ドイツ 自然エネルギー拡大加速に向け法律一式を採決過去数十年で最大規模

一柳 絵美 自然エネルギー財団 研究員

2022年8月2日

 ドイツ連邦議会と連邦参議院は、自然エネルギー拡大とエネルギー危機対策として、合計593ページにおよぶ法律一式をそれぞれ7月7日と7月8日に採決した1。今年4月に公開された「イースター・パッケージ」に基づいて、「再生可能エネルギー法(EEG)」など自然エネルギー拡大加速に関する5分野の法律を改正・一部新設した。さらに、エネルギー安定供給の予防的措置強化のための2つの法律を合わせ、一気に合計7点の法整備を行った。ハーベック連邦経済・気候保護相は、今回の法律一式は「過去数十年で最大規模の自然エネルギー拡大加速パッケージ」であり、「10年以内に総電力消費量に占める自然エネルギーの割合をほぼ倍増し、自然エネルギーの拡大スピードを3倍にする」としている。総電力消費量に占める自然エネルギーの割合は、2021年時点で約42%だったが2、2030年に80%到達を目指し、発電量は、現状の240TWhから2030年に600TWhまで高める。設備導入量は2021年に太陽光58.9GW、陸上風力56.2GW、洋上風力7.7GWだったが3、2030年に太陽光215GW、陸上風力115GW、洋上風力30GWを目標に掲げる。

7つの法整備の概要:自然エネルギー拡大加速とエネルギー危機対応を同時進行

 連邦経済・気候保護省は、今回の法律一式の概要を公開している。その情報を基に、表1に、自然エネルギー拡大のための5分野の法律と、エネルギー危機対策のための2つの法律の概要を整理した。今回の法律一式は、特に膨大で全てを詳説することは困難であるため、このコラムでは重要な数値目標を抽出して紹介したい。自然エネルギー拡大目標の全体像を提示する「1. 再生可能エネルギー法」を中心に、陸上風力エネルギー拡大の強化・加速化のための新法「2. 風力エネルギー用地法」、洋上風力に特化した「3. 洋上風力エネルギー法」に焦点をあてる。

表1: 自然エネルギー拡大・エネルギー安定供給に関する法律一式(2022年7月8日連邦参議院採決)

出典:連邦経済・気候保護省(BMWK)の公開資料4を基に筆者整理

1.「再生可能エネルギー法」改正:2030年に自然エネで電力の80%、太陽光215GW、陸上風力115GW

 まず、今回採決の「再生可能エネルギー法(EEG 2023)」では、今年3月公開の法案通り5、2030年の自然エネルギー電力拡大目標を総電力消費量の少なくとも80%と定める。自然エネルギーによる発電量は2030年に600TWhを目指すとし(現状は、年間240TWh)、法案提出時の578TWhよりも、22TWh増えることとなった。また、法案では、2035年以降ほぼ完全に自然エネルギーに基づく温室効果ガス中立な電力供給を目指していたが、今回の採決では、「完全に自然エネルギーに基づく」いわゆる100%自然エネルギーに関する文言は見送られた。それでも、自然エネルギーの特別な重要性を論じる「最優先の公益であり、公共の安全に資する」原則は予定通り今回の法改正で新たに明文化され、すでに7月29日に一歩先立って発効された(表2)。新たな「再生可能エネルギー法」のその他の規定は、原則として来年2023年1月1日から施行予定である6

表2: 自然エネルギー拡大数値目標の要点:「再生可能エネルギー法(EEG 2023)」の採決内容 

出典: 連邦参議院採決の「再生可能エネルギー法(EEG 2023)7」を基に筆者作成

 2030年自然エネルギー80%目標達成には、2030年に約215GWの太陽光発電設備容量、約115GWの陸上風力発電設備容量が必要となる。これは、法案時点の目標値と比べると、太陽光で+15GW、陸上風力で+5GW上方修正されていることが確認できた。年間拡大量は、2022年から2035年までの見通しが立てられ、太陽光では2026年以降は毎年22GW、陸上風力では2025年以降は毎年10GWのペースでの拡大が必要となる。バイオエネルギー利用については、柔軟性の高い発電所を集中的に推進し、バイオメタンについては2023年以降に年間600MWまで増やす予定である。また、市民エネルギー事業を強化するため、市民主体のエネルギー組織は入札への参加を免除され、入札に参加することなく支援を受けることができる。しかし、欧州委員会の要求で、この市民主体のエネルギー事業に対する特別措置は、太陽光の場合で最大6MW、風力の場合で最大18MWの規模までに制限される。

