連載コラム 自然エネルギー・アップデート

EUの自然エネルギー目標は、電力も熱も交通も含めて2030年に最低27%
初出:『環境ビジネスオンライン』 2014年11月10日掲載

2014年12月11日 大野輝之 自然エネルギー財団 常務理事
ロマン・ジスラー 自然エネルギー財団 研究員

欧州連合(EU)は10月24日に首脳会議を開催し、2030年の温室効果ガス排出量を1990年比で40%削減することを決定するとともに、同年までの自然エネルギー導入目標を最低27%と定めた。

このこと自体は日本でもかなり報道されているが、十分に知られていないのは、この27%目標が電力だけでなく、熱利用や自動車など交通燃料も含むエネルギー消費全体の目標だということだ。

電力だけの目標値は定められていないが、EUのホームページに掲載されているQ&Aには、自然エネルギー電力は「最低でも45%になる」という例が示されている。

電力だけなら45%程度にも

3・11後の日本のエネルギー政策の議論は電力ばかりに集中する傾向がある。原発をどうするのか、ということが出発点になったのでやむを得ない面もあるのだが、国際的なエネルギー政策の議論の焦点は気候変動対策である。

温室効果ガスの排出削減のためには、電力だけでなく熱利用や自動車燃料も含めエネルギー全体の低炭素化、効率化を議論しなくてはならない。だから欧州の2030年自然エネルギー導入目標27%も、当然に最終エネルギー消費全体を包括するものなのだ。

日本政府が4月に決定した「エネルギー基本計画」では、自然エネルギーの導入目標がしめされず、「2030年に約2割」という過去の目標値を参考に、この夏から「新エネルギー小委員会」で議論が始まっているが、ここで議論されているのも電力の中での自然エネルギーの目標である。

「2030年にEUが27%で、日本が約2割なら、まあそんなに大きな違いがない」などという、とんでもない勘違いをしないようにしよう。

冒頭に書いたように電力だけのEUの2030年目標は定められていないが、エネルギー・気候変動目標に関するEUのホームページに掲載されているQ&Aには、「この(27%)目標は、例えば電力部門の再生可能エネルギーの割合を現在の21%から2030年には最低45%にするなど、再生可能エネルギー部門の成長を促進することになる。」と記されている。この45%は目標として示されているものではないが、エネルギー全体で27%になる場合の、電力部門での自然エネルギーの規模感を表すものと言える。

2020年目標は着実に達成へ

今回の2030年目標は、2007年3月に決定された2020年目標を引き継ぐものである。温室効果ガスの削減、自然エネルギー導入率、エネルギー効率化のいずれも20%と定めた、「2020年をめざす20-20-20目標」だ。EUではこの三つの目標の達成のために、欧州排出量取引制度(EU-ETS)の導入と強化、固定価格買取制度の導入、建築物の省エネルギー基準の強化など様々な施策が系統的に進められてきたのだ。日本の政策的立ち遅れと混迷は目をおおいたくなるほどだが、その点はさておいて、ここではEUの2020年自然エネルギー目標の進捗状況をご紹介しておく。

図1をご覧いただきたい。これが交通、熱、電力、そして最終エネルギー全体の進捗状況を示すものである。


NREAP:EU加盟国の自然エネルギー国別行動計画

部門別で一番進んでいるのは電力であり、2020年目標を決定後、2007年には16.1%だったものが2012年には23.5%になっている(先のQ&Aの数字は21%だが、23.5%の方が新しいデータだ)。日本の「エネルギー基本計画」が2030年に「更に上回ることをめざす」としている「約2割」という水準は、欧州では2030年の18年前に、既に突破されていることを確認しておこう。

一方、熱も15.6%まで来ているが、交通は5.1%と立ち遅れている(バイオマス自動車燃料が予定どおりに拡大できずにいるのが原因と思われるが、ここでは立ち入らない)。

図の右端がこれらを合計したエネルギー全体だ。2007年の10.0%が2012年には14.1%になっている。EUは、2020年目標の達成にむけ毎年、進捗状況を点検している。表1は主要国に関して、その状況を示すものだ。予定以上に順調なのはドイツとイタリアであり、英国は殆ど予定どおりだ。フランス、スペインが若干遅れているが、表を見ていただくとわかるとおり、この2国は進捗目標として、他の国よりも意欲的な数値を掲げている。国ごとにこのような差異はあるが、EUは全体として2020年目標の達成は可能と判断している。こうした現状を前提に、今回、2030年目標が決定されたのだ。

表1:EU主要国は2020年国別自然エネルギー目標を達成できるのか?

最終エネルギー消費総量に占める自然エネ比率(2012年)(%) 2012年 NREAP 自然エネ進捗目標(%) 2012年 NREAP 自然エネ進捗目標を達成できたか
フランス 13.4 14.1 ×
ドイツ 12.4 11.4
イタリア 13.5 9.2
スペイン 14.3 14.8 ×
イギリス 4.2 4.3
Sources: Eurostat and Countries’ National Renewable Energy Actions Plans

2030年目標をめぐる議論

日本の現状からみるとEUのエネルギー全体で27%という目標は、非常に高いものに思えるが、欧州では、特に環境NGOなどから「気候変動の危機を回避するために必要なレベルに達していない」「野心的な目標とは言えない」などの批判も上がっている。確かに、本来はもっと大胆な目標が決められるべきだったのが、ポーランドなど旧東欧諸国との妥協を強いられた、という側面もあるようだ。しかし、日本でこの点を議論する意味はあまりないだろう。

ここで触れておくべきなのは、自然エネルギーに関してEU全体の目標は決定されたが、各国別目標の策定が義務化されなかった、という点だ。温室効果ガスの40%削減目標は各国別目標が定められことになったのに、自然エネルギー目標では見送られた背景には、エネルギ-ミックスの割合を独自に決めたいとする英国などの意見があったと言われている。

「原子力大国」フランスの2030年自然エネルギー目標は32%

しかし各国別目標の設定がEUレベルでは義務化されなかったと言っても、これは国別目標が全然定められないということでは勿論ない。ドイツが自然エネルギー電力に関して、2025年に40-45%、2035年に55-60%という高い目標を掲げていることはしばしば紹介される。

ここで取り上げたいのは、ドイツの隣国、「原子力大国」のフランスが最近、32%という2030年の自然エネルギー目標を決定したことである。フランスでも自然エネルギーのけん引役はやはり電力部門であり、この目標を定める立法過程の議論では電力では40%という数値も挙げられている。原発に頼ってきたフランスでも、発電コストの上昇や放射性廃棄物の問題がますます大きな問題になってきており、現在では75%にも達する原発への依存度の引き下げがめざされているのだ。

今回決定された2030年をめざすEUのエネルギー政策には、今回ご紹介したもの以外に、スペインとポルトガルの自然エネルギーをフランスなどにもっと輸出するための連系線の強化の方針など、興味深い内容があるが、次の機会にまわすことにしよう。

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