GBEP Bioenergy Week 参加報告農林業バリューチェーンの脱炭素化に果たすバイオエネルギーの役割

相川 高信 自然エネルギー財団 上級研究員

2023年12月15日

 2023年10月末に、タイ・バンコクで開催されたGBEP(Global Bioenergy Partnership)の年次イベントGBEP Bioenergy Weekに参加した。

 GBEPは国連食糧農業機関(FAO:Food and Agriculture Organization)のプログラムの一つで、日本を含めた23カ国と、IEAやIRENA、UNIDOなど16の国際機関がメンバーになっている。2005年のG8+5のグリーンイーグルス行動宣言を受けて設立され、それ以降、G7/G8やG20諸国の支援を受けながら、バイオエネルギーのGHG算定手法や持続可能性指標(Sustainability Indicators)の開発、キャパビルなどの活動を続けてきた。

 今回のBioenergy Weekには、アジア太平洋地域を中心に30カ国から120名の参加者があり、固体・液体・気体のそれぞれの形態のバイオエネルギー利用について、その利用政策や事例などが報告された1。日本からは、広島大学の松村幸彦教授によるバイオエネルギーの脱炭素化に果たす役割についての包括的な講演があった。筆者は固体バイオマスのセッションにおいて、FiT制度の中での持続可能性基準の発展と今後の展開についての発表を行った。

 冒頭に主催者のFAOからは「農林業はGHG排出の多いセクターであるが、バイオエネルギーの利用により解決策の一部となることができる」という趣旨の発言があった。このメッセージは、農業国タイにおいて、東南アジア各国の農業セクター、特に商品作物生産の実態を学ぶことで、より理解が深まるものだった。またこれは、筆者の講演テーマであり、かつGBEPが取り組んできた持続可能性の強化とも密接に関係する。

 そこで本コラムでは、開催地であるタイや東南アジアの事例を紹介しつ、バイオエネルギー利用を通じた農林業セクターのグリーン化の意義について報告する。

GBEP持続可能性指標の開発と普及

 バイオエネルギー利用の前提となっているのは、その持続可能性が確保されることである。EUの再エネ指令(RED:Renewable Energy Directive)や日本のFiTなどでは、政策に紐づいた基準が開発されてきた。しかし、北米・南米や東南アジア、アフリカなど、全世界に広がりを持って合意された国際的な指標は今のところGBEPのものが唯一である。

 この指標開発に関わってきた農林水産政策研究所の林岳氏は、「日本は自国が輸入するバイオエネルギーについて『質の向上』に努めなければならない」、また「GBEPにおける能力開発を通じて途上国におけるバイオエネルギーの『質の向上』への貢献も求められる」と述べている2。FiT制度におけるバイオマスの持続可能性基準は、環境面だけではなく社会面の指標も具備したアジア地域で初めての包括的な基準となっており、東南アジア諸国からの調達が多いことから、その質の向上に役立っていると言うことができるだろう。

 一方で、韓国や台湾など他の東アジア諸国でもバイオマスの輸入・利用が拡大しているが、日本のFiT制度のような持続可能性基準は整備されていない。地域全体での「質の向上」のためには、統一的、もしくは調和的な制度構築が望ましく、日本からの働きかけも必要であろう。日本のバイオマス活用推進基本計画の最新版(2022年9月閣議決定)では、「バイオマスの活用の推進を国際的協調の下で促進するため、バイオマスエネルギーの持続可能な利用に関する基準等の普及」が項目立てされており、国際的な場での政府の積極的な活動が期待されるところである。特に、日本では発電用燃料としての利用が先行しているが、SAFなど他用途と調和した制度とする必要がある。

タイのBCG経済戦略とキャッサバ・バリューチェーンのグリーン化

 持続可能性の確保を前提条件として、バイオエネルギー利用が環境・経済・社会のそれぞれの面で効果があることもGBEPが強調していることの一つである。

 ホスト国であるタイの取組は、それを裏付けるものだった。日本の4倍以上の農地面積を持ち、東南アジアでも有数の農業国であるタイでは、農業振興の一貫としてバイオエネルギー利用に取り組んできた。さらに2021年には、BCG(Bio, Circular, Green)経済モデルを国家戦略として位置づけている3。BCGモデルは欧米のCircular Bioeconomyの議論とも呼応しながら、これまでの取組の実績に基づく具体的な政策として発展している。

