連載コラム 自然エネルギー・アップデート

米国の自然エネルギー拡大を先導するカリフォルニア②:全米の先頭を走るサクラメント電力公社の挑戦
初出:『環境ビジネスオンライン』 2014年5月26日掲載記事に一部加筆訂正

2014年7月17日 大野輝之 自然エネルギー財団 常務理事

本連載コラムの6月26日掲載の記事で紹介したように、カリフォルニアの州都サクラメントを中心とする地域に電力を供給するサクラメント電力公社(以下、現地の呼称のSMUDと書く)は、全米の自然エネルギー導入を先導するカリフォルニア州の中でも、更に一歩進んだ取組みを進めている。2013年の時点で年間電気供給量の29%を自然エネルギーでまかなっているし、これに大規模水力発電の発電量を加えれば、全体の半分程度に達する。導入率だけでなく、自然エネルギー施策自体も、州政府より一歩先に取組を進めてきている。

州政府より先にRPS目標を設定

RPSとは"Renewables Portfolio Standard"の略称で、電気供給事業者に自然エネルギーでの供給を義務付ける電力の割合を意味する。日本でもRPS制度が2002年から導入されていたが、日本の場合には導入義務が供給量の1.35%という低いものであり、全く有効に機能しなかった。

カリフォルニア州でもこの制度を2002年に導入したが、当初から2010年末に20%を達成するという高い目標を掲げていた。州政府の施策については、次回に紹介するが、SMUDは州政府の前年、2001年にRPS目標を設定している。2010年の20%目標は達成し、現在の目標は2020年までに33%を達成することである。SMUDは自ら設定したRPS目標を達成するため、自前の風力発電やメガソーラーを建設するとともに、自然エネルギーの導入促進のための様々な独自の取り組みを進めてきている。その主なものを紹介しよう。

全米初の固定価格買取制度を導入

日本では2012年に固定価格買取制度(以下、FITと記す)が開始されたが、SMUDでは、RPS目標を達成する手段の一つとして独自のFITを2010年1月に導入した。これは米国では初の試みということだ。FITの仕組みは、日本でも今日ではよく知られているので説明は省略するが、SMUDのFITにはいくつかの特徴がある。

まず、この制度で導入を図るのは5千kWまでの発電設備で、その以上の規模のものは、別のプログラム(後述)で導入を促進するという役割分担になっている。また、現在のところ、FITでの導入に10万kWという上限を設けている。SMUDの過去最大電力が330万kWなので、決して少ない割合ではない。更に、日本やドイツの制度にあるような一般の電気料金への賦課金がないことも特徴だ(少々専門的になるが、回避可能原価の中に、火力発電による二酸化炭素排出削減コストも含めている点も先進的である)。

この全米初のFITは、なんと制度開始後わずか11日間で、予定の10万kWを達成してしまうという予想をはるかに上回る反響をよんだ。買取価格が明確になっており、手続きが標準化され、わかりやすいものだったことが成功の理由とされている(ちなみに、買取価格は2012年の時点で1kWhあたり14.8セントになっている)。予定量を超えたために、現在では新規募集は行っていないそうだが、SMUDが初めて導入したFITは、2013年にはロサンゼルス市の電力公社も開始している。

大規模太陽光発電の導入促進

米国のように太陽光発電価格が低下してくれば、FITによらなくても導入拡大を進めることが可能になってくる。SMUDでは、2013年5月に上限20万kWまでの大規模な太陽光発電の事業提案募集を行っている。これもすごい反響で、7月までに28の事業者から135件の提案が寄せられ、発電規模の合計は682.5万kWにも達している。これは最大電力の2倍以上のすさまじい量だ。現在、この中から採用に向けた審査が進んでいるとのことであった。

グリーン電力プログラム

ここまで紹介してきたのは、電力開発事業者向けのプログラムだが、SMUDは電力消費者が自然エネルギーを率先して普及するための制度も用意している。その一つが、「グリーン」と「エネルギー」を合成した、「グリーナジー(Greenergy)」という名称のプログラムだ。その開始は1997年で、実はSMUDの自然エネルギー促進施策では最も古いものである。

