公正取引委員会による卸電力取引に関する実態調査

高橋 洋 法政大学 社会学部 教授

2024年3月1日

卸電力取引に関する実態調査の概要

 2024年1月17日、公正取引委員会(公取)は、「電力分野における実態調査(卸分野)について」と題する調査報告書を発表した1。公取は、独占禁止法(独禁法)に基づいて競争政策全般を司る内閣府の独立行政委員会だが、自由化を進めている電力分野についてもかねてより意見表明してきた。1年前の大手電力会社(旧一電)によるカルテル事件については、その摘発に公取が主導的な役割を果たしたのであり、筆者もコラムを執筆した。今回の調査では、旧一電を中心とした発電事業者と新電力を含む小売事業者との間の相対取引について、関係者に対する詳細のヒアリング調査などを踏まえた具体的な提言を行なっている。 発電事業における旧一電のシェアは現在でも7割前後であり、新電力はスポット市場以外に旧一電からの卸電力の調達に頼らざるを得ない。このような状況の下では、新電力にとって旧一電の既存電源へのアクセス機会の確保が競争上重要である。是非報告書をお読みいただきたいが、その概要は以下の通りである。

 第1に、発販分離されたエリア(中部電力、東京電力)でも、旧一電の発電事業者は、まず自グループの小売事業者に電力のほぼ全量を卸売るため、新電力は旧一電小売からその余剰分を買わざるを得ない状況が常態化しているという。これは、競合他社に卸売価格や量を差配されることになるため、新電力にとって競争上不利である。旧一電は、新電力が旧一電の発電事業者から直接卸電力を調達できるよう、自グループ内の長期契約を自動更新しない、広く供給先を募るなどの配慮をすべきである。

 第2に、旧一電が以前から調達してきた社外電源や火力電源入札制度に基づく電源についても、新電力のアクセスが困難な状況が続いているという。既存の卸売契約が旧一電の小売事業者・部門に自動的に引き継がれているのであり、新電力のアクセス機会が確保されるべきである。

 第3に、旧一電と新電力の間の卸契約の一部において、以下のような取引制限条項が設定されているという。卸電力の転売禁止については、余剰インバランスの観点などから問題が大きく、供給エリアの制限については、独禁法上の拘束条件付取引になりうる。これら取引制限は解除・緩和されるべきである。

 第4に、旧一電と新電力の間の卸契約の一部において、卸標準メニューが作成されなかったり、オプション価値が設定されなかったりする例があるという。自グループ内での卸契約と新電力に対する卸契約で、格差があることを意味する。これらは近年改善されつつあるとのことだが、相対取引の透明性向上の観点からさらに徹底されるべきである。

 第5に、旧一電の発電部門と小売部門の間の卸取引において、採算割れの場合があるという。これは、旧一電における内部補助に相当し、小売競争を不当に阻害する恐れがある。電力・ガス取引監視等委員会(電取委)による監視の徹底が求められ、それでも改善されない場合には、発販分離を行うことが考えられる。

今回の実態調査の意義

 このように、卸電力の相対取引においても、公正な競争環境は十分に整備されているとは言い難い。旧一電の立場からすれば、自社の電源は自由にさせてもらいたいというところかもしれないが、法定独占時代に建設した電源を自由にされては、競争にならないだろう。発電所を建設しない新電力を批判する声もあるが、小売りスーパーに対して、販売する商品の多くを自社工場で製造するよう求めるのは、無理がある。法定独占市場を開放した後には、一定の競争環境を行政が介入して整備することが不可欠であり、それが自由化後の競争政策である。

 これまでにも筆者は、日本の電気事業における競争政策の不十分さを指摘してきた。今回の実態調査の意義は、公取という公的な専門機関が徹底調査した結果だという点にあり、高く評価されるべきである。独禁法違反とまではいかずとも、公正競争上問題となり得ることが、客観的な調査に基づいて認定されたことを、旧一電は真摯に受け止めるべきだろう。2021年1月のスポット価格の異常な高騰や、2022年のウクライナ戦争に伴う化石燃料価格の高騰を受けて、新電力の経営は厳しい状況が続くが2、改めて公正な競争環境という大前提が整備されるべきである。

 電気事業における競争環境を整備する役割は、公取ではなく経済産業省にある。卸取引の監視を直接所掌するのは電取委である。本来このような調査は、電取委によって行われても良かった。その役割が公取に担われた構図は、1年前のカルテル事件と似ている。経産省は、電取委の権限や人材を抜本的に拡充し、競争政策を徹底的に強化すべきである。これも筆者の繰り返しの指摘の1つである。

 とはいえ、前向きに捉えれば、所管省庁の不十分な点を、内閣府の別組織が補完しているとも言える。公取によれば、今回は卸相対取引を中心とした調査結果であったが、今後は他分野の調査も続けるという。2つの規制機関の建設的な相乗効果により、電気事業における競争環境の整備が進むことを期待したい。

 最後に、このような改革は、少なくとも中長期的には旧一電の経営にもプラスとなることを強調しておきたい。電源構成が再生可能エネルギーに大きくシフトし、限界費用ゼロの電源の増加によりkWhの取引価値が大きく下がり、一方で需要家の自家消費が太陽光発電によって増加する時代には、旧来の発送電一貫体制のマインドでは対処できない。発電事業者は再エネなどの発電事業において、小売事業者はサービス事業において、そして独立した送配電事業者は送配電網の増強投資などによって、それぞれ利益の最大化を追求することが、企業価値の向上に直結するのである。

外部リンク

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  • 自然エネルギー協議会
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  • 全球能源互联网发展合作组织

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