 その例として紹介されたのが、キャッサバを利用したバイオエコノミー戦略とその実装である。キャッサバは多年生の草本であり、その根からでんぷんを生産するために栽培される商品作物である。農業生産に向かなかった痩せた土壌や乾燥地でも生産が可能であり、かつ簡単な技術で生産できることから、緑の革命の成功例の一つと評価され、タイを中心に東南アジアから中国南部まで広く栽培されている。

タイ・モンクット王工科大学トンブリー校のバイオエタノール実証プラント。1970年代から継続して試験を行っている。

 キャッサバでんぷんからはエタノールも生産され、一般の工業用に加えて、バイオ燃料としてガソリンに混合されている。東南アジア諸国において、化石燃料の輸入を減らしつつ農業セクターの収入機会増加させるため、ディーゼルを含めたバイオ燃料の推進政策を持つ国は多い(表1)。このような比較的高い液体バイオ燃料割合(混合義務)は、気候変動対策だけではない国家経済的な政策と言える。

表1:ASEAN諸国の液体バイオ燃料政策

出典)Merdekawati,M., “ASEAN Policies and Strategies for Bioenergy”, 10thGBEP Bioenergy Weekより自然エネルギー財団作成

 しかし、バリューチェーンからの排出が大きい燃料を推進することは、気候変動対策として問題がある。キャッサバの場合も、根からでんぷん(スターチ)を抽出・加工する際に出る有機性廃液が悪臭やメタンの発生源となっていた。そのためタイでは、現在60箇所のキャッサバ工場のバイオガス発生装置が設置して熱や電力の生産に用いることにより、化石燃料の使用を削減するととに環境負荷の軽減を実現してきた。さらには、業界全体で2030年までの温室効果ガス(GHG)の半減を目指しているところである4

 一般的に、農林水産業においては、どんな作物であっても、食料や用材など主産物を得るまでに有機性の残渣や廃棄物が大量に発生する。そのため、キャッサバ産業での取組やそのコンセプトは、他産業への展開も期待されるところである。GBEPの会議では、サトウキビ産業や畜産(ブロイラー生産:タイは日本の最大の輸出国)などでの応用例が紹介された。

 なお、タイでも南部においてパーム油産業がある。タイではBCG経済のコンセプトの下、メタンの発生源となっている POME5などからのバイオガス利用が進められている。同じ東南アジアでも、ベトナムなど他国のキャッサバ産業やパーム油産業の脱炭素化はこれからである。タイでは、キャッサバについての知見を活かし、South-South corporation6を通じた技術移転も進めている。

 こうした動きは、GHGプロトコルやSBTiなど企業のグローバルな情報開示枠組みにおいても、農林業などの土地セクターの排出を適切に開示し、削減を進めていく方向とも呼応している。

 バイオマスのエネルギー利用は基本的には副産物利用であることから、食料などの主産物と一体的に持続可能性の確保を進めていくことが重要である。日本の農林水産省の「みどりの食料システム戦略(2021年5月)」では、「2030 年までに、食品企業における持続可能性に配慮した輸入原材料調達の実現を目指す」ことがKPI指標の一つとして挙げられている。タイのキャッサバの事例のように、バイオエネルギーの利用を通じて食料サプライチェーン自体の問題解決にも貢献できる。

 さらに日本は「開発途上地域に対する技術協力等を行う(バイオマス活用推進基本計画)」とあり、JIRCAS(国際農研)による、メタン発生源となっているパーム古木(Oil Palm Trunk:OPT)の有効利用などの好事例もある7。バイオエネルギー利用による農林水産業のグリーン化の加速化と、日本のリーダーシップが期待される。

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

当サイトではCookieを使用しています。当サイトを利用することにより、ご利用者はCookieの使用に同意することになります。

同意する