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連載コラム 自然エネルギー・アップデート

2017年11月17日

連載コラム 自然エネルギー・アップデート

フランスで始まった原子力発電の衰退

ロマン・ジスラー 自然エネルギー財団 研究員

in English

原子力発電の依存度が世界で最も高いフランスで、原子力事業の基盤が揺らぎ始めた。コストの上昇と安全性の懸念、さらに政府の意向も加わって、原子力発電を縮小する動きが進んでいる。

安全対策でコストが上昇、4年間で20%増加

過去30年以上にわたって、フランス国内の電力は原子力発電に依存してきた。2016年の時点でもフランスの総発電量の73%を原子力発電が占めている。ところが最近になってフランスの原子力発電は減少し始めて、今後さらに縮小を避けられない状況にある。

原子力大国のフランスでは、ここ数年のあいだに原子力発電の経済的・技術的な課題が明らかになってきた。それに加えて安全性に対する懸念が高まり、国の新しいエネルギー政策も原子力発電の基盤を弱体化させる要因になっている。

これまで原子力発電の推進派は2つの利点を強調してきた。1つは経済的な優位性であり、もう1つはエネルギー・セキュリティの確保である(ただしフランスでは燃料のウランを輸入しているため、エネルギー・セキュリティの点では常に疑問視されてきた)。ここで注意すべきは、原子力発電を新たに気候変動対策として支持する動きが始まったのは2000年代に入ってからである。

フランス国内の原子力発電を推進するうえで、最も説得力のある理由として使われてきたのが経済的な優位性である。原子力発電による安い電気料金が産業界の競争力を高め、家庭にも手ごろな料金で電力を供給できる。そのように長いあいだ信じられていた。しかし、この理屈も通用しなくなってきた。

2012年1月に、フランスの公的資産の利用状況を監査する会計検査院(Cour des comptes)が既設の原子力発電所の発電コストを算定した。その結果、2010年の時点で平均の発電コスト(資産償却を除く)は50€/MWh(ユーロ/メガワット時)を少し切る水準だった。続いて2014年5月の算定結果では、2013年の時点の発電コストは約60€/MWhに増えていた。

さらに2016年2月には、2014年の時点の発電コストが63€/MWhに上昇している算定結果が出た。2010年から2014年のあいだに増加した約20%のコスト(インフレーションを考慮)は、発電設備のメンテナンスに対する投資である。この中には福島第一原子力発電所の事故後に厳しくなった安全基準を満たすための費用が含まれている。

その後の2014年から2016年までのあいだに追加の投資を必要としなかったとしても、2016年には安全性に対する懸念などから原子力による発電量が減少したため、発電コストは69€/MWhに増加したと推定できる。

一方で民間調査機関のBloomberg New Energy Financeによると、フランスにおける風力と太陽光の発電コストは過去2年間で大幅に低下した。すでに原子力発電と比べてコスト競争力のある状態になっている(下の表を参照)。

表 フランスにおける原子力と陸上風力・太陽光の発電コスト
(インフレーションを考慮して2017年のユーロに換算。陸上風力と太陽光の価格は1ドル=0.902ユーロで換算)

新設の発電コストは15円/キロワット時を超える

原子力発電設備を新設する場合のコストを見ると、もはや風力・太陽光発電と競争できる状況ではないことがわかる。象徴的な事例がフランス国内で建設中の「Flamanville III原子力発電所」である。度重なる工事の遅れと大幅なコスト超過に直面していて、発電コストは120€/MWhまで膨れ上がると予測されている。風力・太陽光発電と比較して約2倍の水準だ。日本円に換算すると15.6円/キロワット時である。

Flamanville III原子力発電所を建設するEDF(フランス電力)は現時点で58基の原子力発電設備を抱えていて、設備容量は合計で6300万キロワットに達している。EDFの純金融負債は2017年6月30日の時点で310億ユーロ(約4.0兆円)もある。この負債を軽減するために、今後は原子力発電所を新設するよりも、数多く残っている古い原子力発電設備の運転期間を40年以上に延長する方針だ。全58基のうち2017年11月15日の時点で8割の原子力発電設備が運転開始から30年以上を経過していて、そのうち約半分は35年以上を経過している。

ただし原子力発電設備の運転期間を延長しても、経済面・技術面・安全面の課題は残る。例えば経済面では、フランス国内の原子力発電設備を改修するプログラム「Grand Carenage」のコスト試算が参考になる。このプログラムでは原子力発電設備の安全性を高めて運転期間の延長を目指しているが、2014年から2025年のあいだに合計で480億ユーロ(約6.2兆円)にのぼるコストがかかる見通しだ。

今後は風力・太陽光発電と組み合わせて使う必要があり、原子力発電には出力の柔軟性が求められる。技術的には原子力発電の出力を柔軟に変更することは可能だが、それによって収益性を損ねてしまう。設備利用率が低下するうえに、出力を頻繁に上げ下げすることで設備の消耗が進み、運転維持費を増加させる要因になる。

加えて安全性の問題が大きな影を落としている。フランスの原子力産業を代表するAREVA傘下のCreusot Forgeがサブコントラクターの日本鋳鍛鋼とともに製造した原子力発電設備用の部品がある。その品質保証の書類に不正が見つかり、部品に使われている鉄鋼の炭素含有量が基準を超過していたことが明らかになった。これによりフランス国内で稼働中の複数の原子力発電設備が2016年から2017年にかけて一時的な運転停止に追い込まれた。

その結果、2016年のフランス全体の原子力発電の設備利用率は21世紀に入って最も低い72.9%まで低下した。長年にわたって電力の輸出国だったフランスでは珍しいことに、2016年12月と2017年1月の2カ月連続で電力の輸入量が輸出量を上回る事態になった。直前の2016年11月にはスポット市場(1時間単位)の電力価格が800€/MWhを超えるケースが3回も発生して、最高で874€/MWhまで上昇した。日本円に換算して113円/キロワット時という極めて高い価格である。

さらに原子力発電を取り巻く最後の問題として政治的なプレッシャーがある。2015年に施行した「エネルギー転換法」(French Energy Transition for Green Growth Law)では、原子力発電の比率を2030~2035年に50%まで低下させる目標を掲げている(当初は2025年が目標年だったが、廃炉のロードマップを策定できていないために、2017年11月7日に延期を発表した)。政府が原子力発電の依存度を引き下げることを決めた要因はさまざまある。その中でも、エネルギー源の多様化、電力コストの削減、安全性の問題、の3つが大きい。

これまで政治的にも社会的にも原子力発電に依存するスタンスを変えてこなかったフランスでさえ、原子力発電の役割を大幅に縮小する決断を下さざるを得なくなった。その理由は最近の状況を見れば納得できる。時代の流れはエネルギー効率化と自然エネルギーの2つに向かっている。この状況は遠く離れた国にも当てはまる。とりわけ原子力に関する議論が活発な日本では参考にすべきである。

外部リンク

  • JCI 気候変動イニシアティブ
  • 自然エネルギー協議会
  • 指定都市 自然エネルギー協議会
  • irelp
  • 全球能源互联网发展合作组织

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