連載コラム ドイツエネルギー便り

ドイツの市民と自然エネルギーの電力会社

2016年7月15日 林佑志 在独コンサル会社 欧州環境政策調査員

 今年4月から、日本でも、家庭や小規模需要家の小売り電力市場が自由化された。自然エネルギーを支援したいと、新しい電力メニューを検討した方もいるだろう。すでに、自然エネルギー電力が30%を超えるドイツでは、自然エネルギーからの電力を選ぶ家庭や小規模ビジネスも一般的になっていて、2010年には409万人だった自然エネルギー電力の利用者が2015年には852万人にまで増えている 1 。実際にドイツで自然エネルギー電力を購入する場合はどうするかのだろうか。

ドイツで自然エネルギー電力に切り替える

 ドイツでは、自然エネルギー電力に切り替えるきっかけの1つに、ニュースやイベントがあげられる。イベント等で見かけたり、直接話を聞いたりした自然エネルギーの電力会社を選択することもあるだろう。自然エネルギーを小売りする電力会社は、多くのイベントに参加していて、日常生活の中で目にする機会が増えている。
 次に、比較サイトで自然エネルギーを比較して選ぶケースがある。ドイツには、すべての電力メニューから比較できるサイト、自然エネルギー電力に絞った比較サイトがある。VERIVOXCheck24が大手サイトとして有名で、これらの比較サイトから直接新規契約または契約変更ができる。郵便番号や家族構成、消費電力量を入力すれば、最適な電力メニューが提案される。電力版エコラベル 2 で選ぶなどオプションもあり、まずは価格が安いメニューやボーナスがあるメニューから順に表示される。比較サイトを見る限り、順位付けは、契約後最初の1年について、居住地域の大手電力会社の標準的なメニューと比較して総額でどれくらい安くなるかという基準で行われているようだ。
 電力版エコラベルには種類があり、内容が異なる。そのため、VERIVOXではラベルの違いについて注意するよう呼びかけている。より環境負荷に関する認証基準が厳しい電力ラベルは、ローカル電源を重視したり、減価償却の済んだ大型水力などを排除するために設備稼働年数が短いものしか認めなかったり、自然エネルギー設備に対する投資を義務付けている。しかし、このようなラベルの認証を受けた自然エネルギー電力は価格が高い。
 こうやって、消費者は価格とラベルで、自然エネルギー電力の性能の違いをみながら好みに合った電力を買うことができる。

比較結果の見方

 上述の2つの比較サイトでは、自然エネルギーの環境性能については、放射性物質発生量、CO2排出量が明記され、また、自然エネルギー割合、EEG下の自然エネルギー割合(日本で言う「FiT電力」) 3 と、ドイツの全国平均が表示される。加えて、電源構成のグラフも表示されており、わかりやすい。


図1 Check24で表示される電源構成の例 4 

注:左が自然エネルギー電力メニューの電源構成、右がドイツの平均的な電源構成。
濃い緑がEEG自然エネルギー割合、黄緑がEEGではない自然エネルギー割合である。

 実は、自然エネルギー電力と通常の電力を比較して、年間の電気代がいくらまでの上昇であれば自然エネルギーを選ぶか聞いた世論調査では、100ユーロ以上と答えた人が9%、100ユーロまでが17%、50ユーロまでが39%、0ユーロが33%となっている 5 。つまり、より環境的であっても、あまり高ければ購入しないという家庭が多いという結果である。しかし、実際には、自然エネルギー電力であっても(少なくとも1年目は)大手電力会社の標準メニューを買うよりも値段が下がる場合がほとんどである。ドイツでは自然エネルギー電力は、決して高いものではなく、中には年間で数万円の節約ができるメニューもある。

日本とドイツの違い

 注意しておきたいのが、ドイツと日本の自然エネルギー電力メニューの違いだ。図1をご覧いただけばわかると思うが、ドイツの“エコ電力(Ökostrom)”メニューはほぼすべて100%自然エネをうたっている。50%自然エネもあるかもしれないが競争力は弱く、検索サイトでは見つからない。
 これは、自然エネルギーのカウントの仕方が異なるためである。ドイツは年間販売電力量に見合った発電源証明(GoO)を調達すればよく、国外のGoOもEU域内に限り、調達可能である。ドイツの制度では自然エネ割合による差別化はできないため、自然エネルギー電力であっても風力や太陽光の割合が多い、新しい自然エネルギー設備に投資している、ローカル(国内)電源から調達しているなどでの差別化が重要となってくる。その際、消費者が各メニューの細かな違いを自分で確認することは難しいため、ラベルが重要な役割を果たすのだ。
 ラベルが複数あるのは確かにややこしいが、自然エネルギーの割合による差別化が出来ないドイツでは一定の合理性がある。逆に、日本では100%エコ電力メニューは現在簡単ではないため、自然エネルギーの割合が差別化材料になる。
 ここ5年で自然エネルギー電力を使う人は倍増した。一方で、自然エネルギーの電力会社の大型倒産も世間を驚かせた。ただし、倒産企業のビジネスモデルはかなり朴訥なものであり、今生き残っているのは誠実なビジネスを行う会社である。
 確かなことは、ドイツでは確実に健全な自然エネルギー電力市場が出来上がりつつあるということである。


 1  Statista『Bevölkerung in Deutschland nach Bezug von Ökostrom von 2010 bis 2015 (Personen in Millionen)』、2016年5月27日
http://de.statista.com/statistik/daten/studie/181628/umfrage/bezug-von-oekostrom/
 2  環境団体や認証機関が基準を設けて審査をし、「環境に負荷を与えない自然エネルギー」として推奨し、ラベルをつけて証明する制度。電力版エコラベル。テュフやOK Powerが特に有名。
 3  EEG(固定価格買取制度、FiTを定めた再生可能エネルギー法)の支援を受けている自然エネ電力の割合。日本で言う「FiT電力」。
 4  Erneuerbare Energien nach EEGとは、EEGによる支援を受けた自然エネの割合を示している。左の自然エネ電力メニューの場合は、販売電力(電力消費)量における自然エネ電力の割合で、右の平均の場合は発電量における自然エネ電力の割合を示しているため、数値が異なる。
2016年5月27日
https://www.check24.de/
 5  Statista『Wären Sie prinzipiell bereit, für Ökostrom mehr zu bezahlen?』、2016年5月27日
http://de.statista.com/statistik/daten/studie/183752/umfrage/akzeptanz-hoeherer-kosten-fuer-oekostrom/


執筆者プロフィール
林佑志
(はやし・ゆうし)
ドイツ在住10年。ドイツの大学院で環境政策を学ぶ。専門はドイツのエネルギー・環境政策。
現在はベルリンにあるコンサルティング会社で、政策・市場調査を行っている。

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