電気料金の上昇再エネ賦課金が原因か

木村啓二 自然エネルギー財団 上級研究員

2020年4月13日


 電力大手は2020年5月からの電気料金の引き上げを発表した。報道によれば、再エネ賦課金のために電気料金が上昇しているという1。たしかに2020年5月の一時点をとればそれは事実であろう。しかし、もうすこし長期、ここ数年でみると、違う景色が見えてくる。この数年の電気料金の上昇は、再エネ賦課金「以外」の影響が大きいのである。

 図1は、2016年度から2019年度(2019年のみ12月末まで)の平均電灯電力販売単価(以下、電灯単価)の推移を示している。再エネ賦課金は、2016年度には1kWhあたり2.23円であったが、2019年度には2.95円と0.72円上昇している。しかし、同期間に電灯単価は、1kWhあたり20.40円から22.64円と2.24円上昇している。つまり、この数年においては再エネ賦課金の上昇幅よりも電灯単価の上昇幅のほうが3倍も大きい。このことから電気料金の上昇を論じるのであれば、ことさら再エネ賦課金の増加に注目するだけでなく、電灯単価の上昇を問題にすべきであろう。
 
図1 電気料金単価の推移 
出所:電灯販売単価は、電力・ガス取引監視等委員会「電力取引報結果」より計算。
 

 上記の電灯単価の上昇の主な原因は、主として火力発電にかかるコストの上昇にあると考えられる。図2に示したように、日本の発電用燃料として最大の割合を占めるLNGの燃料価格は、2016年度から18年度まで上昇している。この傾向は、原油や石炭についても同様である。旧一般電気事業者(以下、大手電力)の有価証券報告書から火力発電・原子力にかかった燃料費を集計すると、2016年度の3.4兆円から18年度には4.3兆円に増加している。こうした燃料費の増加が、16年度から18年度までの電灯単価上昇の一因といえるであろう。
 
図2 LNGの年間平均燃料単価 
注:2019年度については12月末までの数値 出所:貿易統計


 他方で、燃料費が増加しているといってもそれはコストのはなしであり、卸電力価格(発電事業者から小売電気事業者への売値)は別の傾向を示している。図3に示したように平均卸電力価格は、2016年度から17年度にかけては上昇しているものの、17年度をピークに18年度、19年度は下落傾向にある。燃料価格が上昇しているにもかかわらず、卸電力価格が下落しているのは、自然エネルギー電力の増加や原子力の再稼働により、火力発電に対する需要が減少しているためと推測される。実際に2017年度の火力発電の発受電量は7683憶kWhであったのに対して、18年度には7137憶kWhと、1年で7%減少している。2019年度は需要の減少によりさらに大きく落ち込んでいると見込まれる。

 
図3 卸電力価格の加重平均価格 
出所:日本卸電力取引所「スポット市場取引結果」より作成。


 問題は、卸電力価格の下落にもかかわらず、電灯単価が下落していないことである。特に2019年度(12月末まで)は、卸電力価格が大きく引き下がっているのにもかかわらず、電灯単価が依然として上昇傾向にある。なお、高圧電力、特別高圧電力の販売単価については、2018年度から19年度は横ばいであり、高圧電力、特別高圧においても卸電力価格とのかい離は生じている。ただ、高圧電力・特別高圧電力の料金体系が複数年の固定価格契約になっている可能性もあるため、この点は確認ができない。

 2016年度から電力小売の全面自由化がはじまり、小売電力市場の競争が目指されてきた。しかし、上記の販売単価と卸電力価格とのかい離は、その競争が不十分なのではないか、との懸念をいだかせる。2020年4月から低圧電力での規制料金の撤廃が目指されてきたが、大手電力に対する競争者が十分に育っていない、との理由で継続された。小売電力市場が競争的にならなければ、卸電力価格が下がったとしても電気料金には反映されにくくなる。日本の電気料金水準を論じるためには、市場の競争状態もまた主要な論点としなければならない。
  • 1例えば、NHKは「5月の電気料金 大手電力会社10社すべてで値上げ」で、値上げの原因は、「太陽光や風力などの再生可能エネルギーで発電された電気を大手電力会社が買い取る制度に基づいて電気料金に上乗せされる負担額がことし5月から上昇するため」としている。

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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