2.「風力エネルギー用地法」導入:2027年・2032年末までに各州に拘束力のある面積貢献値を透明化

 陸上風力に特化して、2023年から新法として導入されるのが「陸上風力エネルギー設備拡大の強化・加速化に関する法(通称:陸上風力法 WaLG)」である。6月の閣議決定時の概要は過去のコラムでも紹介した8。今回採決された本法の中核をなすのが「風力エネルギー用地法(WindBG)」であり、ドイツ国土の2%を陸上風力発電に充てるため、各州に拘束力のある目標(いわゆる面積貢献値)を法規定している。ドイツの全16州に対し、2027年末までと2032年末までに各州が達成すべき面積の貢献値が3条の附表1に示されている(表3参照)。たとえば、他の州と比べて面積が小さく、住宅密集地で土地利用の柔軟性が低い都市州のベルリン、ブレーメン、ハンブルク州は、2027年末までの中間目標として州の面積の0.25%、2032年末までには0.50%を陸上風力発電設備用地に充てる義務が設定された。比較的面積が広く都市州よりも土地利用に余裕のあるその他の13州は、各州の風況等も考慮して目標値に幅を持たせ、2027年末までに1.1〜1.8%、2032年末までに1.8〜2.2%の範囲での義務づけとなる。「風力エネルギー用地法」による拘束力のある面積目標は、「建築基準法」の中の建築計画法の体系に統合される9。このようにドイツ全体で2%達成に向け、各州の目標値を適切に割り振り、透明化するための法規定を行う。

表3:ドイツの州の陸上風力発電設備のための面積貢献値: 「風力エネルギー用地法」の採決内容

出典:連邦参議院採決の「風力エネルギー用地法(3条附表1)10」を基に筆者訳出

3.「洋上風力エネルギー法」改正:区域別の新たな入札制度設計で収益の一部を自然保護や漁業に還元

 洋上風力拡大に関する方針は、これまで同様、再生可能エネルギー法とは別に「洋上風力エネルギー法」で規定される。設備容量の目標は、現政権の連立協定で予告した表4の通りとなる。

表4: 洋上風力エネルギー拡大数値目標(「洋上風力エネルギー法」の採決内容)

出典:連邦経済・気候保護省(BMWK)の公開資料11を基に筆者整理

 今回改正の「洋上風力エネルギー法」によると、事前調査区域と非事前調査区域という2種類の区域別に、新たな入札制度が設計される(表5参照)。まず、中央政府による事前調査が行われる区域では、洋上風力発電設備の製造にグリーン電力・グリーン水素を使用するなど、4つの定性基準に基づく入札を実施する。これまでの計画承認手続きが省略され、より迅速な計画承認手続きに置き換わる。一方、中央政府による事前調査がない地域では、もし入札額が0セントの入札者が複数いた場合には、動的な手続きを開始し、最も支払い意思が高い入札者が選ばれる。両区域に共通しているのは、洋上風力入札による収益の用途の配分である。90%は、洋上風力系統賦課金に使われ、5%は自然保護、残りの5%は環境に配慮した漁業に収益が流れるようにする。入札の収益が、電力コストの削減に貢献し、自然保護や漁業者の利益を強化することで、洋上風力拡大に対する受容性を高めていく方針である。また、洋上風力発電所の拡張と系統接続の加速化のため、本法改正であらゆる手続きを迅速化し、契約の締結を数年単位で短縮していく。系統接続の早期認可、計画・承認手続きの合理化、審査の一本化を行うといった改革に取り組む。

表5: 区域別 洋上風力入札の制度設計(「洋上風力エネルギー法」の採決内容)

出典:連邦経済・気候保護省(BMWK)と連邦政府の公開資料12を基に筆者整理

まとめ

 今回採決の7点の法律一式では、「再生可能エネルギー法」改正を中心に、陸上風力や洋上風力に特化した複数の法律を組み合わせ、自然エネルギー拡大の加速化とエネルギー危機対策に取り組む。2030年自然エネルギー電力8割達成のための道筋を示し、特に、太陽光と風力発電の拡大を重視した制度設計である。具体的には、ドイツの全16州に対する陸上風力発電用地の面積割合の義務目標設定や、洋上風力の新たな入札制度設計などが新しい。また、自然エネルギー拡大の社会的受容性を高めるための取り組みも強化する。たとえば、一定規模までの市民主体の風力・太陽光発電事業に対して入札参加免除行う他、洋上風力入札の収益の一部を環境に配慮した漁業者に還元する。ドイツは、現在のエネルギー危機下で、国を挙げての自然エネルギー拡大にこれまで以上に邁進していく。

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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