これは、いわゆるグリーン電力プログラムであり、消費者が望む場合には通常の電気料金に割増料金を払うことで、より自然エネルギーの割合の高い電力の供給を得られる、という仕組みである。前述のように既にSMUDの電力供給に占める自然エネルギー(大規模水力を除く)の割合が29%に達しており、それ自体、大変グリーンな電力なわけだが、月に定額で3ドルを払うことで自然エネルギー割合50%の電力が、6ドル払うことで100%自然エネルギー電力が供給される、という仕組みである。

もちろん実際に供給される電力を区別することはできない。従って、これは契約消費者に割り振ることに必要な自然エネルギー電力の量を、通常の供給とは別枠で確保することにより、それぞれ50%分、100%分が自然エネルギーで供給されていることになる、という仕組みである。

もともとカリフォルニア州では、電力の小売り事業者に販売する電力の発電源を明らかにすることを求めている。この仕組みによって、自分の電力のグリーン度を確認できるのだ。(グリーナジープログラムとカリフォルニア州全体の電源構成&導入比率の比較はSMUD公式ウェブサイト上の資料「Compare the Greenergy resource mix to the standard California power mix」で確認できる。)

SMUDは、グリーナジープログラムに充てられる自然エネルギー供給量を、RPS目標分とは別に確保する目標をたてている。具体的には2020年のRPS目標33%に加え、グリーナジー分として4%を上乗せし、合計37%の達成が目標になっている。SMUDの顧客数は約60万であるが、実にその10%がこのプログラムに参加しているそうだ。

ソーラーシェアプログラム

SMUDは、区域内の需要家に対して積極的に太陽光発電を自らの住宅などに設置することも推奨していて、そのための必要なモデル計算などいろいろなアドバイスを提供している。更にユニークなのは、貸家や集合住宅に住んでいて、自分では太陽光発電を設置できない人のためのプログラムを用意していることだ。

これは「ソーラーシェア」と呼ばれるもので、SMUDが所有するメガソーラーの一部分(最低0.5kWから)を固定料金を支払って一定期間、シェアするプログラムである。契約期間中はシェアしているkW分から発電された量が、自分の電気消費量から削減されることになる。直接、太陽光発電を自宅に設置していなくても、あたかも設置しているように月々の発電量に応じた削減を得られるという仕組みである。

10年余で導入率を20%アップ

ここまでSMUDの進める様々な取り組みを紹介してきた。大規模水力発電以外で既に3割近い電力を供給するという到達点は、日本の現状からは遥かに進んでいる。しかし、ここで思い出していただきたいのは、前回書いたように、11年前の2003年には、自然エネルギー導入率が6.4%だったということだ。SMUDは積極的な取組を進める中で、わずか10年余で導入率を20%以上も高めることに成功しているのだ。

今回は触れなかったが、SMUDは自然エネルギー導入と同様にエネルギー効率化にも熱心に取り組んでいる。その効果もあって、電気料金の水準は、SMUDの「2012 Annual Report」ページ番号4に掲載の表「Residential Rate Comparison(住宅用電気料金の比較、750kWh/月あたり)」に示されるように、州内でも低いものになっている。

これまでの到達点を踏まえ、SMUDでは2020年の37%(33%+4%)目標を超える大幅な導入を実現するための様々なプログラムの準備を進めている。その一つが、前回触れた供給区域外のタホ湖近くに保有する水力発電施設を活用した揚水発電施設の導入だ。太陽光や風力など変動する自然エネルギーが、SMUDのように高い率で導入されてくれば、その変動を吸収するための工夫も必要になる。その一つが揚水発電設備の導入だ。

カリフォルニア州全体でも、既に2030年に50%を自然エネルギーで供給するという高い目標設定に向けて活発な議論が始まりつつある。その状況は次の機会に紹介する。

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