連載コラム ドイツエネルギー便り

原発停止に沸くドイツ-原発停止分を自然エネルギーが補完

2015年7月16日 一柳絵美 自然エネルギー財団研究員

6月27日の23時59分、ドイツの脱原発の歩みを更に進める瞬間が訪れた。稼働中の原発の中で最も古いドイツ南部の原発が、33年の時を経て運転停止を迎えたのだ。運転停止を祝うために原発の周りに集結した人々はピクニックを行い、ついに訪れた“その時”を花火で彩った。ドイツでの原発停止は、東京電力福島第一原発事故を受けて、2011年に8基を停止させて以来の出来事だ。脱原発を掲げるドイツでは、2022年末までに残りの原発8基も段階的に停止される。

今回停止したバイエルン州のグラーフェンラインフェルト原発は、約130万kWの加圧水型原子炉(PWR)で、1981年12月の運転開始以来、3,330億kWh以上の電力を生み出してきた。同原発を所有するエーオン(E.ON)社によると、これはバイエルン州全域で必要な電力を4年間供給できる量だという。また、同原発はバイエルン州の電力消費の11.5%を賄う電力源だった ⅰ 。そして、ドイツ政府が決定した予定では、今年末までの運転を認められていた。しかし、年末まで運転するためには新しく核燃料を装荷する必要があり、8,000万ユーロ(約109億円)もの核燃料税費用がかかる。そのためエーオン社は、これ以上の運転は採算が合わないとして、半年前倒しの運転停止に踏み切った。なお、廃炉作業は2030年までには完了する予定で、同社は廃炉費用として12億ユーロ(約1,630億円)を見積もっている ⅱ 

原発停止をうけ、ドイツの全国新聞ディ・ヴェルトは、「ドイツで脱原発の新たなステージが始まった」と報じている。そして、「グラーフェンラインフェルト原発の停止は、脱原発の前進を示す目に見えるサイン」だというヘンドリクス環境相の見解を紹介している ⅲ 。また、南ドイツ新聞は、原発停止時の現場の様子を詳細に伝えている。原発停止を祝うピクニックには、悪天候にもかかわらず反原発派の市民120人が集まったという。何十年もの間待ち望んでいた原発停止のとき、人々は大声でカウントダウンを行い、互いに抱き合い、手持ち花火を振り、シャンパンで乾杯をした ⅳ 。空には、小ぶりな打ち上げ花火も舞った(動画はこちら)。参加者の一人は、「歴史的な瞬間だった」と語った。当日のピクニックだけではなく、5月31日には原発停止を祝う大きな祭りが地元シュヴァインフルト市の中心部広場で開かれ、約10,000人が参加した ⅴ 。野外コンサートなどが行われた他、同日夜には原発停止のカウントダウンのリハーサルも行われた ⅵ 

一方、原子力100%の電力を提供するマックスアトムシュトローム社は、原発停止に対する抗議活動を行った。彼らは、原発停止の日の深夜に、原発の冷却塔の壁に「3,000億kWhのCO2排出量の少ない電力をありがとう!」の文字を2時間に渡って投影した。同社は、CO2排出量が少ないと称し、原発による電力を売りにしている。同社のスポークスマンは、今回の原発の停止の結果、CO2排出量が増加するだろうという考えだ。これに対し、南ドイツ新聞は、「こういった計算には、ウラン採鉱の際のCO2排出が考慮されていない。中間貯蔵施設でのリスクは引き続き存在しうるのだから、グラーフェンラインフェルト原発の歴史を成功と評するのは“横暴だ”」と批判している ⅶ 

ところで、原発停止によって多くの人々が懸念するのは、やはり電力の安定供給の行方だろう。これに対して、送電網の運営を監視する連邦ネットワーク庁は、予定より早いグラーフェンラインフェルト原発の運転停止が、供給安定に及ぼす影響はないだろうという見解を示した ⅷ 。停電が起きることも、電力系統が不安定になることもないという。事実、今回の原発停止のせいで電力供給が不安定になったという報道は見当たらない。

ここで、原発停止による穴を埋めることになるのが、自然エネルギーである。ドイツのシンクタンク、アゴラ・エネルギーヴェンデの所長パトリック・グライヒェン氏は、「自然エネルギーは、原発停止による電力の欠如を完全に補うだけに留まらず、余剰さえ生み出す」と分析する。アゴラ・エネルギーヴェンデによれば、今年上半期のグラーフェンラインフェルト原発での発電量53億kWhに対し、同時期の自然エネルギーによる発電量の増加分(前年上半期比)は107億kWhで、2倍以上だったという ⅸ 。脱原発の新たなステージに突入したドイツで、自然エネルギーの果たす役割がますます重要視されることは間違いない。


 ⅰ エーオン社プレスリリース 2015.06.28: „Sicher bis zum letzten Tag: Nach 33 Jahren erfolgreichem Betrieb stellt das Kernkraftwerk Grafenrheinfeld die Stromproduktion ein”
http://www.eon.com/de/presse/pressemitteilungen/pressemitteilungen/2015/6/28/sicher-bis-zum-letzten-tag-nach-33-jahren-erfolgreichem-betrieb-stellt-das-kernkraftwerk-grafenrheinfeld-die-stromproduktion-ein.html
 ⅱ バイエルン放送2015.06.28: „Der Meiler ist stillgelegt”
http://www.br.de/nachrichten/unterfranken/inhalt/abschaltung-kkw-grafenrheinfeld-100.html
 ⅲ ディ・ヴェルト誌2015.06.28: „Mit Grafenrheinfeld erstmals seit 2011 Akw abgeschaltet“
http://www.welt.de/newsticker/news1/article143217968/Mit-Grafenrheinfeld-erstmals-seit-2011-Akw-abgeschaltet.html
 ⅳ 南ドイツ新聞 2015.06.28: „Grafenrheinfeld ist vom Netz“
http://www.sueddeutsche.de/bayern/atom-aus-grafenrheinfeld-ist-vom-netz-1.2541074
 ⅴ バイエルン放送2015.06.01: „Großes Abschaltfest: Schweinfurt feiert Abschied vom KKW“
http://www.br.de/nachrichten/unterfranken/inhalt/abschaltfest-grafenrheinfeld-schweinfurt-100.html
 ⅵ マイン・ポスト誌 2015.06.01: „Countdown gelungen - zumindest die Generalprobe“
http://www.mainpost.de/regional/schweinfurt/Atomkraftgegner;art495764,8756642
 ⅶ 南ドイツ新聞 2015.06.28: 前掲記事
 ⅷ ドイツ連邦環境省プレスリリース2015.06.28: „Hendricks: Der Atomausstieg geht voran“
http://www.bmub.bund.de/presse/pressemitteilungen/pm/artikel/hendricks-der-atomausstieg-geht-voran/
 ⅸ アゴラ・エネルギーヴェンデ 2015.06: „Zuwachs bei Erneuerbaren Energien macht Grafenrheinfeld-Aus spielend wett“
http://www.agora-energiewende.de/themen/die-energiewende/detailansicht/article/zuwachs-bei-erneuerbaren-energien-macht-grafenrheinfeld-aus-spielend-wett/


執筆者プロフィール
一柳絵美
(いちやなぎ・えみ)
ドイツ在住歴計6年。2015年3月までドイツの大学院で環境マネジメントを学んだ。留学中、ヴッパータール気候・環境・エネルギー研究所やドイツ連邦環境省などでインターンシップを経験。現在、自然エネルギー財団研究員。

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