連載コラム 自然エネルギー・アップデート

Carbon Pricingの時代に備えよ

2015年1月22日 末吉竹二郎 自然エネルギー財団 副理事長

アジアで相次いで排出権取引市場が生まれつつある。

韓国環境部は予てより準備してきた温室効果ガス(GHG)の排出権取引制度(ETS)を今年1月12日に正式に発足させると発表した。国家レベルではアジア初となる韓国のETS導入の背景には同国の綿密な制度設計の歴史がある。

そもそものきっかけは、2009年のGHG排出の国家削減目標の策定に遡る。2020年までに成り行きベース(BAU)から30%削減するという意欲的な目標を立てた韓国は、ETSを目標達成のための市場原理に基づく有力な政策手段と位置付け、翌2010年に採択した「低炭素グリーン成長基本法」に義務的ETSの導入を盛り込んだ。2011年に入ると、GHG/エネルギー目標管理制度(TMS)を導入、30%削減を実現するためのセクター別目標の割り付けを完了。2012年5月には、「GHG排出権の割り当て及び取引に関する法律」が国会を通過、同年11月、同法施行令が内閣を通過し、ETSの基本設計が完了した。満を持して始まった韓国のETSは2015~2017年をフェーズⅠ(100%のフリー配分)とし、2025年にはフェーズⅢが終了する。

その韓国よりも一足先に排出量取引制度の実験を始めたのが中国である。そのきっかけは同じくCO₂排出量削減の国家目標の策定である。2010年1月、「2020年までに2005年比で、GDP単位当たりのCO₂排出量を40~45%削減する」との計画をUNFCCC事務局に提出した中国政府は、第12次5カ年計画(11~15年)において「炭素排出取引市場を逐次確立する」と発表。これを受けて、2011年10月、国家発展改革委員会(NDRC)はパイロット事業のモデル都市に広東省、湖北省、北京市、上海市、天津市など2省5市を指定した経緯にある。NDRCは2015年までに基本的なフレームワークを完成させ、2016年に始まる第13次5カ年計画の中で全国規模の排出量取引制度を構築するとのことで現在パイロット事業を展開中である。

折しも、昨年11月のAPECにおいて、オバマ大統領とGHG排出の削減で歴史的合意に達した習近平主席は2030年頃までにCO₂排出をピークアウトさせると言明。これまで、経済成長最優先の下での断固反対を転換、遂にと言うか、やっとと言うか、絶対量の規制に踏み切るというのである。となれば、国家レベルのETS導入は第13次5カ年計画において実現されることは間違いない。

この1月、米国の航空宇宙局(NASA)及び海洋大気局(NOAA)は、2014年は2010年を抜き観測史上最も暑かったと発表した。暑い年上位10年の全ては1998年以降に集中しており、地球温暖化はその歩みを止める気配はない。IPCC第5次評価報告書を持ち出すまでもなく温暖化の現実は極めて厳しく、その緩和策は待てば待つほどにより厳しくよりコスト高になっていく。今年12月にパリで開催されるCOP21において全ての国が参加する国際的枠組みが採択される期待が高まる中、GHG排出量の大幅削減は待ったなしである。

そうした状況下、各国とも自国の削減目標の必達に鎬を削るわけだが、2014年現在、40か国及び20の自治体でETS/炭素税を導入、もしくは導入決定済みだ。昨年のことだが、6月には世界銀行がCarbon Pricingへの強い支持を表明し、9月の国連気候サミットでは、74カ国と23の自治体及び1000社を超える企業・投資家が支持を表明した。期せずして、中国と韓国がETS導入に踏み切るのは、GHG排出削減に有効かつ効率的な政策手段としての”Carbon Pricing”の世界的流れに着目しているからに違いない。

かつては、ETSの議論や実験でアジアをリードする日本であったのだが、今では政策不在の煽りを食い、低炭素グリーン成長を目指す韓国に、更には、環境とエネルギーの解決を国家戦略レベルで取り組む中国にも追い抜かれた。待ち受ける厳しい国家削減目標の達成に向けて準備怠りなき国々と、日本はどうやって競争していこうとするのだろうか。

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