寄稿(朝日新聞・私の視点)電気代下げるには―送電網、公的に運営を

トーマス・コーベリエル 自然エネルギー財団 理事長

2020年3月11日

in English

本稿は、2020年3月10日の朝日新聞朝刊「私の視点」に掲載されたものを、朝日新聞社の許可を得て転載しています。
 
 電力会社間の競争を促し電力コストを下げるという世界的な動きは、日本ではまだ始まっていない。それは地域ごとの大手電力会社がほとんどの発電所と共に、送電網を運営しているからだ。新規に電力事業に参入する事業者は、送電網を利用しながら、それを運営する大手電力と競うことになる。大手電力は、自社の古い火力発電所の収益が脅かされても、新電力を送電網から締め出せない。一方で、新しい参入者を送電網につなぐための容量を増やす投資がなされるかは、大手電力の発電所の経済状況に左右されてしまう。

 海外の電力システムで最も低コストで運営されているのは、送電網が公共事業体の所有・運営で、発電事業者と経済的な利害関係がないものだ。日本もようやくこの4月からすべての大手電力が発電と送配電の法的分離に移行する。しかし先行例に従えば、送電事業者は発電事業と所有権が分離されて初めて、すべての発電事業者に対して中立的であると信用される。そして電力を最小コストで家庭や産業の消費者に安定供給するために尽くすようになる。

 日本の電力システムの近代化を遅らせているもう一つの重大な問題は、原発とその所有者が市場の中では生き残れないことだ。東京電力が福島第一原発事故の賠償金を払えなくなるだけではない。原発を解体し、何世紀にもわたり放射性廃棄物を管理するための費用は、会社の資金提供能力よりもはるかに高い。

 世界各国では、新しい太陽光や風力による発電は新しい原発よりも安価であるのはもちろん、既存の原発よりも競争力がある。そのため、欧米では近年、いくつかの原子炉が閉鎖されている。放射性廃棄物の管理のために資金を確保できなければ、多額の負債を抱えて破産することになる。ドイツでも数年前、電力会社の破産を避けるために、廃炉と放射性廃棄物管理にかかる費用を将来的に政府が補填(ほてん)する法律が成立した。

 日本では、原発を持つ電力会社の財務状況はもっと深刻だ。原発を維持し、再稼働するための費用は非常に高い。再稼働した原発が生み出す同じ電力量を得るのに、新しい再生可能エネルギーに投資した方が安く済んだかもしれない。

 この二つの問題は、政府が大手電力の原発を引き受ければ解決できる。廃炉作業と長期債務を引き受ける代わりに、政府は大手電力に送電網の所有権を引き渡すように求める。送電網は公的に運営され、透明で公正な競争ができるようになる。

 電力供給が近代化され、真の競争が可能になれば、日本の消費者や国全体として大きな利益となることは間違いない。

 (Tomas Kåberger 自然エネルギー財団 理事長)
  • 2020年3月10日の朝日新聞朝刊「私の視点」に掲載(承諾番号「20-0980」)。朝日新聞社に無断で、転載することを禁じる。
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