連載コラム 自然エネルギー・アップデート

電力システム改革とデマンドレスポンス(DR)

2014年10月14日 高橋洋 富士通総研主任研究員

「現状では、デマンドレスポンスに市場はありません。ネガワットをポジワットと等価に見てくれる仕組みがないからです」。これは、「原子力発電なしの夏」が始まる前に聞いた、とあるDRビジネス関係者の本音である。「少なくともリアルタイム市場が創設されるまで、DRビジネスで食いつなげるかが鍵です。そのためには、政府の補助金に頼るしかありません。」これも、とあるDRビジネス関係者の声である。

確かに、原発がなくても電力供給は足りている。しかし、化石燃料費はばかにならないし、エネルギー自給の上では危機的状態にある。二酸化炭素排出量も増えている。少しでもスマートな節電を徹底することにより、これらの問題を緩和することができる。DRは、低炭素どころか減炭素であり、エネルギー消費量(分母)を減らすことにより自給率を高めてくれるからだ。エネルギーコストを下げることも、言うまでもない。これほどまでに「一石三鳥」の分散型エネルギーは他にない。

実際、3.11後の日本人は、世界的に見ても節電に対する意識が高まっており、だからこそ、「原子力発電なしの夏」を克服することもできた。ここに適切なDRサービスが展開されれば、ネガワットが大いに取引されるはずだ。だからこそ、3.11後の夏には、電力会社はDRアグリゲーターと提携し、DRサービスの導入を図ったはずだった。それらは、効果を上げていないのか?

筋書き通りになっていない理由は、既存の電力システムがDRに適合的ではないからである。残念ながら、既存の電力会社がDRを積極的に活用するインセンティブは低い。電力会社の立場からすれば、第1に自社の発電所をできる限り動かしたい。多少燃料費が高くても、発電すれば自社の売り上げに直結する。第2に、自社の供給力が足りなければ、他の電力会社からの融通に頼ればよい。困った時にはお互い様で、融通の段取りにも慣れている。供給側でどうしても手当てできなければ、需要を減らすしかない。そのために各電力会社は、需給調整契約という、特製のDRの仕組みを以前から持っている。これが第3の手段である。自社の売り上げは減るが、大口のお客様との関係を維持できる。

以上3つの手段でも足りなかった時のみ、最後の手段としてDRを発動すればよい。DRは、自社の売り上げを減らすだけでなく、他社(DRアグリゲーター)とその顧客にお金を払うという意味で、電力会社から見れば最も使いたくない手段なのである。だから、電力需給が全国的にひっ迫した2012年の夏ですら、DRは余り発動されなかったという。供給力に余裕があった今夏も、DRはほとんど発動されなかったのではないか。DRとは、1つ1つは極めて小さいネガワットを、一定の大きさまでアグリゲートするからこそ、ビジネスになる。ほとんど発動されないようでは、事務手数料だけがかさむ結果に終わってしまう。

電力システム全体から見れば、DRは極めて合理的で経済的であるはずなのに、現実には活用されない。これを改めるのが、電力システム改革である。第1に、ネガワットが正当に評価され、適切に取引される市場を創設すべきである。例えば世界最大のDRアグリゲーターである米エナノックは、容量市場とリアルタイム市場から多くの収益を上げているという。日本でも電力システム改革により、2018年以降にこれら市場が創設されることが待たれる。

第2に、需給調整に責任を持つ系統運用者を独立させるべきである。本来系統運用者から見れば、ポジワットもネガワットも等価である。しかし、系統運用者が同時に発電事業も行うと、それへの配慮が生まれる。所有権分離あるいは機能分離により系統運用者が中立化すれば、経済合理的な観点(メリットオーダー)から、ネガワットの取引が盛んになるはずだ。

第3に、サービス事業者であるDRアグリゲーターが活躍しやすい環境を整備することである。2016年の全面自由化に伴い、電力小売関連でサービス競争が重要になることは、6月12日のコラムで触れた。小売事業者自身がサービスを提供する場合も含めて、DRアグリゲーターが活躍するには、電力消費行動に関する情報が不可欠である。スマートメーターの設置を加速すると共に、ここのデータが適切に開示されることが重要である。

1990年代後半以降のIT革命の際には、アマゾンやヤフーといった新興企業によって、様々なサービスビジネスが新たに生まれ、ネットベンチャーブームが発生したことは、記憶に新しい。その際には、インターネットというインフラが拡大しつつあり、それを自由に活用できる市場環境が存在した。エネルギー分野でも、クリエイティブな企業による消費者目線のDRサービスの提供を期待したい。