ドイツ視察報告書 "Energiewende"(エネルギーヴェンデ(大転換))を進めるドイツ

自然エネルギー財団は、9月23から28日まで、ドイツの電力市場・電力システム改革に関する現地調査を実施いたしました。この度、調査報告書をとりまとめましたので、お知らせいたします。

今、日本では、東日本大震災とそれに伴う福島原子力発電所の事故を受けて、電力市場や電力システムのあり方が問われています。日本と同じように、長い間、垂直統合型・地域独占の電力システムに支えられてきたドイツは、1990年代の終わりから小売りの全面自由化を実施、2005年からは本格的な発送配電の分離に取り組んでいます。

自然エネルギーを基幹電源とした電力供給体制を実現するためには、公平で競争的な電力システムを構築し、新たな技術やサービス、アイディアを持つ全く新しい事業者が市場に参入できる環境を整備することが必要です。

2050年に80%を自然エネルギー電力から供給することを目標として掲げるドイツは、すでに今年前半で25%の供給を実現、将来をバックキャスティングする形で、自然エネルギーの最大化・最適化に向け、送電網の構築、市場デザイン、法整備などを、実施している最中です。

日本に大きく先んじるドイツの現在をまとめた本報告書が、日本の新しい電力システム構築のための一助になれば幸いです。

報告書全文はこちら  (PDF)

ポイント

1.ドイツは2050年自然エネルギー比率80%に向けて次のステージへ移行中

  • ドイツは、2011年総発電量に占める自然エネルギー比率が19.9%に拡大し、原子力比率(17.7%)を上回った。さらに、2012年上半期には25.1%まで伸びている。
  • 太陽光は目標を大きく上回る導入が進み(2011年750万kW、2012年も800万kWの導入見込み)、また、政策目標の一つである導入費用逓減も進んでいることから買取価格も順々見直しがされている。
  • 自然エネルギーの順調な拡大によって、脱原子力という従来の基本路線が強化されている。さらなる自然エネルギー拡大のため「送電線の拡充」及び「自然エネルギーの市場統合」という次のステージの議論が行われている。
(参考) ドイツは、再生可能エネルギー法の改正により総発電量に占める自然エネルギー比率を2020年に35%、2050年に80%に引き上げる目標が定められている。現環境大臣は、2020年40%の新しい目標も言及している。
(参考) 東京電力福島第一原子力発電所の事故を受けて、2011年7月に、原子力法ならびに関連法案の改正・成立を行い、2022年までの脱原発を定めている。

2.発送電分離により公平な競争環境が実現し、新規参入が促進されている。また、送電部分への規制強化が自然エネルギーの導入にも奏功していた。

  • ドイツ電力市場は1990年代末まで、日本と同様に民間電力会社による垂直統合・地域独占型の電力システムだったが、1997年1月に施行された第一次欧州電力指令を受けて、1998年より電力自由化と発送電分離が進められた。
  • まずは100%の電力小売り自由化が導入された。発送電の分離については、会計分離から始められた。当初は送電線の利用料金(託送料金)の設定が、電力会社と新規参入者の交渉に委ねられた。その結果、託送料金が高止まりするなど不十分な改革となり、公平な競争環境が生まれず、新規参入者のほとんどが撤退した。
  • 2005年に、送電部門に強い監督権限を持つ連邦ネットワーク規制庁が創設され、託送料金を事前認可制に改めた。ネットワーク規制庁は送電部門を強く規制し、発電部門と送電部門の会計、情報、運用の徹底した透明化と分離が促進されたため、経営形態についても発送電の分離が本格的に進んでいった。
  • 現在では、所有権分離も含めて送電部門の完全な独立性が担保され、新規参入者にとって公平な競争環境が実現している。
  • 発送電分離後の送電部門への規制強化が、自然エネルギー導入のための送電網の拡充を行う上でも奏功している。

3.電力会社は自らが送電部門を売却するなど所有分離を進める仕組みを整備

  • ドイツでは法律上、所有権分離だけでなくITO(法的分離)、ISO(機能分離)のいずれの形態も認めているが、送電部門はネットワーク規制庁による厳しい規制下にある。
  • 託送料金も同様に規制を受けるが、その分、長期安定的な事業という側面があるため、ファンドなどからの資金調達がし易くなっている。
  • 発送電分離によって、発電事業のビジネスモデル(不安定/短期回収型)と送電事業のビジネスモデル(安定/長期回収型)が明確になり参入するプレイヤーによって棲み分けが進んでいる。
  • 大手電力会社は、異なるビジネスモデルの事業を抱えながら、今後も続く送電部分への規制強化のトレンドの中、送電部門を所有する必然性が低くなり、現在では4大電力会社のうち2社が送電部門を完全に売却し、もう1社も現在25%の株式を保有しているが将来的に完全に売却する方針となっている。

4.送電網強化が喫緊の重要課題

  • 自然エネルギーの更なる拡大のためには送電網の強化が喫緊の課題との認識の下、送電網の整備を迅速化するための法律が新たに制定され、送電線整備に要する時 間の短縮化措置など最大限の導入策を図っている。

5.日本への提言「10年でドイツに追いつくことが可能」

  • 発送電分離は、送電部分への規制強化と共に発電及び小売における競争を促進することで低廉安定な電力システムを構築することの効果に加え、自然エネルギー等に対する公平な接続の徹底や、自然エネルギー潜在量の最大化のための送電網の拡充や広域的な運用のための要諦にもなっている事がわかった。
  • 日本の2030年自然エネルギー率35%達成については、意見交換した有識者からは、概して「日本では法的枠組みが整備されればドイツより早く導入が進む可能性がある。PVや風力,地熱、バイオマス、水力など自然エネルギーのポテンシャルは日本の方が有利であり、ドイツがFIT制度を開始した時に比べてコストも低下しているので、むしろ導入が早く進むのではないか」として、日本は10年でドイツに追い付くことが可能との示唆があった。
  • 「日本の2030年自然エネルギー比率35%以上」実現のため、ドイツで過去20年以上積み上げられてきた成功・失敗の経験を活かし、発送電分離、小売における競争促進、送電網の拡充などの政策を総動員することが重要である。
    • ① 発送電分離の着実な実行
      • 国民への選択肢の提示と、競争によるイノベーション創出
      • 実効性を伴うルールの策定による新規参入への公平な競争環境の整備
    • ② 実行力を持った規制機関の創設
      • 託送料金の設定等に係る規制強化
      • 送電網整備計画等における権限強化
    • ③ 送電網拡充計画の策定
      • 自然エネルギー潜在量を最大限に活用するための送電網拡充計画の策定
      • 上記実現のための政府支援(予算措置、立地規制緩和等)

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