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農地を活用して風力発電所を建設:
佐賀県・唐津市の官民連携プロジェクト

2018年4月10日

農地を活用して風力発電所を建設:
佐賀県・唐津市の官民連携プロジェクト

北風亮 自然エネルギー財団 上級研究員

 日本の農地には厳しい開発規制がかかっている。風力発電も例外ではない。特に2009年の法改正によって建設が事実上不可となったため、発電事業者は農地を避けてきた。2014年5月に施行した新たな法律により、農地でも風力発電が可能となった。風況に恵まれた佐賀県・唐津市の農地では、新法のスキームを活用して「唐津湊風力発電所」が2018年2月に運転を開始した(写真1)。

写真1 「唐津湊風力発電所」の外観

自治体が地域の合意形成を主導

 農地での風力発電開発を可能にした新法とは「農林漁業の健全な発展と調和のとれた再生可能エネルギー電気の発電の促進に関する法律」(以下、農山漁村RE法)のことである。東日本大震災の発生と原子力発電所の事故による電力供給の問題、そして固定価格買取制度の施行を背景に、農地でも自然エネルギーを導入すべきとの機運が高まったためだ。

 農山漁村RE法では、自治体が立ち上げた協議会において、自然エネルギーを活用した地域振興や農業の発展に資する取組、土地利用調整などに関する検討を実施することが求められる(図1)。売電収益の地元還元率やその使途を含めて基本計画を策定する必要があり、地元の農業関係者や住民など利害関係者間の合意形成は一筋縄ではいかない。仲介役となる自治体がどれだけ主導的な役割を果たせるかが成功のカギを握る。

図1 農山漁村RE法のスキーム。出典:農林水産省

 唐津市は九州電力の玄海原子力発電所から30キロメートル圏内に立地していることもあり、「農山漁村RE法の取組に関して積極的だった」(唐津湊風力発電所を建設・運営する自然電力の花吉哲芝風力開発部部長)。利害関係者を集めた協議会の議論をもとに、わずか3か月半で基本計画をまとめて、市内の農地で風力発電事業を可能にした。

巨大な風車の輸送に地元も協力

 発電事業者の自然電力は農山漁村RE法のスキームにのっとり、売電収益の1%を地域に還元する予定である。約8億円にのぼる事業費を調達する際にも地域金融機関の参画を求めた。「地域の資金で建設すれば、その利息が地域に還流する」(花吉部長)ためだ。東京・佐賀・大分に本店を構える地域金融機関の3行から約6億円の融資を受けた。

 風力発電所を建設するにあたっては地域の理解と協力が欠かせない。自然電力は風車による環境影響について自主的に調査を実施したうえで、市の担当者を交えて地元関係者への説明を慎重に進めた。さらに風車の輸送面でも地域との連携が必要だった。

 風車のパーツを陸揚げする市内の港から、高台にある建設地までは約10キロメートルの距離がある。一般道路を使って、40メートル超のブレードなど巨大なパーツを輸送しなくてはならない。道路を所管する地元警察から許可を得るとともに、沿道の住民の理解を得て、深夜に道路を通行止めにして輸送することができた(写真2)。

写真2 深夜に実施した風車輸送の状況。出典:自然電力

 唐津湊風力発電所は着工から約1年後の2018年2月に運転を開始した。風車1機の構成で、出力は1990キロワットである。年間発電量は350万キロワット時を想定している。1キロワット時あたり22円(税抜き)の買取価格をもとに試算すると、年間7700万円の売電収入が見込める。

 農山漁村RE法を活用した風力発電の事業化の経緯や発電設備の詳細を含めてレポートにまとめた。

外部リンク

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