が証書の購入量を増やすことで顧客を獲得しやすくなれば、インセンティブが生まれる。さらに企業や自治体が環境対策の観点から、証書の購入量を含めて自然エネルギーの供給量が多い小売電気事業者の電力を利用するインセンティブも必要だ。

 欧米の企業を中心に、使用する電力を100%自然エネルギーに転換する取り組みが急速に広がっている。日本でも自然エネルギーの電力使用量を増やすことが企業価値を高める方向に変わっていかなくてはならない。「非化石価値取引市場」で売買する証書が企業における自然エネルギーの電力使用量に反映できる制度の整備が急務だ。

 現在のところ残念ながら、「非化石価値取引市場」で売買する証書の効果を小売電気事業者や企業・自治体が十分に生かせる仕組みになっていない。電力・ガス取引監視等委員会は「電力の小売営業に関する指針」の改定案(2017年3月31日に公表)の中で、小売電気事業者が電源構成と合わせて「非化石証書」の購入量を表示する具体例を示した(図3)。しかし、このような複雑な表示方法では証書の価値は消費者に伝わらない。


図3 小売電気事業者の電源構成の開示方法(表示例)
(出典)電力・ガス取引監視等委員会「電力の小売営業に関する指針の改定について」(2017年3月31日)

 電力の利用者が賦課金を負担しながらも、自然エネルギーの拡大に貢献するメリットを実感できることが重要だ。それぞれの小売電気事業者から電力を購入すると自然エネルギーが何%含まれているのか、一目見てわかるように示すことが望ましい。その中に証書の購入量を反映できれば証書の価値が高まり、「非化石価値取引市場」は活発になる。もっとシンプルな方法で、自然エネルギーの持つ3種類の価値を利用者に伝えるべきである。

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