連載コラム ドイツエネルギー便り

福島第一原発事故から5年 ドイツのエネルギー転換の今

2016年4月18日 田口理穂 在独ジャーナリスト

福島原発事故から5年を迎え、ドイツでは震災や原発事故に関するさまざまな催しが開かれている。私の住むハノーファーでも、市庁舎で東日本大震災を振り返る催しや、第二次世界大戦で屋根が抜け落ちたままになっている教会で被災者への追悼式が行われた。ハノーファーは広島市と姉妹都市提携をしているため、原爆や原発の話題に敏感だ。福島で起こったことを忘れないという意志を新たにしている。

ドイツのエネルギー転換は、着実に進んでいる。2015年の電力における自然エネルギーの割合は30%を超えた。反面、自然エネルギーの固定買い取り価格は下がり、2017年以降、法改正によって大型発電者は電力市場で自ら販売先を探さなければならなくなり、過渡期を迎えている。これまでの形の市民参加での発電が難しくなると批判の声もある。

ハノーファーに、ヴィンドヴェルツという会社がある。陸上での風車建設のための企画やコーディネートをしている会社で、チェルノブイリの事故を受けて「自然エネルギーを増やしていかなければいけない」という信念に基づき、1994年に設立された。2000年の再生可能エネルギー法により大きく伸び、一時は太陽光発電建設にも参入するなど200人の社員を抱えるまでになった。しかしここ数年は風力や太陽光発電による買い取り価格が下がったことから業績が悪化し、2014年春に自己破産。なんとか同年秋に中堅どころの電力会社MVV(グループ社員5300人)の傘下に入り、現在は再び事業を展開している。社員は約100人となったが、広報のアウグスティンさんは「福島原発事故により、政府は脱原発と自然エネルギー推進を決めた。自然エネルギーにとって、ポジティヴなシグナル。2017年よりオークション制度になるが、MVVはオークションに強いから我が社は大丈夫」と楽天的だ。

これはドイツのエネルギーシフトを象徴する典型的な例である。市民によるエネルギー協同組合や、同社のような小規模の会社は自然エネルギーの展開において不利になってきてはいるが、自分で電力を販売できる手段を持つ大手電力会社なら生き残れる。例えば洋上風力発電は建設費が莫大なことから、大手企業しか参入できないが、洋上風力の電力買い取り価格は高めで、送電線など送電の問題があった場合も補償されるなど優遇されている。一方、小規模から始められる太陽光発電の買取価格は下がり、市民がソーラーパネルを屋根につける場合は自家消費した方が得になってきた。そのため発電量が最大となる南側でなく、東西に二枚つけるものが最近増えてきた。誰もいない正午付近に発電しても買い叩かれるだけなら、朝と夕方に自家消費する方が効率的なのである。

ドイツではエネルギーは以前は連邦環境省の担当だったが、2013年の新しい連立政権誕生により連邦経済エネルギー省の管轄となり、連邦環境省は主に省エネルギーや気候保護政策、原子炉の安全などを担当するようになった。ドイツでは電力だけでなく、交通や住居の部分を含めてエネルギー効率化や省エネをすすめて、街全体をいわゆるスマートシティ化するプロジェクトが各地で行われている。一方エネルギーについては、連邦エネルギー経済省の管轄となることで、自然エネルギーの推進だけでなく、化石燃料の発電との兼ね合いや経済性も含めて包括的な政策がとられるようになっている。

日本のメディアでは、ドイツの自然エネルギー政策は失敗したと報道されているが、私が訪ねた自然エネルギー関連の研究所では「成功している」とみな口をそろえる。電力で30%以上にまで伸びたのは、成功の証拠だろう。そして、これからはただ増やすだけでなく、供給に合わせた消費や効率的なエネルギー活用の開発など、新たな段階に入っている。1986年のチェルノブイリ原発事故をきっかけに始まったドイツの市民電力は、自然エネルギーを後押しし30年経ってここまで伸びてきた。日本は福島原発事故から5年。今後、ドイツの来た道を辿るのだろうか、それとも別の道を進むのだろうか。

ドイツのエネルギー転換の現状については、アゴラ・エネルギーヴェンデのプレスリリースの紹介コラム(日本語版)をご参照ください。


ハノーファーの反原発運動の象徴となっている石。トラクターで核廃棄物最終処分場候補であったゴアレーベンから運ばれてきた。


執筆者プロフィール
田口理穂
(たぐち・りほ)
日本で新聞記者を経て、1996年より北ドイツのハノーファー在住。ドイツの環境政策や教育、生活全般についてさまざまな媒体に執筆。
著書に『なぜドイツではエネルギーシフトが進むのか』(学芸出版社)、『市民がつくった電力会社 ドイツ・シェーナウの草の根エネルギー革命』(大月書店)、共著に『「お手本の国」のウソ』(新潮新書)など。