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地熱発電が被災した温泉地に活力もたらす:
福島県・土湯温泉で排熱をエビの養殖にも

2018年5月7日

地熱発電が被災した温泉地に活力もたらす:
福島県・土湯温泉で排熱をエビの養殖にも

石田雅也 自然エネルギー財団 自然エネルギービジネスグループマネージャー

 福島県の北部にある「土湯(つちゆ)温泉」では、東日本大震災の直後から地熱発電と小水力発電を推進してきた。原子力発電所の事故による風評被害が重なって観光客が激減したことから、危機感を募らせた地元の温泉協同組合が主体になり、自然エネルギーによるエコな温泉地として復活を図る。豊富な湯量を誇る源泉を利用して、出力400キロワットの地熱発電所が安定した売電収入を生み出す。その収益の一部を住民に還元しながら、発電所が排出する温水を生かしてエビの養殖事業にも取り組んでいる。

年間に1億2000万円の売電収入

 土湯温泉の中心部から川に沿って3キロメートルほど上流に、この地域で最大の「16号源泉」がある。地下から噴出する蒸気と熱水は1時間あたり37トンにのぼる。温泉協同組合の理事長を務める加藤勝一氏は震災の直後から、温泉町の復興を目指して地熱発電の可能性に着目してきた。固定価格買取制度が始まった直後の2012年10月に、組合の出資をもとに新たな街づくりを推進する新会社「元気アップつちゆ」を設立。みずから社長に就任して、資金調達など多くの課題を乗り越えながら開発プロジェクトを粘り強く進めた。

 会社設立から3年が経過した2015年11月に、「土湯温泉16号源泉バイナリー発電所」が運転を開始した(写真1)。蒸気と熱水の両方を利用できるバイナリー方式の発電設備で、年間に約300万キロワット時の電力を供給している。固定価格買取制度で売電して1億2000万円の収入を得ることができ、運転・保守費や人件費を差し引いても十分な利益を出せる状態だ。

写真1 「土湯温泉16号源泉バイナリー発電所」の全景

 収益の一部を配当などで温泉協同組合に拠出する一方、地域に還元する事業を2つ実施している。1つは地元の小学校に通う児童の保護者を対象に、給食費と教材費の全額を支援する。もう1つは高齢者や高校生にバスの定期券を寄贈する事業である。「地熱発電による地域貢献の効果は予想以上に大きい」(加藤氏)。

発電に利用した温泉水と冷却水でエビを養殖

 地熱発電は新たな名産品を生み出すプロジェクトにも生かす。発電所から排出する温泉水と冷却水を利用したエビの養殖事業を2017年4月に開始した。東南アジア原産の「オニテナガエビ」を養殖するために、年間を通じて26℃の温水を供給することが可能だ(写真2)。

写真2 発電後の温水を利用して養殖中の「オニテナガエビ」

 バイナリー方式の地熱発電によって、高温の蒸気と熱水は65℃まで低下して温泉水になり、一方で冷却用に使う大量の湧水が21℃の温水になる(図1)。65℃の温泉水は従来と同様に長距離のパイプで旅館などに配給するが、その途中で養殖場にある熱交換設備を介して21℃の温水を26℃まで引き上げる。

図1 バイナリー発電設備で利用する蒸気・熱水・湧水、排出する温泉水と温水。
出典:つちゆ温泉エナジー

 地熱発電所から排出する温泉水と温水をエビの養殖に利用することで、光熱費をかけずに低コストで養殖事業を運営できる。現在は約4万匹のオニテナガエビを養殖中で、毎月3000匹を出荷する計画だ。この4月には温泉街の一角に釣り堀を開設した。7~10センチメートルの大きさに成長したオニテナガエビを釣り上げて、その場で焼いて食べることができる。温泉街の新たな観光スポットとして期待がかかる。

 順調に進む土湯温泉の地熱発電プロジェクトだが、運転を開始するまでに数多くの課題があった。特に難航したのは、総額7億円にのぼる資金の調達である。1年以上の期間を費やして、ようやく金融機関から融資を受けることができた。

 被災した温泉町を復活させるために始めた地熱発電事業の経緯を振り返りながら、バイナリー方式の発電設備とエビの養殖事業の仕組み、固定価格買取制度の買取期間が終了する2030年以降の構想を含めてレポートにまとめた。

外部リンク

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  • 自然エネルギー協議会
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  • irelp
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