4300頭の乳牛の糞尿をバイオガス発電と熱に北海道・鹿追町でマンゴーやチョウザメも商品化

石田雅也 自然エネルギー財団 シニアマネージャー

2019年10月3日

 北海道の東南部に広がる十勝地方は農業と酪農が盛んな地域だ。北側に大雪山を抱える鹿追町(しかおいちょう)では、約100戸の酪農家が合計2万頭の乳牛を飼育している。乳牛が排せつする大量の糞尿のにおいが町の大きな課題になっていた。町役場が2007年に糞尿を利用したバイオガスプラントを建設して以降、においの問題は大幅に改善した。と当時にバイオガスプラントは新たな収益事業を町にもたらす。バイオガスによる発電事業に加えて、発電に伴う排熱を利用してマンゴーの栽培やチョウザメの養殖が軌道に乗ってきた。

酪農家が乳牛の飼育数を増やせるようになった

 バイオガスプラントは乳牛の糞尿の処理に有効なだけではなく、町の経済を活性化させる効果も大きい。鹿追町役場は1カ所目の「中鹿追バイオガスプラント」に続いて、2カ所目の「瓜幕バイオガスプラント」を2016年に稼働させて糞尿の処理量を増やした(写真1)。従来は1300頭分の処理量にとどまっていたが、新設したバイオガスプラントは3000頭分の糞尿を処理できる。合わせて町内の乳牛の4分の1に相当する糞尿を処理する体制を構築した。

写真1 「瓜幕バイオガスプラント」の全景。出典:鹿追町役場

 2カ所のバイオガスプラントには合わせて6基のガス発電機が設置されている(写真2)。発電能力を合計すると1040キロワットになり、年間の発電量は700万kWh(キロワット時)を見込める。このうちプラント内で消費した後の余剰電力を固定価格買取制度で売電している。2018年度の売電量は617万kWhにのぼり、一般家庭の電力使用量(年間3600kWh)に換算して約1700世帯分に相当する。鹿追町の総世帯数(2500世帯)の約7割をカバーできる電力量である。

写真2 ガス発電機。中鹿追バイオガスプラントの2基(左)、瓜幕バイオガスプラントの4基(右)

 
 乳牛の糞尿にはメタン菌が含まれていて、空気に触れない状態で加温すると発酵してバイオガスを発生する。メタン発酵によるバイオガスで発電した電力は、固定価格買取制度で1kWhあたり39円で買い取られる。鹿追町では年間に約2億4000万円の売電収入を得ることができ、将来の大規模な修繕にも備えられるようになった。一方で酪農家は糞尿処理の手間が軽減されたことにより、飼育する乳牛の数を約20%も増やすことができた。

 バイオガス発電に伴う排熱を使って、大量の温水を作ることも可能になった。最初に運転を開始した中鹿追バイオガスプラントの敷地の中には、マンゴーを栽培するビニールハウスやチョウザメを養殖する施設が併設されている(写真3)。マンゴーは冬に出荷できるように、秋から冬にかけて温水を利用して、ハウスの中の温度を30℃前後まで高める。夏の温水はチョウザメの水槽に供給して成長を促進させる。

 写真3 マンゴーを栽培するビニールハウス(左)、チョウザメを養殖する水槽(右)

 すでにマンゴーは東京の市場に向けて出荷を開始し、チョウザメは町内の飲食店で刺身や天ぷらとして供給している。1~2年後にはチョウザメが卵を産むようになり、世界3大珍味で知られるキャビアを生産できる見込みだ。こうして特産物が増えていけば、農業と酪農に続いて町が力を入れている観光面の効果も期待できる。

 悩みの種だった乳牛の糞尿が町の経済の活性化につながる。糞尿からバイオガスを発生させる工程や設備を見ながら、発電事業と排熱を利用した関連事業についてレポートで解説する。



 

外部リンク

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