連載コラム ドイツエネルギー便り

ドイツなしには成り立たないフランスの電力

2015年9月7日 林佑志 在独コンサル会社 欧州環境政策調査員

ドイツの再エネが拡大し、脱原発も順調に進んでいると聞けば必ず出てくるのが「でもドイツはフランスの電力を輸入しており、原発の電力を使っているではないか」という反論だ。

フランスとの関係を見る前にドイツだけを見れば、物理的な電力フローではドイツは35.7TWhの輸出超過であり ⅰ 、発電容量もピーク時をゆうに上回る設備を抱えており、あえてフランスから電力を輸入する必要はない。

欧州送電系統ネットワーク(ENTSO-E)が公表している統計データ ⅱ によれば、物理的な電力フローで見ればドイツはフランスから14,788GWhの電力を輸入しているのに対して輸出はわずかに831GWhであり、フランスの輸出超過である。しかし、フランスの高圧送電系統の運営会社RTEが公表しているデータでは、実際の商業取引ベースで見た場合、2014年にはフランスはドイツから13.2TWhの電力を輸入している一方、輸出はわずかに7.3TWhであり、純粋な電力輸入国となっている ⅲ 

商業取引ベースで見てフランスが純輸入となっている理由は、ドイツとフランスの暖房システムの違いにあり、電気暖房が多いフランスでは国内の発電設備だけでは厳冬期の暖房需要が賄えないためにドイツの電力を輸入していることにある。

一方でなぜ物理的な電力フローで見てフランスが輸出超過になっているのかと言えば、フランスの電力がドイツを経由して他の諸国へと販売されているからである。

参考例としてフランスとイギリス、スペイン及びイタリアを見てみると、ドイツとの違いは明らかである(表1参照)。これを見ると、ドイツのみが商業取引ベースと物理的な電力フローのバランスが逆転している。

表1:フランスと隣国の電力取引と物理的な電力フロー(2014年)

商業取引ベース(TWh) 物理的な電力フロー(TWh)
輸入 輸出 輸入 輸出
ドイツ 13.2 7.3 0.8 14.8
スペイン 2.9 6.5 2.4 5.9
イギリス 0.8 15.9 0.01 15.0
イタリア 0.5 19.8 0.7 15.5
スイス 9.1 25.5 2.9 10.0
出所:各種資料より作成

スペインとフランスの間にはピレネー山脈を通る系統以外に電力をやりとりする手段がほぼないため、商業取引ベースと電力フローの差がほとんどない。このことからスペインはフランスから来た電力をほぼ自国で消費していることがわかる。

イギリスは直接的な系統以外にオランダやベルギーを通る系統も利用できるが、商業取引ベースと物理的な電力フローのバランスは近い。つまりイギリスはフランスの電力をオランダの系統を経由しても一部調達しているが、基本的には直接的な系統での電力取引がベースとなっている。

フランスとイタリアを見た場合、商業取引ベースと物理的な電力フローを見ればその差は4TWhもある。少なくともこれだけの電力がフランス・イタリア間の系統を通らずに、つまりドイツなどを通ってイタリアへ流れ込んでいる。

全く同じことがフランスとスイスの間でも当てはまる。フランスからスイスへの電力輸出は商業取引ベースと物理的な電力フローの間に15TWhもの差がある。スイスがドイツとオーストリアから輸入している物理的な電力フローは合わせて17.3TWhであり、スイスがフランスから購入した電力のうち、直接に系統を通じて送られない電力の多くがドイツとオーストリアを通じて(フランスとオーストリアは国境が接していないので、結局はすべてドイツを通過して)届けられているのである。

まとめると、フランスで生産された電力が物理的にドイツに流れ込んでいるのは確かである。しかし、その多くがドイツの系統を通じてイタリアやスイスへと輸出されており、ドイツはこれらの間のバイパスとなっているに過ぎない。商業取引ベースで見ればフランスはかなりの輸入超過であり、ドイツの電力がなければ冬を乗り切ることが出来ないとさえ言えるだろう。

巷間言われる、ドイツはフランスの原発がなければ成り立たないというのは事実ではなく、むしろドイツがいなければフランスは成り立たないのである。


 ⅰ ENTSO-E、2015年、「Statistical Factsheet 2014」
 ⅱ 同上
 ⅲ RTE、2015年、「2014 Annual Electriciy Report」


執筆者プロフィール
林佑志
(はやし・ゆうし)
ドイツ在住10年。ドイツの大学院で環境政策を学ぶ。専門はドイツのエネルギー・環境政策。
現在はベルリンにあるコンサルティング会社で、政策・市場調査を行っている。

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